第14話 北の魔王3
漆黒の刃が、まるで天から降り注ぐ断頭台のように振り下ろされた。
この攻撃も剣技の域を遥かに超えていた。
空間そのものを粉砕する膨大な破壊のエネルギーの放出。
視界を黒く染め上げるほどの圧倒的な光が大地を激しく穿ち、周囲の地形を文字通り消し飛ばすほどの爆炎と激震が駆け抜ける。
「あああああっ!! ゼンッ!!」
爆発的な衝撃波と土煙に飲み込まれそうになりながら、シャロンは喉が引きちぎれるほど絶叫した。
「逃げて……お願いだから、逃げてぇぇっ!!」
地響きと爆音に全身を震わせ、前が見えない絶望と恐怖の中で、彼女はただ彼が生きていることだけを願い、祈るように両拳を強く握りしめた。
しかし、光と爆炎が収まりかけたその直後。
ゼンは北の魔王の背後にいた。
漆黒の剣が地表を砕く、まさにその一瞬。
ゼンは振り下ろされた大剣の軌道をなんとかかわすと、その勢いのまま北の魔王の懐へ密着した。
次の瞬間には、その巨体の真後ろへ回り込んでいた。
そして重厚な巨体を背後から強引に抱え込むと、両腕で魔王の胴体を締め上げ、自らの手首を固く組み付けた。
そのまま全身を一気に反らせ凄まじい力で、後方へ向けて豪快なバックドロップで投げ放った。
——ズドォンッ!!
落雷のような轟音とともに、北の魔王は重力に従って固い地面へと力任せに叩きつけられた。
「……っ!? な、何が起きたの……!? いつの間に……っ!?」
爆煙が薄れるとともに広がった信じられない光景を目にして、シャロンは口を半開きにしたままただ呆然と立ち尽くした。
「嘘、でしょ……? あの、絶対的な死の一撃を……躱しただけじゃなくて、そのまま力任せに投げ飛ばすなんて……っ!!」
「どうだ! 北の魔王!!」
凄まじい衝撃と共に大地が深く揺れ、大量の砂塵が舞い上がる。北の魔王が叩きつけられたクレーターの淵で、ゼンは勝利を確信したかのような、身勝手で威勢のいい怒声を響かせた。
世界を震撼させるはずだった魔王同士の死闘は、もはやただの理不尽で荒々しい「喧嘩」へと変貌していた。
「……はぁ!? もう、本当に何なの……っ!!」
激しい緊迫感からの脱力感と、ゼンの無礼で品のない言動に、シャロンは剣を構えたまま頭を抱えたくなる衝動を必死で抑え込んだ。
「魔王に向かってコラァとかコノヤローとか……! あなただって魔王の端くれなんでしょう!? もう少し威厳と品格を持って戦えないの!? 私まで恥ずかしくなってくるわよ!!」
だがその時、爆炎と砂塵が舞うクレーターの底から、漆黒の鎧がゆっくりと、しかし確実に立ち上がってきた。
叩きつけられた凄まじい衝撃など最初から存在しなかったかのように、北の魔王は一切のブレもなく、ただ静かに、そして冷酷な絶対的威圧感を撒き散らしながら、ゆっくりと大剣を持ち上げた。
「……あぁ……?」
ゼンの口から、不機嫌そうな低い声が漏れ出た。
飛び膝蹴りとバックドロップ。確実に仕留めたと思った二つの技が、まるで通用していない。
ゼンはわずかに驚きを見せたが、すぐに気持ちを切り替えた。
立ち上がった北の魔王を静かに見据えるその瞳には、本気の闘志が宿っていた。




