第2話 捜索、想像、騒々?
「……で、具体的に何からどうするの?」
口火を切ったのはレイトであった。
その問いかけに、ジェイ、テラーズ、タカシロの三人は「うーん」と唸り声をあげた。
特に何か思いつくことがあるわけではないようで、三者三様に顔を顰めている。
「まぁ、無難に聞き込みしかないよなぁ」
ジェイがそう言うと、他の三人は曖昧な様子で頷く。
「何を聞くかはハッキリしておいたほうがいいんじゃない?」
「テラーズの言う通り、えっと例えばぁ……うーん……敢えてさ、『最近この辺で変わったことないですか?』とか、聞いてみる?」
「失踪事件の他に何か起こってないかって話?」
「そうそうそう」
レイトはテラーズに頷いてみせる。
「それ、ありかもな」
「でしょ? 失踪してる話の方を聞いたら、関わりたくないって人もいるだろうし」
「聞いた人がたまたま失踪してる人の知り合いとか家族だったら、気まずいもんなぁ」
「そうだなぁ」
タカシロの返答に三人が頷く。
「じゃあそれで行くかぁ?」
「待ってくれジェイ、肝心の聞き込みの場所はどうする?」
「場所ねぇ」
「それなら、公園の近くの商店街は? あの辺なら、お爺ちゃんお婆ちゃん多いけど、その分地域の人の繋がり深いみたいだからさ、色々聞けるんじゃない?」
「レイト、お前ナイスアイデアすぎるだろ」
「えへへ」
「じゃあ、商店街に行ってみますか」
「「「おう!」」」
テラーズの一言に、三人は片腕を上げて応えた。
◇
四人は商店街に来た。
時間としてはちょうど正午を過ぎたあたりで、昼食時であるからか、飲食店を中心にかなりの人で賑わいを見せていた。
店の軒先から、元気な商売人たちの声が響くのを聞きながら、四人は商店街の人混みの中を進んでいく。
しかし、誰から話したものか……と、四人は少しだけ迷っていた。
小さい子連れの家族やら、恐らく近所の主婦の集まりやらがいたり、年配のご老人がシルバーカーを押しながら歩いていたり、大学の講義前なのかそれとも昼休みなのか若い男女の一団が横を通り過ぎたり、店員が外に出てきて誰かしらに声をかけていたり……というのを見ながら、さて、どうしたものかと。
そうして、彼らが一つの店の前を通り過ぎようとした時だった。
「──────あら、誰かと思えばレイトちゃんじゃないの!」
「……あ! コロッケ屋のおばちゃん!」
店の前で呼び込みをしていた一人の女性がレイトの姿を見て手を振っていた。
四人はその女性のいるコロッケ屋の前に近寄った。
「レイトちゃん、今日は何を探してるの? もし昼食がまだなら、うちのコロッケ、また買っていかない?」
「あー! コロッケ食べたいです! ああいや、今日は別にお惣菜を買いに来たわけじゃないんだけど、それはそれとして……」
「あら、お買い物じゃないの? ってことは、後ろの子たちと遊びに来たのかしら? その人たちはお友達?」
「………友達ですね!」
レイトは『初対面の人もいるんだよなぁ……』と思いつつも、上手く説明できる気がしなかったので、纏めて友達と取り扱うことにした。
変な間を作ってしまったものの、女性はそれを男の若者特有の照れだと思ったらしく、うんうんと笑顔で頷くだけで特に追求はしてこなかったので、レイトは内心ほっとしていた。
「とりあえず、コロッケどれにする? 今、プレーンが揚がりたてでホクホクよ!」
「ホントですか!? じゃあ、プレーンで! あ、ジェイたちも食べる? せっかくだから奢るよ!」
「じゃあ、せっかくだから頂くか」
「俺、チーズ入りがいい!」
「こっちの牛肉のやつも捨てがたいなぁ」
「タカシロはチーズ入りにするのね? テラーズは牛肉入り?」
「牛肉入り貰おうかなー」
「じゃあ、おばちゃん! プレーン二つと、チーズ入りと、牛肉コロッケそれぞれ一個ずつ!」
「はいよ! ちょっと待っててね。ちょいと、お前さん! レイトちゃんとお友達から注文よー!」
レイトの注文を聞いて、いそいそと女性は店の中へ行くと、作業をしていた主人に声をかける。
物静かそうなコロッケ屋の主人は手を止めてレイトたちを見ると、笑顔を見せてからコロッケを取り分け始めた。
会計を済ませてレイトがコロッケの入った袋を受け取ると、中のものをそれぞれに渡す。
「……めっちゃうまッ!!」
「でしょ〜、大学時代から通ってんだ〜」
