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パソコンを持って街を棄てろ!  作者: ケケロ脱走兵
46/58

(四十六)

 サッチャンによれば、いや「チカちゃん」によれば、彼女がデビ

ューするにあたって、相談にのってくれた音楽プロデューサーと仕

事の話をするうちに親しくなり、彼のお蔭でヒット曲を出すことも

出来たが、やがて週刊誌にただならぬ交際を暴かれて、その時に初

めてその男には妻子がいた事を知ったという。そして、芸能人の不

倫スキャンダルはすぐにテレビの情報番組でも取り上げられ、収益

のほとんどを経済界からのスポンサー料に頼っているテレビ局にと

って、そもそも自然環境の保護を訴える彼女の主張はスポンサーか

らあまり好ましく思われていなかったこともあって、間もなくテレ

ビの画面から姿を消した。つまり環境問題とは経済界にとって成長

の足枷にほかならないのだ。一時的な「環境ブーム」に乗って時の

人となったサッチャン、いやチカちゃんだったが、喉元を過ぎれば

切実だった環境意識もすぐに誰もが忘れてしまって、異常気象を口

にしてもその原因である温室効果ガスを排出する消費生活までも改

めようとまでは思わない。われわれは、文明を棄てるくらいなら絶

滅したって仕方ないと思っているのだ。こうして、いわば「エコロ

ジーガ―ル」というキャラクターで売り出したサッチャン、いやチ

カちゃんは、経済成長を追い求めるスポンサーたちから拒絶されて

、その後リリースした曲はメディアに取り上げられることもなくま

ったく売れなかった。ただ、それだけなら仕方のないことだが、そ

の音楽プロデューサーに懇願されて(はした)とはいえない額の金を貸し

てしまったらしい。

「返してくれないの?」

「待ってくれって言うばかりで全然返してくれなくって」

そうこうする中に例のゴシップ記事が出て、それからは連絡がまっ

たく取れなくなったらしい。その結果、彼女が寝る間を惜しんで蓄

えた貯金もほぼ底をつき、学校の授業料さえも払えなくなり、どう

していいのか途方に暮れて私に電話してきたのだった。彼女として

はもう一度バロックと一緒に路上ライブからやり直そうと思ってい

るみたいだが、私から見れば、バロックはもう一度振り出しに戻る

気はないだろうと思った。ただ、私はと言えば、彼女のお陰で一応

絵を描いて稼ぐことができるようになったので、たとえもう一度振

り出しに戻ってホームレスになっても、どうしても彼女だけは助け

てやらなければならないと思った。

「バロックには絶対言わないでね」

落ち着きを取り戻したサッチャンが泣き腫らした目でそう言った。

号泣による昂揚で紅潮した顔に、目鼻口から垂れた分泌液を意に

介さず、いや、気付かずにいたサッチャンは、淀んでいた血行が堰

を切るように流れ始めて、かつての明るさが戻ってきた。私は生憎

ハンカチを持ち合わせていなかったので、いや、ハンカチなど忍ば

せたことがなかったので、使わなかったオシボリを自慢の手捌きで

「パンッ!」と破って、久々に改心の音がした、サッチャンにさり

気なく渡した。


                         (つづく)

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