表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/9

1章 5.5話 幕間ー召喚祭

召喚の儀が終わった夜。


王都ルミナリアは、まだ昼間の熱をそのまま引きずっていた。


石畳の通りには灯りが並び、風に揺れる旗が柔らかく光を反射する。

屋台からは香辛料の香りが漂い、どこか遠くで音楽が鳴っている。


まるで、国全体がひとつの舞台装置のようだった。



「では皆さん、こちらへ」


穏やかな声が三人を導いた。


案内役の女性は、淡い青の制服を身につけている。

柔らかい笑みを浮かべながらも、その動きは迷いがない。


歩く速度も、視線の配り方も、すべてが整っていた。


「今日は“召喚祭”の日です。皆さんの到来を祝う日でもあります」


「お祭り、ってことですか?」


神崎玲司が周囲を見回しながら尋ねる。


「はい。国にとって、とても大切な日です」


女性は軽く頷いた。


その言葉は丁寧で、誇りを含んでいた。


だが重さはない。

ただ“事実としてそうである”という説明だった。



大通りに出た瞬間、空気が変わった。


歓声。


拍手。


笑い声。


「見て!今年の転移者だ!」


「おお、思ったより若いな!」


「去年より雰囲気いいんじゃないか?」


人々は柵越しに三人を見ながら、楽しげに声を上げていた。


それは祝福というより、むしろ“観客の興奮”に近い。


だが不思議と、悪意はない。


むしろ純粋だった。



「……なんか、すごいな」


藤堂悠人が小さく呟く。


「歓迎っていうか……注目されすぎじゃね?」


「そうだね……でも、嫌な感じはしないよ」


朝倉美咲が少し緊張しながらも周囲に手を振ると、観客から小さな歓声が返ってくる。


「おー!いい反応だな!」


誰かが笑った。


その軽さに、玲司も思わず苦笑した。


「なんか……有名人になったみたいだな」



通りは続く。


屋台では串焼きが焼かれ、果物が並び、子供たちが駆け回っている。


そのすべての中心に、“彼ら”がいる。


けれど不思議なことに、押し付けられるような圧はない。


まるで、舞台の主役として正しく配置された存在のようだった。



「今日の皆さんは、この国の“主役”です」


案内役の女性が、何気ない口調で言った。


「主役……」


玲司が繰り返す。


「はい。ですので、どう過ごすかは自由です。街を見て、感じてください」


その言葉は軽い。

だが同時に、明確でもあった。



夜が深まるにつれ、祭りはさらに賑やかになった。


広場では簡易の舞台が組まれ、音楽が始まる。

人々は笑いながら踊り、酒ではなく果汁の飲み物を手にしている。


「すごい……ほんとに祭りだね」


美咲が目を輝かせる。


「こういうの、悪くないな」


悠人も肩の力を抜いたように笑った。


玲司は少し離れた場所から街を見渡しながら、小さく息を吐く。


「……期待されてる、ってことなんだよな」



夜、神殿へ戻る道。


三人は少し疲れながらも、どこか満足げだった。



「今日、すごかったね」


美咲が歩きながら言う。


「うん。なんか……思ってたよりずっと歓迎されてた」


玲司が頷く。


「俺たち、結構重要な存在なのかもな」


悠人が少し笑う。


「まあ、主役って言われたしな」



神殿の廊下は静かだった。


外の喧騒が嘘のように遠い。


案内役は扉の前で軽く一礼する。


「今日はお疲れさまでした。明日、改めて詳しい説明を行います」


「それでは、良い夜を」



扉が閉じる。



部屋に残された三人は、しばらくそのまま立ち尽くしていた。


やがて、美咲がぽつりと呟く。


「なんか……ほんとにすごい一日だったね」


「うん。夢みたいだった」


玲司がベッドに腰を下ろす。


「でもさ」


悠人が天井を見上げながら続ける。


「明日から、ちゃんとやれる気がするよな」


少し間を置いて、笑う。


「冒険者とか、さ」



その言葉に、三人とも少しだけ笑った。


不安はある。


でも、それ以上に。


期待されているという実感が、確かにそこにあった。



窓の外では、まだ祭りの余韻が続いている。


遠くの光が揺れていた。


まるで、この国そのものが呼吸しているように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