「なんで教えなかったんだよー!! 知ってたら俺も通ったのに!!」
「だってジェイ、家遠かったし……」
「うわー!! 今度からコロッケここで買うわぁ、全然めっちゃ来るわ!!」
「気に入ってくれたなら俺も誇らしいよ」
そのやりとりの横で、静かにコロッケを頬張るタカシロとテラーズは、「うまいなーこれ」「コロッケ久し振りに食ったわ」と、それぞれ感想を溢していた。
そんな彼らを見て笑いながら、先ほどの女性が再び店の奥から戻ってきた。
「ありがとうね。そんなに美味しい美味しいって言ってもらえるとうれしいわぁ」
「いやー、本当に美味しいですコレぇ。どうやったらこんなお芋がふわふわになるんですか?? 俺も料理結構するんですけどぉ、こんなうまくいかないっすよ、マジでおいしいですコレぇ」
満面の笑みでジェイが答えると、女性は朗らかに声を上げて笑った。
「良かったら、今度コツを教えてあげるわよ。主人と私で作ってるコロッケも違うから、ノウハウなら二つあるわよ」
「マジですかぁ!? 絶対聞きに来ます!!」
「うふふ、待ってるわね。」
「………って、ジェイ! ついコロッケに夢中になっちゃったけど、僕たち聞き込みに来たんだよ!」
「ああそうだったぁ!! 忘れてたわ!! コロッケ美味いんだもん!!」
「? 聞き込みって? レイトちゃんたち、何か調べものでもしてるの?」
「そうなんです、実は調べ物をしてて。おばちゃん、最近この辺で何か、変わったこととか起こってないですか?」
「変わったこと? ………そうねぇ、お巡りさんは前よりも増えたけど……」
女性が通りの方に目をやる。
その視線を辿って、四人も通りの方を見てみれば、人混みに混じって紺色の制服を着た警察官が数人、歩いたり、あるいはどこかに陣取って通行人の様子を窺っていた。
「ほら、レイトちゃんもこの辺に住んでるなら知ってるでしょ、例の『神隠し』の……」
「ええ、知ってます。なんか、結構いなくなっちゃった人が多いみたいですね……」
「あれから、やっぱりまた何人かいなくなってるらしいの。お巡りさんの中にも行方不明になった人が増えたみたいでね……ちょっと、最近ピリピリしてきてるのよ。」
四人は顔を見合わせた。
「………まぁ、僕としてはおばちゃんやおじちゃんが何ともないのが良かったですよ。」
「ありがとうねぇ。レイトちゃんも何ともなくて良かったわ。………でも、どうかしらねぇ……商店街も、今は何もないように見えるけれど、本当は裏では、この間は隣の通りのお嬢さんが。商店街の入り口近くのお店のご主人が……って、何人かいなくなっているの。」
「…………そんな」
「公園の警備員さんが消えたって話が出てから後よ。………皆、そんなふうに見せてないけど、明日は我が身かも、って不安に思ってる人は多いのよ。変わったこと、といえばそういう話になっちゃうわね。」
「そうですか………。ごめんなさい、そんな話をさせてしまって」
「良いのよ、レイトちゃんも不安になってたんでしょう? だから、何かあったら一人で考えないで、周りの人を頼ってね」
「…………ありがとうございます。」
「…………そろそろ行こうか。コロッケ美味しかったです」
テラーズがそう提案すると、他の面々も女性に向き直り、
「美味しかったです!」
「レシピ、今度聞きに来ますね。ごちそうさまでした」
「またね、おばちゃん!」
「また来てねぇ。」
四人は手を振る女性に手を振り返すと、その場から離れた。
暫し、無言の時間が流れつつ、また人混みの中を歩く彼らは、それぞれ考え事に耽っているようだった。
だが、彼らの頭の中は、少なくとも同じような考えを持っていた。
耳に聞こえてきている、日常の当たり前のざわめきの中から消えた誰かがいるのだ───という想像が彼らの頭を支配している。
ジェイの耳に赤ん坊の泣き声と、母親のあやす声が聞こえてきたとしても、脳裏でその実態は父親がある日から忽然と姿を消しているから子供が泣いているんじゃないか……と想像が繋がってしまうほどに、彼らの耳に入ってきた情報は、日常に侵食しようと───いや、もう手遅れかもしれないと思うほどに身近である。
決して、軽い気持ちではなかったとは言い難いが、現地の人間の話を一つ聞くだけでも、彼らの心には確実に何らかの影が植わった。
それか、元からあるものがただ濃くなっただけかもしれないが。
