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3-1 解隊式

 ――王城。

 

 謁見の間への大扉が、低く重い音を響かせながら開かれた。


 磨き抜かれた白大理石の床は、天井から差し込む光を水面のように映し返し、列をなして進む者たちの姿を淡く揺らしていた。高く伸びる柱には、この国の歴史が精緻な彫像となって、静謐な威圧をもって参列者を見下ろしていた。


 扉から玉座へと深紅の絨毯が一直線に伸びている。


 左右には諸侯と廷臣が列をなし、その後方には宝石と絹に身を包んだ婦人たちが控えている。彼らの視線は穏やかに見えて、実のところ鋭い。観察し、比較し、記憶する――宮廷に生きる者の眼差しである。


 彼らの視線の先、赤絨毯の手前には、討伐軍より選抜された兵士たちが整列していた。先頭には各隊を率いた上級指揮官が並ぶ。


 やがて廷臣の声が高らかに響く。


「これより、此度の魔物討伐における功を糺し、これを賞す」


 玉座にある王が静かに頷くと、側近が一歩進み出で、功をなし名を上げた者の名を呼ぶ。


 恩賞は、領地、金、役職、爵位と様々であったが、そのすべてが明確な序列として積み上がっていった。


 トウジは、その光景を見ていた。自分が関わった戦いが、こうして秩序だった言葉に置き換えられ、評価として積み上げられていく。それをどこか遠いもののように感じながら、ただ目で追っていた。


 やがて最後の名が読み上げられ、指揮官たちは左右に分かれて下がる。中央に空白が生まれると、自然と視線が扉近くに控えていた四人へと集まった。


 廷臣の声が、わずかに調子を変える。


「――次に、特務任務において殊功を立てし者」


 どよめきが広がる。


「勇者トウジ・アイヒラー殿、ならびにその一行」


 さらにどよめきが広がる。勇者、という言葉への反応だろう。


 ただ、玉座に近い列の数人だけは、少し違う顔をしていた。


 トウジは一瞬だけ息を止め、それから前へ踏み出した。赤い絨毯を進む間、先ほどとは明らかに異なる密度の視線が集まる。好奇、評価、そして測る視線。

 王を直視することなく視線を落とし、定められた位置で片膝をつき、拝跪する。エストに繰り返し叩き込まれた所作を、身体がなぞる。


 廷臣が読み上げる。


「同人、討伐行において先鋒を務め、首魁級魔物二体を単独にて撃破。さらに眷属群を殲滅し、討伐軍主力の損耗を著しく軽減せり。また遠征先集落において非戦闘員の保護・救出を完遂し、死者を一人も出さず任務を終えしこと、まことに顕著なる功と認む」


 言葉は簡潔でありながら、その意味は重い。積み上げられた実績と、最後に成し遂げた完全な勝利が、ここで明確に示される。


 「首魁級を二体?」 「死者なし?」 居並ぶ貴族たちの間に驚愕がざわめきとなって広がっていく。


 王の声が落ちた。


「面を上げよ」


 一度では動かない。間を置いて、もう一度。


「よい、面を上げよ」


 トウジはゆっくりと顔を上げた。王と視線が合う。遠い。だが確かに、こちらを見ている。


「マルヴォロス公より仔細の報を受けておる。よくぞ民を守り、軍を守った。見事な活躍であったな」


 短い言葉。しかし、それは王自らが功を認めたという何よりの証だった。居並ぶ貴族や婦人たちの間に、抑えきれぬ驚きが静かに広がる。


 側近が羊皮紙を掲げる。


「王命により、その功を賞し、金貨二百枚および宝飾一式を下賜する。あわせて王国名誉騎士の称号を授与し、以後その名を王国に列するものとする」


 トウジは、それを聞いていた。確かに聞いているはずだったが、どこか実感が伴わない。自分の行いが、自分のものとして結びついてこない。


 やがて拍手が起こる。整然とした、抑えられた拍手。それは確かな評価であり、この場における承認だった。


 ――それでも。


 胸の奥に、ほんのわずかな違和感が残る。理由は分からない。ただ、この場所に立っていることが、どこか自分に馴染んでいなかった。


「ふぅ……」 背後から、小さな吐息が聞こえた。


 振りかえることはできなかった。それでも、誰のものかはわかった。


 エストが今どんな顔をしているのは、なんとなくわかる気がした。

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