【7】
ワタルとユカとヒロキの心のなかにある緊張の糸をほどくように、アルレスは優しい語調で語り出した。
「エルプロージェの世界へようこそ。貴方達のいる世界とは少々勝手が違うため、慣れないことも無理はないことでしょう。しかしながら、この短時間でスジーも無くなり、自身のものとしているところを伺いますと、やはり、あの御方が見込んだ通りの逸材のようですね」
ユカが少しばかりの勇気を持って話し出した。
「こちらこそ、エルプロージェの世界に招待して頂きまして、ありがとうございます。この世界に来てからは、私達の住んでいる世界とは、少し、違うところがあるようです。少しと、いいます最たるものは、やはり、魔法がこの世界では使えるところでしょう。それ以外には、不思議なことに、今のところは言語の壁というものをそこまでは感じてはいないところです。書いてある文字は時々読めないものもありますが、ほとんどの文字が私達の世界で使われている文字と一致しております。現にこのように、お話も出来ていますし、不自由に感じることがほとんどありません。それは何故でしょうか?また、フィルーやミッポも言われていった、あの御方とは、一体、どのような御方なのでしょうか?」
「では、この世界とワタルさん、ヒロキさん、ユカさん達が住む世界との関わりからお話をさせて頂きましょう。ワタルさん達が住む世界は、私達の世界からしましたら、影の世界であります。実は、私達の住む世界で起こったことが、ワタルさん達が住む世界でも何日間かあるいは、何年間か遅れて、実際に起こってくるのです。たとえば、私達の世界でちょっとしたいざこざがあれば、貴方達の世界では、戦争という形で、起こることもあります。また、私達が仲睦まじく親睦を深め合う機会がございましたら、貴方達の世界にもその波動や余波が届き、何か平和的なことが起こってきます。この関わりや影響力は、各分野を超えて、様々なレベルで起こってきます。また、何故エルプロージェの文字が読めたり、エルプロージェの人々や存在達と会話が出来て、コミュニケーションが取れるのかといいますと、貴方達の世界では、テレパシーと呼ばれているものが近いかと存じております。テレパシーによって、この世界は交流しているからです。私達の世界の言い方では、一人一人の内奥の奥に宿っております、ミューイという神秘的な力がありますが、そのミューイに目覚め、ミューイを研鑽していくことによって、より多くの言語や魔法を自在に使いこなすことが出来るようになります。エルプロージェの世界では、言葉と、その命であるミューイこそが最も影響力を持っているのです。そうそう、あの御方についてですが、そのミューイを極めし者なのです。この世界では、ミューイよって創造された世界なのです。隅々まで、ミューイが必ず内在しておりまして、ミューイによって創られなかったものは、何一つ、ございません」
ヒロキは、目をまんまるくしながら、持っていたコップを置いて、話し出した。
「では、それだけ密接に関わりのある私達の世界とエルプロージェの世界なのですから、ミューイの力によって、私達の住む世界も、創られているということなのでしょうか?」
アルレスは、微笑み、頷きながら、答えた。
「さすがですね。その通りでございます。貴方達の住む世界の隅から隅まで、また、極小や極大、遠心力や求心力、光から闇、白の色彩から黒の色彩、あらゆる自然万物やその営みに至るまで、一つの力、ミューイによって創造されているのです」
アルレスの感化を受けはじめている、ワタルも高鳴る胸の鼓動を踊らせたまま、話し出した。
「僕達は、今、世界の真相や神秘に触れているのですね!ミューイによって、僕達の世界も、エルプロージェも、ひとつなぎに、分かち難く結ばれているのですから!」
ここでユカは、少しばかりの、疑問が浮かんできた。
「では、何故、そのミューイによって繋がり合えるひとつなぎの世界なのに、いざこざが起きたり、困ったことが起きてしまうのでしょうか?ミューイによって、全ては、タペストリーのように、相関し、繋がっているハズなのに…」
