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三、女軍人

 目が覚めると、狭く薄暗い部屋にいた。卓上の電灯が顔をまぶしく照らし、取調室のようだった。机の前に座らされたマトゥーシュカの向かいには、黒い軍帽をかぶった若い女軍人が同じく椅子に座り、腕組みして無感情に彼女を見つめている。マトゥーシュカは手足を椅子に縛り付けられ、頭には硬いヘルメットのようなものをかぶせられている。後頭部に痛みがある。

 列車を破壊し、逃げようとしたところまでは覚えている。そこで意識がなくなった。今の状況は分からないが、とりあえず、頭を殴られて捕まったのは確かだった。



「マトゥーシュカ・ピッピ、十歳」

 軍人が口をひらいた。声は女としてはやや低い。顔つきも冷たいが、口調も冷徹だ。

「今月で三台の列車を破壊、合計で千五百人もの人命を奪った。間違いないな?」

 泣きそうになってうつむく。幼女でも、これだけ人を殺せば死刑になるくらいはわかる。返事とみなし、軍人はつづけた。

「お前のように、多くの人をあやめた怪物を何人も見てきた。だがお前ほど幼く、かつ凶悪なのは初めてだ。それは、お前が持っている力のせいだ。それにより、普通なら子供には不可能な大量殺人が実現してしまった。しかし、お前は悪くない。悪いのは、その力だ。

 だが――」

 いったん言葉を切ると、身を乗り出してまじまじと見つめ、怖くなって目をそらした少女に、言い聞かすように続ける。

「だが、世間も国家も理解はしない。奴らはおそらく、お前を最悪の化け物として処分しようとするだろう。そこで、私が名乗りをあげた」


 少女が恐る恐る見れば、軍人はうっすら微笑んでいた。最初に感じた殺気はなく、わずかにほっとした。

「お前がその力を国のために使うなら、上の連中は裁きをとりあえずやめる、と言っている。まあ執行猶予がついたわけだ。

 分かるか? お前はわが軍に入り、その超能力で敵を倒し、手柄を立てるんだ。それ以外に、お前が生きる道はない。そして選ぶ権利もない」

 そして立ち上がり、鋭い目できっぱりと言った。

「戦え、マトゥーシュカ・ピッピ。お前の力を存分に使って、生き延びろ!」


 軍人になれ、と言っていることはかろうじて分かり、真っ蒼になった。武器を持たされて戦場で殺しあう。ドラマで見たことはあるが、そんなことをするなんて怖すぎる。死んでもやりたくない。

 こんなことなら、家にいればよかった。殴られようが怒鳴られようが、大人になるまで我慢すれば逃げられたのに……。

 そうだ。


 マトゥーシュカの頭に、また悪魔が出た。こいつをどうにかして、ここから逃げ出せば、なんとかなるかもしれない。とりあえず戦争なんていう恐ろしいことをせずに済む。そうだ、そうしよう。

 そう思うと恐怖が薄れた。女軍人の顔をじっと見つめて念じる。

(気絶しろ気絶しろ気を失え……)

 三秒後、脳内を鋭い痛みが走り、うめいて卓に伏せった。

「ぐあああっ!」


「あー、言っておくが」と指さす軍人。「その力が出るまでに、五秒はかかることは分かっている。今までの殺人現場は徹底的に調べたからな。お前が今かぶっているヘルメットは、意識を集中して三秒たつと、脳に電流を流す仕組みになっている。それをかぶっているうちは、念力は使えん。下手なことは考えるな」


 少女は絶望してボロボロ泣いた。すると軍人は歩いてきて、手足のヒモをほどいてやった。いきなり自由になり、ワケがわからない、という顔で見上げるマトゥーシュカに、妙に優しい目を向けて言う。

「鼻なら、そこのティッシュを使え。

 ……すぐ戻るから、待っていろ」とドアから出て行った。


 しばらくボロ机の端にあるティッシュの箱を呆然と見ていたが、手を伸ばして二、三枚とり、チンチンかんだ。ゴミ箱がどこかときょろきょろして、椅子から降りかけて床に顔から落ちた。

 ころっ。


 衝撃で脱げたヘルメットが、音をたてて壁まで転がった。

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