【11】
赤い山に戻ってきた一行は、再び、山を登りはじめた。登りはじめると、上方から、銀鈴のような声が響き渡ってきた。
「ここから先は、自分自身を、大切にしている者でなければ登れません。もしも、自分自身を大切にしていない者がいれば、その者の足は岩のように重くなるでしょう」
その声があたり全体に響き渡ったあと、まもなくしてからユカが言った。
「あれ…、足が思うように…」
続けてヒロキが言った。
「僕もだ…。足が重たくなってきた」
ワタルが言った。
「僕は何故か、足が軽いままだよ…。むしろ、どんどん力が漲ってくる…!」
そんな三人を見つめながら、フィルーが言った。
「ワタルは…、自分をあまり否定しない…。ユカ…ヒロキは…、自分を否定するところ…残ってる」
ユカとヒロキは、フィルーのこの言葉にハッとさせられた。
ユカは重くなった足を感じながら言った。
「こんなにも正直に出ちゃうなんて…、この山では、どうやらごまかせないようね」
ヒロキも同様に言った。
「本当にそのようだ。この山の特徴なのだろう。ワタルは、あまり自虐的なところが無いからな…、この山と相性がいいみたいだね」
このように言い終えると、また少しヒロキの足は、重くなってしまった。その機微を感じたヒロキは、すぐさま心の持ちようを調整し、明るい心持ちになれるよう、心を調えようと、努めた。しかし、いっこうに、軽くはならないようだった。
その様子を見ていたフィルーは言った。
「自分を…大事にすることは…、そのままの自分を…大事大事にすること…。泣きたい時は泣いて…笑いたいときは笑う…そのままでいい…そのままで」
このフィルーの言葉によって、ユカとヒロキの心がみるみるうちに変わっていった。それに伴い、岩のように重たくなりはじめた足も、だんだんと軽くなっていった。
ヒロキが言った。
「そうか…!そのままの自分をそのまま受けとめてあげれば良かったんだ!僕は、どこかで自分自身を無理矢理変えようとしていたんだ」
ユカも続けて言った。
「フィルーやヒロキの言う通りだわ!私も、どこかで理想の自分を強く求め過ぎていたから、現状の自分自身を大事にしてあげられなかったんだわ…。ありのままの私が理想の私に押し潰されていたんだわ」
ユカとヒロキは、この赤い山のエネルギーとフィルーの言葉によって、自分で自分を大切にすることの意味が、一つずつ分かってきた。すると、ワタルのようにユカとヒロキもエネルギーに満ち溢れてきた。
再び、三人とも、元気よく山を登りはじめた。同時に、赤い山のエネルギーが三人の背中を押す、手助けをするのであった。ぐんぐんと三人は力を付けて、どんどん登っていく。
そんななか、突然、強い向かい風が吹きはじめた。周囲の木々も葉のさざ波の音がやまなかった。これは、どうしたことかと、三人は一度歩みを止めて話し合った。
ワタルが言った。
「強い風が吹いてきたね。どうしたことだろう」
ヒロキが言った。
「アルレスが言っていたことをよくよく思い出そう。突然、風が強くなったのは、山のご意志が何かあるに違いない」
ユカも言った。
「そうね。ヒロキの言う通りだわ!山のご意志を尊重することが先決よ!ここらで、一度、休憩しながら、様子をみましょう」
そこで、三人は一度、歩を休めて、山の御心を伺うために、タゴクから託された赤いリュックの中から、テント道具があるかどうかを探してみた。
リュックの中には、見知らぬものや、何に使うか分からない道具が入っていたが、ワタルのリュックの中に、小さな木彫りの箱があり、その箱の上部には、「テント」と彫られていた箱があった。その箱をリュックから取り出して、箱の中を開けて見てみると、テント道具が小さくなって、一式そろっていた。
その一つ一つを取り出していき、地面に置いて、備え付けの説明書を、ミューイが一度覚醒したヒロキが読んだ。説明書にはこう書かれていた。
【手のひらを、対象に向けて、サンデルトと唱える】
一行には、一度、緊張感が走ったが、ユカが言った。
「ヒロキ、唱えてみてよ。ミューイが覚醒しているのは、ヒロキだけなんだから」
ヒロキが勇気を持って対象に手のひらを向けて、唱えると、白い光が一度発光してから、その小さなテント道具の一つが大きくなった。それからも、初めて魔法を使い、興奮と冷静が同時に訪れている、アンビバレンスなヒロキは、道具の一つ一つに魔法を唱えていく。
「サンデルト…!サンデルト!サンデルト!!」
ワタルやユカは、初めてヒロキが魔法を成功させたので、驚きと、喜びを隠せずに拍手を贈った。ヒロキは、まだ、あまり実感を持てずにいたが、頬をかいて、少し照れた。
それから三人は、大きくなったテント道具を一つ一つ組み立てていき、そのテントのなかで、休憩がてら、山の御心を伺うことにした。