アルレスはひどく関心した表情に変わっていった。
「素晴らしい!時には、そのような健全な猜疑心こそが事実や真相、核心に近付く大きな力にもなります。今後もその注意深く、検証していく心の営みを大切にされて下さい。それによって、エネルギーがフォーカスされていったものは、より清らかなものとなり、ミューイにも目覚め、魔法の本来の力を使うことも出来るようになりますので。では、そのユカさんの疑問にお答えさせて頂きます。何故、困ったことが起きてしまうのかと、いいますと、そのミューイを忘れてしまうからです…。ミューイを忘れているので、この世界でも、困ったことが起きたり、ひとつなぎの世界なのに、分離し、乖離したり、煩瑣になり、コミュニケーションやテレパシーが通じずらく、なってしまう為です。なかには、魔法の力をミューイに目覚めることなく、言葉や呪文だけ覚えて、悪用して使ってしまう存在も多くいまして、私達も困っております…。」
ミッポが、力強く話し出した。
「そう!そこで、どうしても、ワタル達の力が必要になったのだよ。祈祷師であるアルレスやラビーシュ達は、ここを離れることは、出来ないし、ミューイに本当に目覚めている存在は、このエルプロージェでは、数少ないんだ。しかも、エルプロージェの伝説によると、君たちの世界から、やってきた若い者達が、このエルプロージェにも、再び、秩序がもたらされると、言い伝えが残されているんだよ。そこで、どうやら、あの御方からの促しがあったようで、君たちをこの世界に呼んだって、わけなんだ」
ヒロキは、その話しの重みを感じ、深刻な表情で言った。
「ということは、あの御方からの召命を受けたって、ことなんですね…。僕達が、幸か不幸か選ばれたと…。ちなみになんですが、その御方には、名前は、あられるのでしょうか?」
アルレスが、話し出した。
「ございます。名は体を表すという言葉が、貴方達の世界でもあるように、この世界では、それがいっそうに、影響力が強いものとなっております。名前には、そのもの力や、御存在の御力が、そのまま宿っております。貴方達がこれからの旅路で、ここぞという大切な時、歓喜に満たされている時、絶望と艱難辛苦で喘いでいる時、また、幼子のようである時に、素直さと真心を持って、唱えてみて下さい。その名は、アミュー、アミューです。私達ラビーシュが選ばれた時も、ミューレのマスターであられるアミューによって、選ばれたのです。普段、アミューは、このエルプロージェには、おられません。アスプロージェにおられます」
一行は、驚きを隠せなかった。ワタルは、言った。
「アスプロージェ!!?本当にあったのですね、その世界が!!」
「はい。エルプロージェや貴方達の世界とは違い、混沌としておらず、一切が清らかである、天空界、天上界、神の世界です。そこに、アミューはおられます。アスプロージェともミューレによってこのエルプロージェは繋がっておりますので、御名を唱えれば、アミューの御力は、届いてきます。いわば、最大の魔法でもありますが、その唱える者のミューイの目覚め具合や、唱える者の個性によって、現れ方が異なります」
ユカは言った。
「一人一人のミューイの目覚め次第ってことは、つまり、結局は、自分次第ってことですのね…。各々のミューイがそれぞれ育ってくれば、この世界で成すべきこと、果たすべき役目を果たせるようになると」
フィルーが、くるくると宙を舞ったあとに言った。
「そう…、それ…、ミューイが…、天上の安らぎ…、エルプロージェにいても…、天上の安らぎ…」
ワタルはフィルーに応えるかのように声を高々として言った。
「そういうことか…!繋がってきたぞ!いついかなる状況や場所においても、僕達の中にあるミューイを大切にしようと、心掛けていれば、アスプロージェのような、天上の安らぎを有することが出来るんだね!」
アルレスは安心した声色で言った。
「まさしく貴方達は、アミューによって託されました希望の光ですね。分かりました。では、赤い山について、赤い山の秘宝について、そろそろお話をさせて頂きましょう」




