表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

1章 第4話 灰の国、バルドア

2026/05/18

人物名に誤りがあったため修正しました。

――大陸南西部。


バルドア王国。


五大国家の中で、

最も貧しく、

最も小さな国。


石壁には、

何度も補修された跡が残っている。


崩れた箇所へ、

別の石材を無理やりはめ込んだような継ぎ接ぎ。


木造家屋も同じだった。


色も材質も違う板が並び、

割れた窓には布が垂らされている。


屋根の上には、

雨漏り対策なのか、

別の建物から外したような板が重ねられていた。


道は土のまま。


荷車の轍が深く刻まれ、

昨日降った雨でぬかるんでいる。


風が吹くたび、

古びた建物が軋む音がした。


決して、

住みやすい国ではない。


だが。


人は、生きている。



王都中央神殿。


薄暗い石造りの空間。


豪華な装飾は一切ない。


長い年月を耐え続けたような、

古い召喚陣だけが、

床に刻まれていた。


その周囲で、

神官達が静かに祈りを捧げている。


誰も笑っていない。


けれど。


絶望しているわけでもなかった。


ただ、

張り詰めている。


「……魔力集積、安定しています」


「術式維持、問題ありません」


「召喚可能です」


報告が続く。


その声は、

どこか硬かった。



祭壇前。


王が静かに目を開く。


壮年の男。


豪奢な王衣ではなく、

修繕された痕のある厚手の外套を纏っている。


疲労の色が濃い。


「始めよう」


短い言葉。


神官達が一斉に術式を起動した。



空間が震える。


床に刻まれた紋様が淡く発光し、

神殿全体へ光が走る。


重い圧力。


空気の歪み。


そして。


白い光が召喚陣から溢れ出した。



数秒後。


光が収まる。


そこに立っていたのは、

三人の少年だった。



「……は?」


最初に声を漏らしたのは、

短髪の少年。


灰崎迅。


周囲を見回し、

眉をひそめる。


「どこだよここ……」


その隣。


瀬名湊が、

不安そうに辺りを見ていた。


「え……待って、

これ、どういう……」


最後の一人。


奥村圭は、

何も言わない。


ただ、

静かに召喚陣を見下ろしていた。



神殿内は静まり返っている。


召喚成功。


それは間違いない。


なのに。


歓声はない。


誰も、

大成功を喜ぶような顔をしていなかった。


安堵。


疲労。


張り詰めた何か。


そんな感情ばかりが漂っている。



やがて。


年老いた司祭が、

ゆっくり前へ出た。


「……ようこそ、バルドア王国へ」


静かな声。


「突然のことで混乱していると思います」


「ですが、どうか安心してください」


「我々は、皆さんを歓迎します」


深く頭を下げる。


神官達も続いた。


その姿に、

迅達は戸惑ったように顔を見合わせた。



「……なんか」


迅が小さく呟く。


「思ったより普通だな」


「もっとこう……

王様ー!救世主だー!みたいな感じかと」


「迅、それ今言う……?」


湊が小声で止める。


だが。


その視線は自然と周囲へ向いていた。


擦り切れた神官服。


ヒビの入った壁。


削れた石床。


足りていない燭台。


どこを見ても、

“余裕”が感じられない。


「……この国、結構貧しい?」


湊の言葉に、

近くの神官が少しだけ目を伏せた。



王が静かに口を開く。


「その通りです」


隠す様子はない。


「この国は豊かではありません」


「皆、

必死に生きています」


真っ直ぐな声だった。


誤魔化しも、

綺麗事もない。


だからこそ、

三人もすぐには言葉を返せなかった。



神殿の外。


雨が降り始めていた。


古びた屋根を、

静かに雨粒が叩いている。



王都の通りでは、

召喚成功の話が少しずつ広がっていた。


「今年も来てくれたんだな……」


「助かった……」


「これで少しは持ち直せる……」


そんな声が聞こえる。


だが。


誰も浮かれてはいない。


笑顔の奥に、

どこか拭えない影が残っていた。



神殿から居住区へ案内されながら、

迅が周囲を見回す。


「うわ……

家すげぇな……」


板を継ぎ足した壁。


布で塞がれた窓。


歪んだ扉。


まるで、

“壊れたものを直し続けている国”

だった。



だが。


通りを歩く子供達は、

三人を見て目を輝かせていた。


「召喚された人だ!」


「今年の人達だ!」


「お兄ちゃん達!」


無邪気に駆け寄ってくる。


迅が思わず苦笑した。


「うお、近い近い」


「ほんとにいたんだ……!」


「すげぇ……!」


小さな子供達は、

不安より好奇心が勝っているらしい。



その様子を見ていた大人達は、

どこか安心したように微笑んでいた。


けれど。


その笑顔は、

少しだけ寂しそうにも見えた。



「……変な国だな」


迅がぽつりと呟く。


「歓迎されてるのに、

なんか全員、辛そうな顔してる」


その言葉に、

案内役の女性神官が一瞬だけ黙る。


だが。


「皆、生きることに必死なのです」


そう答え、

また前を向いて歩き始めた。



雨音だけが、

静かに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