第21話 スープ3
「な、何よそれ……っ! 『がんばれ』だなんて……っ! 分かってるわよ! あなたにそんなこと言われなくたって、私は私の進むべき道を……っ!!」
北の魔王を倒した。
間違いなく、歴史に刻まれるべき偉業を達成したはずだった。
それでも、これから先の道が自分一人では暗く険しいことを、シャロンは今、初めて身に沁みて実感していた。一人で背負う世界の運命が、これほどまでに冷たく、重いものだとは知らなかった。
ゼンから素っ気なく「頑張れ」と投げかけられた瞬間、これまでに感じたことのない、底冷えするような強烈な心細さが彼女の胸を固く締め付けた。
ゼンは静かに言った。
「手を貸して欲しければそう言え。」
シャロンは悔しそうに唇を強く噛み締め、視線をあちこちへ彷徨わせる。
代々魔王と死闘を繰り広げてきた勇者の血統。その一族は、魔を退ける光の力も代々受け継いできた。
幼い頃から「魔王を討つ者」として育てられてきた彼女にとって、魔王へ助けを求めることは、自らの誇りを否定することと同じだった。
「……っ! 二回も……二回も勇者が魔王に助けを求めるなんて……そんなの、出来るわけないじゃない……っ!」
「そうか。……わかった。」
「あ……っ、ちょっと……待って!! 勝手に、勝手に話を終わらせないでよ……っ!!」
「……なんだ?」
シャロンは溢れ出る感情を抑えきれず、震える声で叫んだ。
「……っ、……助けて……っ!!」
「助けて……っ、ゼン……! 魔王討伐を……私を手伝って!!」
勇者としての誇りも、積み上げてきた正義も、すべてを脱ぎ捨てた剥き出しの懇願。
それはあまりに弱々しく、けれど彼女がこれまでの人生で一度も口にしたことのない、最も純粋な魂の叫びだった。
ゼンは小さく声を発した。
「……しょうがない。手を貸そう。」
「……本当……? 本当に、いいの……? 私、……っ、またあなたに、たくさんの迷惑をかけるかもしれないのよ……っ!!」
絶望の深い底から、強引に救い出されたような感覚。彼女の心を覆い尽くしていた暗雲は、彼の承諾という一筋の温かな光によって、綺麗に霧散していった。
ゼンは淡々と言った。
「とりあえず、一度王都に帰った方がいい。」
「……っ、そうね……そうよね……っ!! 一旦、王都に戻って北の魔王討伐の報告をしないと……っ!!」
激しい動揺の果てに、ようやく現実的な思考がシャロンの頭に蘇ってきた。
北の魔王討伐の報告とともに、畑の魔王ゼンとの奇妙な協力関係。
その事実を王都の幹部たちに伝えるべきか、あるいは伏せるべきか。彼女の胸には、まだ拭い去れない困惑が渦巻いている。
「北の魔王討伐の証拠だ。これを持っていけ。」
ゼンが差し出したのは、先ほどの死闘で砕け散った北の魔王の漆黒の兜の破片だった。
手の中に残る、不気味なほど冷たく硬い金属の感触。
それは紛れもなく、世界を恐怖に陥れていた北の魔王がもはやこの世に存在しないという、動かぬ事実の証明だった。
「じゃあな。報告が終わって準備ができたら、またここで。」
シャロンは手元の、とっくに冷めきったスープを一気に飲み干した。
「……わかったわ! 準備が整ったら、必ずまたここに来るわね!!」




