1章 5.5話 幕間ー召喚祭
召喚の儀が終わった夜。
王都ルミナリアは、まだ昼間の熱をそのまま引きずっていた。
石畳の通りには灯りが並び、風に揺れる旗が柔らかく光を反射する。
屋台からは香辛料の香りが漂い、どこか遠くで音楽が鳴っている。
まるで、国全体がひとつの舞台装置のようだった。
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「では皆さん、こちらへ」
穏やかな声が三人を導いた。
案内役の女性は、淡い青の制服を身につけている。
柔らかい笑みを浮かべながらも、その動きは迷いがない。
歩く速度も、視線の配り方も、すべてが整っていた。
「今日は“召喚祭”の日です。皆さんの到来を祝う日でもあります」
「お祭り、ってことですか?」
神崎玲司が周囲を見回しながら尋ねる。
「はい。国にとって、とても大切な日です」
女性は軽く頷いた。
その言葉は丁寧で、誇りを含んでいた。
だが重さはない。
ただ“事実としてそうである”という説明だった。
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大通りに出た瞬間、空気が変わった。
歓声。
拍手。
笑い声。
「見て!今年の転移者だ!」
「おお、思ったより若いな!」
「去年より雰囲気いいんじゃないか?」
人々は柵越しに三人を見ながら、楽しげに声を上げていた。
それは祝福というより、むしろ“観客の興奮”に近い。
だが不思議と、悪意はない。
むしろ純粋だった。
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「……なんか、すごいな」
藤堂悠人が小さく呟く。
「歓迎っていうか……注目されすぎじゃね?」
「そうだね……でも、嫌な感じはしないよ」
朝倉美咲が少し緊張しながらも周囲に手を振ると、観客から小さな歓声が返ってくる。
「おー!いい反応だな!」
誰かが笑った。
その軽さに、玲司も思わず苦笑した。
「なんか……有名人になったみたいだな」
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通りは続く。
屋台では串焼きが焼かれ、果物が並び、子供たちが駆け回っている。
そのすべての中心に、“彼ら”がいる。
けれど不思議なことに、押し付けられるような圧はない。
まるで、舞台の主役として正しく配置された存在のようだった。
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「今日の皆さんは、この国の“主役”です」
案内役の女性が、何気ない口調で言った。
「主役……」
玲司が繰り返す。
「はい。ですので、どう過ごすかは自由です。街を見て、感じてください」
その言葉は軽い。
だが同時に、明確でもあった。
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夜が深まるにつれ、祭りはさらに賑やかになった。
広場では簡易の舞台が組まれ、音楽が始まる。
人々は笑いながら踊り、酒ではなく果汁の飲み物を手にしている。
「すごい……ほんとに祭りだね」
美咲が目を輝かせる。
「こういうの、悪くないな」
悠人も肩の力を抜いたように笑った。
玲司は少し離れた場所から街を見渡しながら、小さく息を吐く。
「……期待されてる、ってことなんだよな」
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夜、神殿へ戻る道。
三人は少し疲れながらも、どこか満足げだった。
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「今日、すごかったね」
美咲が歩きながら言う。
「うん。なんか……思ってたよりずっと歓迎されてた」
玲司が頷く。
「俺たち、結構重要な存在なのかもな」
悠人が少し笑う。
「まあ、主役って言われたしな」
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神殿の廊下は静かだった。
外の喧騒が嘘のように遠い。
案内役は扉の前で軽く一礼する。
「今日はお疲れさまでした。明日、改めて詳しい説明を行います」
「それでは、良い夜を」
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扉が閉じる。
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部屋に残された三人は、しばらくそのまま立ち尽くしていた。
やがて、美咲がぽつりと呟く。
「なんか……ほんとにすごい一日だったね」
「うん。夢みたいだった」
玲司がベッドに腰を下ろす。
「でもさ」
悠人が天井を見上げながら続ける。
「明日から、ちゃんとやれる気がするよな」
少し間を置いて、笑う。
「冒険者とか、さ」
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その言葉に、三人とも少しだけ笑った。
不安はある。
でも、それ以上に。
期待されているという実感が、確かにそこにあった。
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窓の外では、まだ祭りの余韻が続いている。
遠くの光が揺れていた。
まるで、この国そのものが呼吸しているように。




