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パソコンを持って街を棄てろ!  作者: ケケロ脱走兵
16/58

(十六)

 就職祝いは、あの爆ッくれようとしてバレた居酒屋に、バロック

と待ち合わせて行った。今日は時間が早かったこともあってまだ席

は空いていたが、それでも我々は例の奥にある非常口の横の席を希

望した。未だ研修を修められないアルバイトの女店員は渋々二人を

案内して、

「あのぉ、駅前で唄ってる方ですよね?」

「そうや!」

「上手ですね」

するとバロックは、

「わしゃサメかっ」

「へへへっ・・」

彼女はおかしな笑い方だった。

「今度聴きに行っていいですか?」

「あかん、聴かんといて」

「えっ!」

「えっ!てな、道端で演ってるのにええも悪いもないやろ」

「あっ、こんど前で聴きます」

「ありがとう」

私は一言も喋らなかった。バロックは熱唱の余韻からか饒舌だった

。彼はビールを注文してから、私にメニューを見せながら料理を5

、6品頼んだ。

「仕事、何するの?」

「牛乳配達、朝だけだけどね」

「マンガ描くんか?」

「いやっ、もう描けない」

「何で?」

「ほらっ、判るじゃん。ダメかなって」

「うんっ」

私はもうその頃から流れに取り残されて、売れているマンガにも批

判的だった。超能力や、SFなどの「嘘」の世界が描けなかった。

これは余裕のない育ちのせいだと思った。いかにも大袈裟な構想で

結局「大切なのはヒューマニズムだ」と言うならば、何も宇宙の果

てまで行って愛を叫ばなくても、四畳半の部屋の中で事が済むだろ

うと思っていた。

「絵画を描く」

「えっ?」

「そっ、絵画!」

「くっ、食える?」

「食えん」

「描いてたの、今まで?」

「いいや、これからだよ」

私は乾杯からふた口目のビールを一気に喉に流し込んだ。バロック

は黙ってその様子を見ていた。私は飲み込んだビールが押し出した

息を大きく吐いて、

「どうせ食えないならやりたい事をやろうと思ったんだ」

するとバロックは、「あんた、サザンを超えたな」


                      (つづく)

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