p.24[深い嘆き]
カメーリアさんが教皇へ話を通して国王に手紙を送る。
そう決まった後、話し合いは一旦お開きになった。セバスチャンが「食事の様にが出来た」と呼びに来たからである。
アビーさん、カメーリア、俺の三人で先ほどの話をもう一度しながら食事を取った。一昨日のオースティンさんとの食事の様に腹の探り合いをしながらの食事とは違って特に緊張するようなことは無かった。
カメーリアさんはこの後神殿でお世話になるようだ。俺はどうするのかをアビーさんに聞かれたが一文無しで宿にも泊まることが出来ないので、出来れば神殿にお世話になりたい。
アビーさんの屋敷で泊めてもらうと言う話も有ったがアリシアさんと婚約しているという噂が流れているそうなのでおとなしく遠慮させてもらった。
神殿で話がスムーズに進むように人も付けてくれるようだ。護衛も兼ねているんだろうなと考えていると人が来たようなので思考を戻すと、目の前に居たのはエイデンさんだった。
「エイデンさんがついて来て下さるということですか?」
「そういう事だ。俺ならそれなりに地位もあるからな」
こうしてエイデンさんが神殿までついて来てくれるようだ。
各神殿は固まって建っているのでカメーリアさんも一緒だ。
「家に来てくれても良かったんだぞ?」
「お世話になりっぱなしと言うのが苦手なものでして」
「遠慮する事はないだろう。俺達は義兄弟な訳だし問題無い」
「私は遠慮したいんですけどね」
道中、エイデンさんが口を開いた。
アリシアさんと仮面夫婦になる事で俺がドラゴン討伐から逃げないようにする鎖になると言っていたが、そんな事しなくても逃げないし、彼女が納得しないと思っていたから話を受けたのに、その後のカゼノさんとの話を聞かれてしまったから彼女とは何とも気まずいのだ。俺が内心そう思っているだけかもしれないが。
「すいませんがお二人はどのようなご関係でしょうか」
カメーリアさんも気になってしょうがなかったのだろう。質問を挟んできた。
その問いにエイデンさんが事のあらましを教えてあげる。
「ツバサ様、アリシア様にもっと丁寧に接してあげて下さい」
「お願いですから、俺の敵に回らないでください」
こうして俺の敵が一人増えた所でヘリオス様の神殿に着いた。
「エイデン様、ここまでありがとうございました」
エイデンさんと握手をして神殿へと入って行った。
カメーリアさんと別れて、また二人歩き出す。
「最初が最悪だったから仕方ないがアリシアには優しく接してあげてくれ」
エイデンさんがボソッと呟いた。鈍感主人公ではないと自分では思っているので聞き漏らすような事はしない。
彼はアリシアさんかメイドたちからあの時の話を聞いているんだろう。
「私の様な何処の馬の骨とも知れない人間より、立派な人は五万といます。アリシアさんの隣。そこに居るのが必ずしも私である必要はありません。仮面で十分です」
「・・・そうか。だが君は使徒だ。身分が足りない訳じゃない。今日の様子で人柄だって大体わかった。そこまで自分を悪く言う奴は居ないだろうに」
強く言ってしまったか?この際だ、思っている事すべてぶちまけてしまおうか。
こんな最低な奴だったのか。そう思って貰えるだけでもアリシアさんとの距離を開ける事は出来るだろう。巻き込まなくてもいい人だって居るはずだ。
「使徒は別に俺で無くてもいいんですよ。アネモイに連れられてきただけで、私はこの世界の住人じゃない。
そこらで死んだ奴を拾って来ただけ。
コスパが良いんでしょうかね?生きている人間を使うんじゃなくて死人を使うって。使徒の証!アネモイの紋章!つって身体に埋め込めばそれで使徒が創れるんですから。
この世界の常識も知らない。この世界に生きている人間の事も知らない。だからってドラゴンに襲われて死んで欲しい訳でも無い。
最初は嬉しかった。俺が主人公だ!俺が選ばれた!そう思っていました。だけど落ち着いて来たら急に不安になった。この世界に情が湧いたから。俺が失敗したらどうなる?親しい人が死んだら?その場面を夢で見た。最悪だ」
話しながらも、足は休むこと無く交互に前に前にと出て来る。エイデンさんを追い抜いてさらに愚痴をこぼす。今の俺の顔を見られたくなかった。
正直エイデンさんには申し訳ないと思っている。彼には何が何だか分からないだろう。好き勝手な俺の理屈だ。
王都から手紙の返事が来た。だが、嘘だと言われ、兵は来ない。
アネモイ様の力を借りて魔法を使った時はこれなら勝てる!と思った。でも届かない。
俺のネガティブな思考の螺旋の中、エイデンさんはアネモイ様の神殿に着いても何も言う事は無かった。
問題なく説明を終えたエイデンさんはそのまま帰ってしまった。
「こりゃ、嫌われたよな。まあ、コレで婚約破棄出来ればいいんだけどなー」
シスターに案内された部屋で誰に言うでもなく一人愚痴る。
因みにカゼノさんはこの事を知っている。ロッホ亭に泊まった時に指摘された。どうやら魔力の流れで分かるらしい。
部屋を与えてくれたが俺は寝入ることが出来ないでいた。何故か目が冴える。
夜風に当たろうか、と魔導書を持って部屋を出る。
コツ。コツ。 誰も居なくなった神殿を歩いていると中庭の様な所に出てきた。アネモイ様を模したと思われる像。その前には黒い石で作られた石碑のような何か。
近寄って石碑を覗くと文字が書いてあった。
『人は皆神の赤子。赤子、危機迫りしとき母の頬より光落ちて我が子を守らん。』
コレは・・・アビーさんが言っていた神句だろうか。
『身を挺し悪を排し、神の御許へ還る。』
『示された道は闇を寄せ付けず、赤子を育む』
「死ねって事か?俺に」
読んでいて言葉を失った。
身を挺し悪を排し、神の御許へ還る ソレは己の命と引き換えに悪を倒し、天へ昇る。俺にはそうとしか解釈できなかった。
「本当の意味は違うんですよ」
「え?」
八ッ、とした。声を掛けられたのだ。
そこにはいつの間にか人間状態になったカゼノさんが居た。
「カゼノさん、いつの間に・・・」
「この文は神句ではありません。コレは私の為の言葉です」
石碑を優しく撫でながらカゼノさんは続ける。
カゼノさんへの言葉・・・?
「私もかつてはアネモイ様の使徒でした。ある日使徒になったツバサさんの様に」
どこか遠い目をするカゼノさん。彼女も使徒だったなんて・・・。
「当時は魔法使いが多くいました。皆ドラゴンから魔法を習っていたのです。ですがそこから悪夢が始まりました」




