第30話 boundary(バンダレイ)
迫撃砲による猛烈な砲撃によって敵全体の約四分の一を削ぎ落としたが、魔物たちの狂乱した行軍は止まらない。
仲間が吹き飛ばされようとも意に介さず、圧倒的な密度のままこちらになだれ込んでくる。
シャロンは、死を恐れず前進し続ける魔物の大群の異様さに激しく狼狽していた。
「……っ! どうするのよ!? まだ……まだあんなに残ってるのよ……っ!?」
それらは、あと三分から五分もすればこの岩場へ接触する距離まで迫っていた。
カレンは手際よく砲撃動作を中止する。
「……これより、次の行動へ移ります。」
ゼンは取り残された迫撃砲を指差した。
「カレン。コレはもう使わないのか?」
「近くの目標には撃てません。我が方に落ちる可能性があります。」
カレンは素早く岩場を下り、一段下の射撃陣地へと移動した。
「ゼンはシャロンの近くにいてサポートを! シャロンは無理をしなくて良いですよ!」
そこに備え付けられていたのは、黒く武骨な銃身を持つ軽機関銃であった。
薄い金属製の弾帯が砂の上へと長く伸び、連結された無数の黄銅色の弾丸が朝日にギラリと光を反射している。先ほどの81ミリ迫撃砲とは異なり、一人の兵士でも携行し、射撃できる火器であった。
カレンは迷うことなく弾帯の装填を確認し、その場に腹這いになり伏射姿勢を取った。
「両耳をしっかり塞いでください!」
——ダダダダダダダダダダッ!!
凄まじい発射音とともに、空薬莢と金属製のリンクが激しく飛び散り、無数の弾丸が火花を散らして魔物の群れを容赦なく貫いていく。こちらに向かって突進してくる魔物の前衛が、なすすべなく次々と肉塊へと変えられ、無力化されていった。
——ダダダダダダダダダダッ!!
なおも続く銃声。魔物の屍の山が築き上げられていく。
先ほどカレンが口にした「撃滅させる」という言葉通りの、冷徹な戦闘行動であった。
シャロンは、目の前で繰り広げられる非現実的な光景に、言葉を失って立ち尽くすことしかできなかった。
ただ、無機質な鉄の咆哮が、恐ろしい魔物の群れを一方的に薙ぎ倒していく。
「……嘘、でしょ……? ……いったい……なんなのよ……これは…っ!」
——ダダダダダダダダダダッ!!
最前列の魔物が倒れる。
その惨状に、後ろにいた魔物が一瞬だけ足を止めた。
しかし、さらに後続の魔物は、仲間の死体を容赦なく踏み越えて前へ押し寄せてくる。まるで彼らには、恐怖という感情そのものが存在しないかのようだった。
——ダダダダダダダダダダッ!!
カレンは弾幕を張り続け、迫る魔物を次々と無力化していくが、それでも群れの行軍は止まらない。
死骸の下を這うように前進してくる者、仲間の死骸を盾代わりに構えて突進してくる者など、魔物たちは我が身を惜しまず肉迫してくる。
ゼンが叫んだ。
「おい! カレン! 抜かれるぞ!」
「言われなくても分かってるって!! 二人は近接格闘の準備をして!」
魔物たちの死をも恐れぬ狂乱の前進により、ついに機関銃の防衛線は突破され、一気に近接戦闘の距離へと持ち込まれた。
カレンは機関銃から手を離すと、立ち上がって叫んだ。
「友軍相撃の恐れがあるため、これより射撃は行いません! 各員で魔物に対峙してください!」
目の前には、先ほどまで遠距離から吹き飛ばされていたはずの猛獣やオークたちが凄まじい殺気を放って迫っている。
砲も銃も使えない、目と鼻の先での白兵戦であった。
シャロンは震える手で剣を引き抜いた。
これまで何度も握りしめ、自分を支えてきたはずの剣が、今はひどく頼りなく、小さく感じられた。
カレンは89式小銃の先端に銃剣を着剣した。
ゼンは、静かに地面を蹴ってステップを踏み、両拳を中段に構えた。




