第32話 勇者の帰還
序盤のテンポを見直し、第2・3話、第4・5話をそれぞれ統合しました。
そのため全体の話数が以前より少なくなっていますが、物語の内容に大きな変更はありません。
その絶体絶命の瞬間、カレンの目前に光の幕が展開された。
まばゆい光の幕が、容赦なく振り下ろされた棍棒を正面から完璧に防ぎ切った。
直後、光の幕は激しく散開し、その凄まじい衝撃波でオークを砂の上へと弾き飛ばした。
光の粒子が散ったその瞬間、シャロンは地を蹴って勢いよく駆け出した。
「はぁぁぁぁぁッ!!」
倒れ込んだオークの胸元へ、シャロンは聖剣を突き立てる。
「カレン! 大丈夫!?」
シャロンはすぐさまカレンの傍らへと駆け寄り、抜けなくなっていた銃剣を引き抜いた。
「す、すいません……! 助かりました……!」
「大丈夫! 私が絶対にカバーするから!」
シャロンは荒い息を整え、一呼吸置いてはっきりと言った。
「カレンは困っていた私を助けようとして、一緒にここまで来てくれた! だから今度は、私があなたを絶対に助けたいの!」
先ほどまで近代兵器の凄惨な破壊力に激しく戦慄していたシャロンだったが、大切な仲間を守るという強い意思によって、勇者としての誇りを取り戻していた。恐怖に震えていた両手は、もう完全に止まっていた。
「シャロン……必ず魔物を撃滅させましょう。」
一方、ゼンは群がる魔物の渦の中で、まるで台風のように暴れ回っていた。
その時、魔物の群れの中で、周囲のオークやゴブリンが本能的に道を開け始めた。
同じ魔物でさえ、その存在を恐れている。
それほどまでに、圧倒的な存在感を放つ怪物であった。
ゼンはその異変にいち早く気づき、渦の中から大声を張り上げた。
「カレン! 勇者! デカい奴がそっちへ向かったぞ!」
ゼンの言葉通り、見上げるほど巨大な大オークが、凶悪な殺気を撒き散らしながらシャロンとカレンの元へと足音を立てて迫っていた。
「これくらいなら、大丈夫よ!」
シャロンは迷いなく肯定の返事を響かせた。
そして決意を込めて、カレンに言い放った。
「カレンは下がっていて。私が行くわ。」
シャロンは魔物に向かって歩み寄り、堂々とその目の前に立ちふさがった。自分自身に言い聞かせるように、強く名乗りを上げる。
「オーウェル家当代、シャロン・ルシアン・オーウェルよ! みんなと一緒に、私が勝つわ!」
大オークは怒号とともに、巨大な棍棒を頭上から振り下ろした。
シャロンは後方への歩み足で、まるで通り抜ける薄霧のように滑らかにかわす。振り下ろされた棍棒は大地を砕き、大きなクレーターを作るほどの凄まじい威力であった。
続いて大オークは頭部を狙い、丸太のような棍棒を力任せに横へと振るった。当たればスイカのように頭が砕け散る必殺の一撃。
だが、シャロンは上半身を仰け反らせ、しなやかな柳の木のようにその絶望的な軌道を易々と回避した。
「ハァッ!!」
鋭い掛け声とともに、シャロンは大上段から剣を渾身の力で振り下ろす。
——ガキンッ!!
鋭い金属音が響き渡り、怪物は両手で構えた棍棒でその斬撃を受け止めた。そのままの体勢で両者の力が激しくぶつかり合い、膠着状態が訪れる。
シャロンは両腕に全身の体重を乗せて剣を押し込み、大オークは下からそれを押し返そうとする。
カレンは銃剣を構え直した。
「そのまま抑えていてください! すぐに援護します!」
「カレン、下がっていて。……これは、私がやるわ。」
剣に全身の力を込め、大オークの分厚い棍棒をじりじりと押し込んでいく。
巨大な魔物の醜悪な顔に、次第に焦りと恐怖の色が浮かび始め、足元の岩場にヒビが入っていく。
「お父様、お兄様……お願い……私に『心の力』を貸して……っ!」
シャロンの聖剣に、眩いばかりの黄金の光が集まり始める。
それは単なる魔法の魔力などではない。代々血統とともに受け継がれてきた、気高き勇者の「心」そのものであった。
極限まで高まった力が全身に漲り、一気に剣を押し込む。
「はぁぁぁぁぁッ!!」
——バキィィンッ!!
その勢いのまま振り抜かれた黄金の刃が、大オークの巨体を真っ二つに両断した。
二つに分かれた大オークの死骸が、力無く崩れ落ちていく。
シャロンはその死骸に背を向け、まばゆい光の中で仲間たちへ微笑みかけた。
——勇者は帰還した。




