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転生勇者の再就職  作者: 三連九
第2章 行き先
15/65

015 就活

「……へっ?」


 誰かが言う。


 そして。


「はぁ!?」


 爆発した。


「抜けたぞ!?」


「盾、意味ねえじゃねえか!」


「今どうやった!?」


「なんかよ、ぐにゃ!って!!」


 大騒ぎになる。


 男はゆっくり後ろを振り返る。トウジはすでに男の斜め後方で、剣をダランと下げ立っている。


 理解が追いつかない。


「……てめえ」


 トウジを見る目に笑いはない。


 明確に警戒する目になっている。


 オルドが笑う。


「見た目で判断するなって、こったな」


 周囲がざわめく。


 さっきまでの空気が完全に変わる。


 トウジはまだ困った顔のままだ。


「えっと……これで、働けますか?」


 一瞬、回りの全員が呆気にとられる。


 誰かが吹き出した。


「ぶははっ!」


「いいじゃねえか!」


「面白え!」


「入れろ入れろ!」


 笑いが広がる。


 敵意は消えていた。


 興味に変わっている。


 焚き火が弾ける。


 オルドは肩をすくめた。


「まあ、こんなもんだ」


 トウジはよく分からないまま頷いた。


「おい、もう一回やれ!」


「次は俺だ!」


「いやオレだ! 今の、もう一回見せろ!」


 円が崩れない。むしろ人が集まってきて騒ぎが広がる。


 別の男が前に出る。


 双剣。


 軽い足取り。


「じゃ次は、俺様の番な。さっきの、偶然じゃねえよな?」


 にやりと笑う。


 完全にやる気だ。


 トウジは少し困った顔をする。


「えっと……」


「ほら構えなっ!」


「よっしゃやれやれ! 逃げんなよ~!」


 回りにひしめく観衆の熱が上がる。


 いよいよ、始まろうとする、そのとき。


「――おいおい、元気だなあ」


 場違いな声が落ちた。軽い。拍子抜けするくらい。


 だが。


 空気が止まった。


 円の外側に、ひとり立っている男。


 丸腰でしかも平服。場違いも甚だしい。


 威圧はない。なのに、誰も近づかない。


「新人いびりはほどほどにしとけって、何回言えば覚えるんです?」


 頭をかきながら、ゆっくり歩いてくる。


 その動きだけで、円が自然に割れる。


「……なんだよ、いいとこだったのによ」


 その声がしたほうへ、チラリと目線を流して。


「ここで騒ぎを起こすなってるでしょ。うちはただでさえ睨まれてるんだからさ」


 軽く言う。


 軽いのに、誰も逆らわない。


 双剣の男も舌打ちして下がる。


 男は円の中に入ると、トウジをちらっと見る。


 それだけで十分だったらしい。


「へえ」


 短く笑う。


 オルドが手を挙げた。


「よう」


「お、まだ死んでなかったか」


「そっちこそな」


 周囲がざわつく。


 距離が近い。


 トウジが首を傾げる。


「知り合いですか?」


「腐れ縁だ」


 オルドが即答する。


冒険者ギルド(ヴァルグラル)王都(フィオル)支部の支部長様。業界じゃ一応有名……か?」


 さらっと言う。


 トウジが一瞬止まる。


「え」 支部長をまじまじと見る。「え?」


「一応はないでしょう」


 オルドの戯言を軽く流して、トウジを見る。


 気軽な顔のまま。


 だが、目だけが違う。


 足元、重心、手元――一瞬で見て、終わる。


「……あー、なるほど」


 納得したように頷く。


 オルドが笑う。


「分かるだろ」


「分かる分かる。めんどくさいやつだこれ」


 さらっと言う。褒めているのか貶しているのか分からない。


 また周囲がざわつく。


 トウジはとりあえず頭を下げた。


「トウジです。仕事を探してて……」


「うん、見てた、見てた」


 軽く手を振る。


「さっきのいいじゃん。あれ」


 ヘラリと笑いながら、さらに軽い口調。


 だが、周囲がその言葉にさらにざわつく。


「ここでやるのはもったいないねぇ」


 ぽつりと言う。


王都(フィオル)の支部においで」


 あっさり。


「ちゃんとした試験、そっちでやるから」


「え、今じゃなくて?」


 トウジが聞く。


 支部長は肩をすくめる。


「いや~、やってもいいけどさ」


 周囲をちらっと見る。


 ニヤッと笑う。


「こいつら、たぶん壊れるでしょ?」


「……マジか?!」


「鬼があんなに楽しそうに……」


「やべぇ……やべぇ……」


 ざわつきが、広がる。


 全員が、半分本気で嫌がっている。


 支部長はそれを見ながら楽しそうに笑う。


 オルドが肩をすくめる。


 最初っからこうなることはわかっていたようだった。


 支部長はトウジに向き直る。


「来る気ある?」


 軽い問い。


「あります」


 即答した。


「ん」


 支部長はくるっと背を向ける。


「じゃ、王都(フィオル)で」


 手をひらひら振る。


「はいはーい、ほらほら輪解いて~。騒いじゃダメよ~」


 道が自然に空き、その中を飄々とした様子で去っていく。


 残された空気が、じわっと戻る。


「……なんかやべぇもん見たなぁ」


「ずりぃぞ」


「いきなり王都(フィオル)送りとかありえんだろう」


 ざわめき。


 悔しさと、妙な納得。


 トウジはまだよく分かっていない顔だった。


「えっと……行けばいいんですかね?」


 オルドが笑う。


「行くしかねえだろが」


 焚き火が弾ける。


 夜が少しだけ賑やかになる。


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