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【完結】畑の魔王と光の勇者 ~世界征服よりパンを焼きたい魔王、異世界の魔王にマウントパンチを叩き込む~  作者: 週一週二
序章

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第2話 世界の終わり2

「な……っ!? 何を言っているのよ、そんな……そんな簡単に!!」


 シャロンは唇を噛み、怒りを押し殺すように魔王を睨みつけた。


 その碧眼には激しい困惑と、言いようのない苛立ちが入り混じっていた。


「首を持っていけなんて……! あなたが死んだら、他の魔王はどうなるの!? 世界の平和になんの影響もないなんて、そんな無責任なこと、許されるわけがないでしょ!!」


 対する魔王は、まるで聞き分けの悪い子供を諭すかのような落ち着いた声で答える。


「お前らは根本的に勘違いをしている。俺はここで小麦を育て、粉にして、パンを焼いて静かに暮らしているだけだ。」


 目の前の男が放った言葉は、平穏で日常的だった。


 世界を滅ぼす禍々しい肩書きとは裏腹に、魔王の瞳には悪意の欠片どころか、野心すら見当たらない。


「静かに……暮らしている……? 魔王が、そんなことを……!?」


 聖剣を構えたまま、信じられないものを見るように目を見開く。


「嘘よ、そんなの認められないわ! 魔王であるというだけで、存在そのものが災厄なのよ! 悪いことをしていなくても、あなたがそこにいるだけで、世界は揺らぎ続けるのよ!」


 シャロンは魔王の顔を食い入るように見つめ、その無表情の裏にある真実や企みを暴こうと必死になった。


「あなたの言った事がもし本当なら……どうしてあなたが魔王になったのよ!? 納得できるように説明しなさい!」


 眉一つ動かさず、至極あっさりと答える。


「知らん。気づいたらここに居て、魔王になっていた。俺はただ、実家のパン屋で親父と一緒にパンを焼いていただけだ。」


 荒唐無稽な説明だった。勇者として積み上げてきた常識が、音を立てて崩れていく。


 剣を構えていた腕から力が抜け、剣先が床へと垂れ下がった。


「パン……パンを作っていたら、魔王……?」


 シャロンは呆然と口を開け、魔王を凝視した。


「そんな……そんなの、どんな質の悪い冗談よ!? 運命が、世界がそんな理不尽な理由で動くはずがないわ!」


 構えていた剣を鞘に収めることすら忘れ、彼女はその場に立ち尽くす。


「もし……もし本当にそれが真実だというのなら……私は、一体何を、誰を倒すためにここまで歩いてきたの……!?」


「ちょっとした勘違いは誰にでもある。他の魔王の所に行けばいい。」


「……卑怯よ。」


 剣を握る手に再び力を込めようとしたが、理不尽すぎる状況に、身体が思うように動かない。


「そんな風に、ただの被害者の人間みたいに振る舞って、魔王としての責任から逃げようとするなんて……そんなの、ずるいわ……!」


「そんな事を言われても俺には関係ない。責任も無い。」


 表情を変えず、淡々と言葉を続けた。


「一旦状況を整理するか。俺は魔王という枠組みらしいが、他人に迷惑をかけたりはしない。それでも魔王に違いは無いから斬ると言うなら……好きにしろ。」


 潔すぎる、そして無責任極まりない宣告だった。


 魔王という存在の重みを、まるで道端の石ころのように扱う。その言葉に、シャロンの正義感は行き場を失っていた。


「……好きにしろ、だなんて……そんなの無責任すぎるわ!!」


 碧眼には激しい怒りと共に、どうしようもない無力感が浮かぶ。


 魔王は少し困ったような表情を見せた。


「だから、他の魔王の所に行ってくれ。」


 シャロンは指先に、これ以上ないほどの力を込める。


「あなたが魔王であるという現実を、私が……私がどう受け止めるべきなのか、まだ答えが出ていないのよ! なのに、勝手に一人で結論を出して背を向けないで!!」


「お前が何を言ってるのかわからない。俺を斬るか、他の魔王を斬るか。選択肢はそれしか無いだろう。」


 彼女は何も言い返せず、うつむいた。


 肩を落とすシャロンに対し、魔王は静かに言った。


「お前は多分、善良な人間だろう。俺はお前と戦う理由が無い。」


 その口から漏れたのは、嘲笑でも威嚇でもなく、客観的で理知的な評価だった。

 

 その言葉はシャロンの心に、重く、そして奇妙な熱を持って沈み込んでいく。

 

 しばしの沈黙が、小麦畑を吹き抜ける風の音と共に部屋を支配した。


 やがて、何かを思い至ったように魔王が再び口を開く。


「多分……お前の考えている事がわかった。他の魔王の手掛かりが要るのだろう。手を貸してほしいならそう言え。」


「な……っ!? な、何を……何を言ってるのよ……っ!?」


 シャロンの顔は耳の先まで真っ赤に染まり、言葉を失って激しく動揺する。


「誰が、誰に手を貸してほしいなんて……! あなたみたいなわけのわからない魔王に、協力なんて頼むわけないでしょう!!」


 頭の中は真っ白になった。魔王を討つべきか、去るべきか。先ほどまで悩み抜いていた葛藤すら、魔王の一言によって跡形もなく吹き飛んでしまった。


 泳ぐ視線を彷徨わせながらも、魔王のまっすぐな視線から逃げることができない。


「……っ! あなた、本当に……最低の魔王よ! 魔王のくせに、そんな……そんな風に私を弄ぶなんて……っ!」


 しかし彼女の赤面も怒りも全く気に留める様子もなく、マイペースに言葉を続けた。


「困っているなら教えてやる。たまに来る行商人から聞いた事があるんだが……ここから北の山を一つ越えた麓にも、魔王が居るらしいぞ。」

 序盤のテンポを見直し、第2・3話、第4・5話をそれぞれ統合しました。


 そのため全体の話数が以前より少なくなっていますが、物語の内容に大きな変更はありません。

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