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2-8 就活

「……へっ?」


 誰かが言う。


 そして。


「はぁ!?」


 爆発した。


「抜けたぞ!?」


「盾、意味ねえじゃねえか!」


「今どうやった!?」


「なんかよ、ぐにゃ!って!!」


 大騒ぎになる。


 男はゆっくり後ろを振り返る。トウジはすでに男の斜め後方で、剣をダランと下げ立っている。


 理解が追いつかない。


「……てめえ」


 トウジを見る目に笑いはない。


 明確に警戒する目になっている。


 オルドが笑う。


「見た目で判断するなって、こったな」


 周囲がざわめく。


 さっきまでの空気が完全に変わる。


 トウジはまだ困った顔のままだ。


「えっと……これで、働けますか?」


 一瞬、回りの全員が呆気にとられる。


 誰かが吹き出した。


「ぶははっ!」


「いいじゃねえか!」


「面白え!」


「入れろ入れろ!」


 笑いが広がる。


 敵意は消えていた。


 興味に変わっている。


 焚き火が弾ける。


 オルドは肩をすくめた。


「まあ、こんなもんだ」


 トウジはよく分からないまま頷いた。


「おい、もう一回やれ!」


「次は俺だ!」


「いやオレだ! 今の、もう一回見せろ!」


 円が崩れない。むしろ人が集まってきて騒ぎが広がる。


 別の男が前に出る。


 双剣。


 軽い足取り。


「じゃ次は、俺様の番な。さっきの、偶然じゃねえよな?」


 にやりと笑う。


 完全にやる気だ。


 トウジは少し困った顔をする。


「えっと……」


「ほら構えなっ!」


「よっしゃやれやれ! 逃げんなよ~!」


 回りにひしめく観衆の熱が上がる。


 いよいよ、始まろうとする、そのとき。


「――おいおい、元気だなあ」


 場違いな声が落ちた。軽い。拍子抜けするくらい。


 だが。


 空気が止まった。


 円の外側に、ひとり立っている男。


 丸腰でしかも平服。場違いも甚だしい。


 威圧はない。なのに、誰も近づかない。


「新人いびりはほどほどにしとけって、何回言えば覚えるんです?」


 頭をかきながら、ゆっくり歩いてくる。


 その動きだけで、円が自然に割れる。


「……なんだよ、いいとこだったのによ」


 その声がしたほうへ、チラリと目線を流して。


「ここで騒ぎを起こすなってるでしょ。うちはただでさえ睨まれてるんだからさ」


 軽く言う。


 軽いのに、誰も逆らわない。


 双剣の男も舌打ちして下がる。


 男は円の中に入ると、トウジをちらっと見る。


 それだけで十分だったらしい。


「へえ」


 短く笑う。


 オルドが手を挙げた。


「よう」


「お、まだ死んでなかったか」


「そっちこそな」


 周囲がざわつく。


 距離が近い。


 トウジが首を傾げる。


「知り合いですか?」


「腐れ縁だ」


 オルドが即答する。


冒険者ギルド(ヴァルグラム)王都(フィオル)支部の支部長様。業界じゃ一応有名……か?」


 さらっと言う。


 トウジが一瞬止まる。


「え」 支部長をまじまじと見る。「え?」


「一応はないでしょう」


 オルドの戯言を軽く流して、トウジを見る。


 気軽な顔のまま。


 だが、目だけが違う。


 足元、重心、手元――一瞬で見て、終わる。


「……あー、なるほど」


 納得したように頷く。


 オルドが笑う。


「分かるだろ」


「分かる分かる。めんどくさいやつだこれ」


 さらっと言う。褒めているのか貶しているのか分からない。


 また周囲がざわつく。


 トウジはとりあえず頭を下げた。


「トウジです。仕事を探してて……」


「うん、見てた、見てた」


 軽く手を振る。


「さっきのいいじゃん。あれ」


 ヘラリと笑いながら、さらに軽い口調。


 だが、周囲がその言葉にさらにざわつく。


「ここでやるのはもったいないねぇ」


 ぽつりと言う。


王都(フィオル)の支部においで」


 あっさり。


「ちゃんとした試験、そっちでやるから」


「え、今じゃなくて?」


 トウジが聞く。


 支部長は肩をすくめる。


「いや~、やってもいいけどさ」


 周囲をちらっと見る。


 ニヤッと笑う。


「こいつら、たぶん壊れるでしょ?」


「……マジか?!」


「鬼があんなに楽しそうに……」


「やべぇ……やべぇ……」


 ざわつきが、広がる。


 全員が、半分本気で嫌がっている。


 支部長はそれを見ながら楽しそうに笑う。


 オルドが肩をすくめる。


 最初っからこうなることはわかっていたようだった。


 支部長はトウジに向き直る。


「来る気ある?」


 軽い問い。


「あります」


 即答した。


「ん」


 支部長はくるっと背を向ける。


「じゃ、王都(フィオル)で」


 手をひらひら振る。


「はいはーい、ほらほら輪解いて~。騒いじゃダメよ~」


 道が自然に空き、その中を飄々とした様子で去っていく。


 残された空気が、じわっと戻る。


「……なんかやべぇもん見たなぁ」


「ずりぃぞ」


「いきなり王都(フィオル)送りとかありえんだろう」


 ざわめき。


 悔しさと、妙な納得。


 トウジはまだよく分かっていない顔だった。


「えっと……行けばいいんですかね?」


 オルドが笑う。


「行くしかねえだろが」


 焚き火が弾ける。


 夜が少しだけ賑やかになる。

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