第31話 brigade(ブリゲイド)
序盤のテンポを見直し、第2・3話、第4・5話をそれぞれ統合しました。
そのため全体の話数が以前より少なくなっていますが、物語の内容に大きな変更はありません。
迫撃砲と機関銃の防衛線を強引に突破した魔物の群れは、ついに三人が陣取る岩場へと到達した。
ゼンは躊躇うことなく群れの真っ只中へと飛び込み、「オラァ!」と怒号を上げながら容赦なく殴り、蹴り、投げ飛ばして屍の山を築いていく。
カレンはその圧倒的な光景を横目で見ながら、ポツリと呟いた。
「……むちゃくちゃですね……あの人は……。」
シャロンも震える膝を奮い立たせ、迫り来る魔物と剣を交えた。
その時、一頭のオークが巨大な棍棒を荒々しく振り上げながら走ってきた。
オークが殺気を放ち、巨大な棍棒をカレンの頭上へ振り下ろした、その瞬間。
カレンは身を翻し、89式小銃の床尾板でオークの顎下を強烈にかち上げた。
激痛でオークが怯む。
カレンは素早く踏み込み一閃、銃剣をオークの胸元深くへと突き刺し、力強く引き抜いた。
オークの一体を仕留めたものの、彼女の呼吸は荒かった。
「……はぁっ、はぁっ……っ!」
激しい緊張で、心拍数が跳ね上がる。
────
カレンは魔王としての能力〈brigade〉を有していた。
生命、または目的の達成に重大な支障が生じ、他に打開する手段が残されていない時。
陸上自衛隊などで使用されている必要最低限の兵器や装備品が、そのままの姿で現出する。
それだけではない。
装備品の使用方法、正確な諸元、運用要領に至るまでの知識が脳内へと直接流れ込んでくるのだ。
だからこそ、彼女は一度も撃ったことのない81ミリ迫撃砲を自在に操り、機関銃を掃射し、小銃による銃剣格闘すらもこなしてみせた。
だが——。
この能力がカレンに与えてくれるのは、あくまで「知識と技術」に過ぎなかった。
彼女自身の筋力も、体力も、身体能力や反射神経も、何一つ強化されるわけではない。
カレンは元いた世界では、陸上自衛隊の「衛生隊員」であった。
普通科などの戦闘職種のように、直接戦闘を主任務とする隊員ではない。
彼女は小柄な身体つきで、身長は150センチ。体重も50キロに満たない女性だった。
100キロを優に超えるオークと、正面から渡り合える体では到底なかった。
今回は運よく床尾板打撃が顎に決まったが、次も同じように上手くいく保証などどこにもない。
「……はぁっ、はぁっ……っ!」
一方、シャロンも剣を振るい、魔物を一体、二体と斬り伏せていた。
だがその時、視界の端でカレンが複数のオークに囲まれていくのが見えた。
「カレン……っ!」
カレンは息を整え、必死に銃剣を構え直した。しかし、今度は二頭のオークに左右から挟み込まれてしまう。
「まずいですね……でも、やるしかありません……!」
決死の覚悟で刺突を繰り出し、目の前のオークの腹部へと銃剣を突き立てた。
しかし、刃は肉の奥深くまで食い込み、うまく引き抜けない。
慌てて足を踏ん張り、なんとか抜こうと必死に引っ張るが、その隙を見逃さず、もう一頭のオークが棍棒を振り上げ、カレン目掛けて叩きつける。
少し離れた場所で別の魔物にトドメを刺していたシャロンが、青ざめた顔でとっさに手を伸ばした。
「カレンッ……!!」




