【6】
ワタル、ヒロキ、ユカ、フィルー、ミッポの一行はアルレスが祈祷している赤い搭の門を背にしていた。100メートルほど前方を見ると、虹色の大きな扉が見え、それまでの参道の両脇には七色の花々がところ狭しと、咲いていた。この参道を歩いていくだけで、一行は、ただ下へ下へと流れて染み込んでいく、水や雫のように、シンシンとした心地になり、それはまるで、自然の内奥に宿るアルカナのように、人間の内奥に宿る黄金の生命力へと、向かっているようでもあった。
ワタルが静かに話し出した。
「どうやら必要以上なことは、しなくて良いみたい。必要なことだけを、やっていくことが、これから先は大事なんだと、あの沈黙の森が教えてくれたよ」
「そうね。その通りだわ。それにしてもアルレスって、どんな方なのでしょうね。ラビーシュって一体どんな方?」
「まあ、会ってみれば分かるさ」
こう話し終えたあとに、ここかしこから、やわらかで荘厳な声が聞こえてきた。まるで、大地から響き渡っているかのようだった。
「ようこそ。フィリアムの赤い搭へ。待っていました。さあ、どうぞお入り下さい」
すると赤い搭の大きな虹の扉が開かれていった。扉の中からは、赤い光が噴水のように、炎のように溢れ出しており、その輝きは、たとえば、一行を最果ての地にまで、いざなってくれそうな気がするほどだった。その光は、搭を貫いて、遠い雲海まで伸びている。
一行は、驚きながらも歩を進めていき、燦然と輝く赤い搭のなかに入っていった。搭に入ると、赤い光の中心から大きな声が聞こえてきた。
「アフェイム…イルシナンド!!」
その声が搭全体に響き渡った。すると、白い輝きが噴水のような赤い光を取り囲み、ぼやぼやと歩いてくる影が光の中から見えてきた。ミッポがすたすたとその影に歩み寄って行き、影もだんだんとハッキリしてきた。ミッポが光のなかに溶けていくと、その影も歩みを止めた。二つの影が重なってから、まもなくすると、一体となった影はこちらに向かってくる。
「初めまして。私は、現フィリアムの祈祷師のラビーシュであるアルレスと申します。ミッポやフィルーからお話は、伺っております。さあ、ここではなんですから、あそこの階段を登った先に、部屋がありますので、そこでお話をしましょう」
大きな身体の背には翼があり、頭からは二本の逞しい角が生え、赤い鱗の尾もあり、アルレスは、人間とドラゴンが入り交じっている半竜半人間であった。
ワタルとヒロキとユカは、アルレスの独特な雰囲気に圧倒されたが、フィルーやミッポは、久々に友と邂逅したという、喜びに溢れているのだった。
一行は、搭の螺旋の階段を登っていくと、広くて簡素な部屋があった。アルレスが親しみを込めて話し出した。
「今日は、とびっきりの客人と友との再会です。思う存分に、おもてなしを」
そう言い終えると、アルレスは、大きな翼を一度広げてから、魔法を唱えた。すると、簡素な部屋は、みるみるうちに豪華絢爛たる部屋へと、様変わりしていくのであった。そのなかには、地上では見ることの出来ない珍しい骨董品などもあった。
部屋の中央には、魔法で造られた丸いテーブルと椅子があり、そこに一行は、案内された。
「では、皆様、そちらにお掛けになって下さい。これまでのことや、これからのこと、この世界について、ゆっくりとお話しましょう」