八、メル隊の出発
新入りを加えた我が第八十三小隊の編成は以下のとおり。
ローゼン・メル隊長
ブラック・ヘル一等兵兼リーダー
ウシャニパッド・ジーニ機関兵
レーベ・フラム砲手
マトゥーシュカ・ピッピ後方支援見習い
新入りには、今回の不祥事できつくお灸をすえられたルゴシ博士による改良型ヘルメットをかぶせ、わが隊で得意の念動力を発揮してもらう。脱走の件は初犯であることと、まだ一般人かつ児童であったことで不問にされ、改めて入隊してもらった。
隊長である私が飴と飴で説得した甲斐あってか、最期には覚悟を決めたようだが、いまだにメットからの電流に飛び上がったりしているので、油断は禁物。マトゥーシュカは根は良い子でも、大量殺人者でエスパーである。本人に悪気がなくとも、ひょんなことで何かをしでかす可能性は無限にある。
彼女の所属がこうも早かったのには理由がある。現在、我がレクライナ共和国と交戦中のルーデシアとの国境線で不穏な動きがあった。表向きは水力発電所の建設だが、地下でひそかに原子炉を作っている疑いありとの情報が入り、もし完成すれば核による我が国への脅威は避けられない。そのような上層部の判断により、今回我が部隊が偵察の任にあたることになった。
情報が確かなら破壊推奨という厄介な任務なので、こんな小規模隊を送ることには反対もあったが、実は今回我々が手にした「新型秘密兵器」のお披露目の意味もあった。
マトゥーシュカ・ピッピの能力は実験で証明済みだが、今回の作戦はいわばその「お試し」であり、成功すればさらに大きな部隊に移され、新しい形の戦闘を行える兵士としての活躍の場が与えられる。今はそんなことは本意ではなかろうが、彼女にはもうこの道しかないのである。贖罪としての戦いである。
幸い、マトゥーシュカは部隊の全員とあらかじめ面識があり、初対面で気に入られていたため、なじむのは早かった。全員が彼女に優しく、出発前には部隊のマスコットというか、愛玩用ペットのようにかわいがられていた。製菓学校から編入してきたレーベを除くと、みんなワケありの苦労人であり、ただでさえこんな煙たい軍隊では幼い子供と接する機会がないせいで、彼女の素直さとかわいさにハマってしまったようだ。もちろん悪いことではない。軍の結束が強まるに越したことはないからだ。だが言っておく。最初にハマったのは、この私だ。
しかし、困ることもないではない。
「隊長、シュカちゃんのヘルメットなんですが」
出発の朝、全員が場所した車庫でブラックが耳打ちしてきた。はじめはみんなマトゥーシュカを「ピッピちゃん」と呼んでいたが、今は名前優先で「シュカちゃん」になっている。
「外せませんか?」
「それだけは絶対にできん。メットはシュカが軍に入るための条件になっている。上の決定なしにあれを外すことは、あいつを処分するときだけだ」
「でも、たまにつらそうで」と顔をゆがめる。こっちの顔もゆがむ。
「風呂のときに外してやってるだろう」
「一瞬じゃないっすか。二十四時間あれで、うっかりなんかに集中すりゃ、即、電流ですよ? 精神を病んだら、元も子もないじゃないっすか」
「かわいそうと思うなら、」と私は本人を一瞥した。ジーニに話しかけられて無邪気に笑っている。「ああやって元気づけてやれ。おまえなら、うまくやれる」
「はい……」
とは言ったものの、不本意そうな目を向けて戻った。彼女としては、過去に兄が不幸なことになったので、思うところがあるのだろう。
そういえば、ブラックがここに配属されてきて、最初に聞かれたことが「あなたは、自分を人間だと思いますか?」という変わったものだった。「ある意味では、そう思っていない」と答えると、半目で瞬きひとつせず、「では、誰かが自分のせいで人間でなくなり、しかも永久に取り返しがつかない場合、それでも人間でいられるもんでしょうか?」と聞いた。
私は少しの間をおき、こう言った。
「いろ」
「は?」
「できる限り、人間でいろ」
それ以後、彼女はその手の質問はしなくなった。数度の戦果で、リーダーの資格あり、と判断した。
「なぜ、私なんです?」
困惑するブラックに、私はこう言った。
「おまえが一番、やさしいからだ」
早朝、我々を乗せたジープが国境目指して出発した。




