第13話 北の魔王2
「来るわ……っ!!」
言葉なき漆黒の意思が、凶悪な黒光りを放つ大刃に乗って解き放たれた。
横薙ぎの一閃。それは単なる剣技などという生易しいものではなく、周囲の空間そのものを力任せに断ち切るかのような、質量を持った黒い斬撃波となってゼンへと襲いかかる。
空気が切り裂かれて甲高い悲鳴を上げ、地面が激しく爆ぜるほどの衝撃波が、視界の全てを飲み込もうと一直線に奔った。
「勇者! お前は一旦下がってろ!!」
漆黒の斬撃が地表を深く削り取り、強烈な爆煙と土煙が舞い上がる。
しかし、その絶対的な破壊の奔流を、ゼンはまるで重力を無視したかのような超人的な跳躍で飛び越えかわしてみせた。
着地と同時に地面を爆破するように蹴りつけ、恐ろしい加速を見せる。
その姿はもはや人間の動体視力では追いきれない弾ける閃光のようであり、その勢いのまま空中で身体を絞り込み、北の魔王の兜へ向けて鋭い飛び膝蹴りを叩き込んだ。
「速いわっ! それに、そのまま接近戦に持ち込んだ……!?」
間髪入れぬ接近戦の渦中、ゼンは北の魔王が繰り出す一振りの袈裟斬りを、獣のような身のこなしで紙一重に回避する。
そして生じたわずかな隙を見逃さず、漆黒の鎧の継ぎ目——右脇腹の薄い部分へ向けて、強烈な打撃を叩き込んだ。
しかし、北の魔王の戦闘本能はゼンの予想を遥かに超えていた。
衝撃を受けたその瞬間、魔王は無言のまま大剣の柄頭を閃かせ、ゼンの左脇腹へ寸分の狂いもなく鋭いカウンターを打ち込んだ。
——ゴッ!!
落雷のような鈍い衝撃音が炸裂した。
その苛烈な攻防に、シャロンは呼吸することすら忘れるほどの緊張に包まれた。
「ゼンッ!! そんな……っ! 互いに一瞬の隙すら見逃さないなんて……っ!!」
「……なんだぁ、テメェは……っ」
ゼンは攻撃を受けた脇腹を片手で固く押さえながら、不機嫌そうにゆっくりと顔を上げた。
「……今の飛びヒザは、完全に入ったはずだ……。」
ゼンの身体が内部からの衝撃に耐えかね、ガクリと地面に片膝をつく。
その瞬間、北の魔王は一切の容赦を捨てた。
漆黒の剣を高々と掲げ、天を突くような大上段に構える。
一連の動作に伴う静寂は、次に振り下ろされる一撃が存在を無へ帰すという、絶対的な死の宣告であった。
「嫌……っ!! やめて!!」
膝をついたゼンの無防備な姿に、シャロンは絶望に近い悲鳴を上げた。必死で聖剣を握りしめる手は、激しい恐怖で震えが止まらない。
「そんな……っ! 動いてよ! ゼン、お願いだから……早く逃げてっ!!」




