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パソコンを持って街を棄てろ!  作者: ケケロ脱走兵
22/58

(二十二)

 研修生はバロックのオールディーズにあまり興味がなかった。そ

れは彼女の派手な今風のファッションからも窺えた。二人のライブ

は彼女に合わせて、まるでタイムマシンの目盛を現代に戻すかのよ

うに、序々に新しい歌に変わっていき、今度はバロックが譜面を睨

みながらギターをあやした。バロックが私に呟いた、

「いいよなあラブソング、嘘っぽくて」

「嫌なくせに」私がツッコんだ。

この「嘘っぽい」は彼の口癖で、彼は悪い意味だけでなく良い意味

でもそれを使った。私はバロックに勧められた路上で絵を描いて売

ることに躊躇いはあったが、手持ち無沙汰から仕方なくマンガで使

わなくなったB4版のケント紙の束を持ってきて、さて、何を描い

ていいか判らずに、結局、研修生とバロックがライブに熱中してい

る様子をK帯で写してから、習っているデッサン風ではなくマンガ

風に素描した。

「アート!上手いじゃん、背景描くの」

何回目かのステージを終えて休憩に入った研修生がその絵を見て言

った。確かに、私はマンガを描いていてもキャラクターを創るのが

下手で、主人公の顔が始めと終わりで別人に為っていると出版社の

担当に言われたことがあったが、仕事をしながらマンガを描いてい

ると、どうしても途中でペンを置く事になって集中することが出来

なかった。やがて、アシスタントの話しがあって中堅の漫画家の背

景を描かせてもらったが、背景の人物を描くと先生のタッチと合わ

ないと言われ、そのマンガ家のタッチを真似ていたら、今度は先生

のタッチが抜けなくなり、自分のマンガが描けなくなって、半年で

辞めてしまった。ただ、マンガ家といっても人を描くのが下手な者

や、クルマだけはフリーハンドで描ける者など様々で、私の背景だ

けは先生に褒められた。しかし、教えられたマンガは一様に似通っ

てしまい、最近のアニメのキャラクターを見ているとタッチが似て

いて気味が悪くなる。何だってあんなに流行りを真似ようとするん

だろう?自分のタッチを棄てることは個性を棄てることなのに。そ

こで、絵画教室の先生の言った言葉を思い出した。「マンガはこう

描かなければならないというものはないんだよ」すると、バロック

が、「それ、最近の音楽も同じ、皆な似てる」と言った。

「アート!上手いじゃん、背景描くの」

彼女がからかった私の絵は、彼女とバロックが歌っているところを

描いたが、背景なんて描いていなかった。彼女は私の不安をからか

ったのだ。

「見る眼があるね、サッチャン」

彼女は「知可子」という名前だったが、自分のことを「私」とは言

わないで何時も「チカコ」と名前で言うので、バロックが唄いなが

ら、

「チカチャンはね

 知可子って言うんだ ホントはね、

 だけど大きいのに 

 自分のことチカコって言うんだよ、

 おかしいな『サッチャン』」

 と最後を間違って、それが「サッチャン」の始まりだった。もち

ろん彼女はそう言われることをとても嫌った。それじゃあ本名を紹

介してもいいのかと言われて、渋々「サッチャン」と言う芸名を承

服した。

「チカコ、サッチャンか・・・」

                        (つづく)

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