「………テラーズ。俺は、あんたから一つ聞きそびれたことがある」
「……何だ、ジェイ」
「俺が最初に神隠しの話を聞いた時、『政治関係』は……って話をしてたな」
「ああ、言ったが」
「………件の商社ビルは、俺の記憶なら何らかの『宗教団体』に何らかの物品を提供してたんだっけか」
「そう。あの会社は、そういう観点から政治に関わってるんじゃないかと言われていた。実際に、何人かの政治家があの会社の製品を使っているのが目撃されているって話でね。だからネタとして取り扱いづらいって話ではある」
「ちょ、ちょっと、僕、話が見えないんだけどさ……宗教団体って……なんの? あのビル、そんなのと繋がりがあったの?」
「それがな……その宗教団体については、実態が不明なんだ。だから、あるって話も正直本当かが分からない」
「え、えぇっ……?」
「でもさぁ、その宗教団体と神隠しが何の繋がりがあるってんだい? まさか、神隠しって言われてる理由って、そいつが絡んでるからってことか?」
「タカシロの想像は的外れでもないな。実際、神隠しって言葉を最初に誰が言ったのかまでは分からんのだが、少なくともその言葉を使ってる一部はその『宗教団体を怪しいと思ってる』人たちによるものだよ」
「失踪事件、誘拐事件……どっちも言い方はありそう………なのに、『神隠し』……」
レイトは腕を組んで首を傾げる。
「なんてゆーか、アレなんだよなぁ。宗教団体がどうのとか、政治家がどうのとかが絡んでると、なぁんか人の仕業じゃね? って思うのに、なぁんかこう、その、『神隠し』って言葉が繋がんねぇんだよなぁ……」
ジェイはそう言いながら、頭をボリボリと掻く。
「──────思ったんだけどさ」
「ん? 何を?」
「さっきテラーズが言ってたでしょ、『最初に誰が言ったか分からない』って」
「あぁ、実際、わからないからな」
「じゃあもし、それが、誰かが失踪して見つからないってことを言ってるんじゃなくて───本当に『神隠し』みたいなことに遭った人がいて、その人が言ってる……とかない?」
「………レイトちゃぁん……それ、………もしかして、目の前で人が消えたのを見た、みたいな人がいると思ってるってこと?」
「ちょっとジェイ、俺だってそんな漫画みたいなこと起こると思ってないよ!! ないけど! ………でも、普通これだけ事件性がある話なのに、いつまでも『神隠し』って話が噂になるほど横行してるのもおかしくない………?」
「確かに、あのおばちゃん、結構年行ってるのに神隠しって言葉の方を使ってたな。」
「そうだよね、おばちゃんがオカルト信じる人かどうかって話もあるけど、それにしたって……昔の時代とかならわかるけど、この科学が発展した現代でそんなことある? としか」
「………じゃあ、聞くならその、消えた人間の知り合いに聞いたほうが良いことになるけど」
テラーズの言葉に、三人はそこで押し黙った。
「………いや、ここは一つ、前向きに考えよう」
「ジェイ?」
「全員が全員かは知らないが、少なくとも行方知れずになった人がどこに行ったかを知りたくない人ってぇのは、いないはずだ。………聞けば話くらいはしてくれるかもしれない」
「楽観的すぎない? 僕たち、別に探偵でもないし、警察でもないし……どこまで出来るか分かんないんだよ、ジェイ」
「だからさ。何も、探偵だから、警察だからってんで、解決できるわけでもないだろ。そういうのだから、話してくれるってわけでもないし、信用するかは結局話す人次第だ」
「じゃあその信用どうやって得るのさ」
「そこはテラーズが考える」
「「なんでだよ!!」」
「せっかくちょっとカッコいいこと言ってるっぽかったのに……」
「タカシロ、注目するとこそこじゃない」
「…………で、三人とも。ちょっとそのへんの人一人に話しただけでこの深刻さなわけだけど、続けるのかい」
テラーズがそう質問すると、三人は自然と顔を見合わせた。
驚きと、不安と、伺いの表情を浮かべた三人は、少しの間無言のまま見つめ合う。
「俺は続けるよ。なぁんかスッキリしないし」
「……………ぼ……僕も。なんか、ここでやめたら中途半端になる気がする」
「俺は二人が行くなら、ついてくよぉ」
「タカシロだけ二人と初対面なのにそんなノリなのね」
「まぁ、同僚のお子さんが気になるのもあるし。ここでやめて、ここにいる誰かが消えてましたってのもなんかやだしね」
「おお、マトモ」
テラーズはそう言い、目をぱちくりしながらタカシロを見た。
「え、テラーズは俺のことなんだと思ってたの」
「え………変な人?」
「あんたにだけは言われたくない!!」
「まあまあ。……さて、とりあえず。三人とも、それなら手っ取り早く情報を集めよう。こういうのは短期決戦に限る」
テラーズはタカシロを落ち着けると、通りの向こうを指さした。
「さっきのおばちゃんの話で、隣の通りのお嬢さんが……って話が出てたじゃない? ……恐らく、あのおばちゃんの口ぶりからしてまだ学生の女の子だろう。もしかしたら最後に見かけてる人も多いんじゃないかな」
「商店街の入り口のお店のご主人もいなくなってるって話だったけど、そっちはいいのか?」
テラーズの言い分にタカシロがそう答えると、テラーズは「ううん」と唸ってから、口を開く。
「言い方悪いけど、こういう時は大人同士っていうほうが取り乱しやすいと俺は思ってる。大人は、相手が子供だったら守らなくちゃいけないから、結構……そういうことがあっても割り切れる人も多い。子供だから探さなきゃいけないっていう気持ちがある人はあるからな。庇護欲っていうやつだよ」
テラーズの言葉に三人はつい、沈黙した。
「……えっぐいこと言うねテラーズ」
「悪いが、性分だよ」
ジェイが若干引き気味に言ったが、テラーズはしれっとそう応えた。
「…………でも、もしその女の子が見つかれば、他の行方不明者だって同じところにいるかもしれないわけだよね。テラーズの言う通り、短期決戦で済むならそれが一番、良いと思うし。理由はどうであれ、情報を出してくれる人が多く得られそうなのは、確かに女の子周りのほうかもね」
「レイトちゃぁん……あんた結構思い切りいいじゃないの」
「だって、こんな怖い事件があるまま住んでたくもないし……ジェイの家に住まわせてくれるなら考えるけど」
「俺ん家? 二人も寝るとこないよ」
「どんだけ片付けてないの」
「二週間くらい。ごみは捨ててるけど物がちょっと」
「雪崩が起きるやつだ……」
「とりま、隣の商店街とやらに行ってみますか。ここで屯しててもしょうがないしね」
「ちょうどあそこに曲がり角があるから、そこから入ろうか」
四人はそんな話をしながら、商店街を歩いて行った。
◇
四人が曲がり角を曲がり、細めの道を伝って隣の商店街のほうへと辿り着くと、彼らが先ほどまで歩いていた商店街とは違い、人の通りは少なかった。
四人の目には隣の商店街と何がどう違って人が集まる理由が違うのかが分からないほど、特段大きく特徴的に違うことが何もなく、四人は『神隠し』の話を追っていることもあり、小さくなった人の騒めきに若干の不気味さを覚えなくもなかった。
テラーズが何となくあたりを見回すと、店自体は開いているものの、さっきまでいた商店街とは違い、呼び込みの類は一切見えなかった。店員はいるが、通行人には話しかけようともしない。訪れた客への応対のみを行っているように見えた。
「なんか、通り一本違うだけで随分雰囲気が違うんだな。こんなもん?」
「いや……僕、よくここ来るけど……こんな静かじゃなかったよ」
テラーズがレイトに問いかけると、レイトは困惑したように辺りを見回しながらそれに答えた。
「皆、警戒してるってことかねえ」
「あ、ジェイ。これ見てよ、……ほら、なんか……」
「んあ? なんだこりゃ」
タカシロが自分の近くにいたジェイを手招きする。
呼ばれたジェイがタカシロが指さすそれに目を向けると、一枚の張り紙があった。
そこには注意喚起文のようなものが書かれている。
ジェイとタカシロは一瞬顔を見合わせると、もう一度紙の方へ向き、その内容を確認し始める。
「……えーと、なになに……? 『不要不急の外出を控えましょう』……? 『近頃、近隣で行方不明事件が多発しています。保護者に限らず、住民は地域に住む子供たちから目を離さないようにしてください』………だってよ」
「ジェイ、これってさ……」
「……変なこと書いてあんな。『目を離すな』……だってぇ? 防犯対策グッズとか、そういうのじゃあないのかぁ? 普通」
「そうだよねぇ……。……それが、誘拐事件とかなら、だけど」
「……まあ、いきなり頭とかぶん殴られたら、防犯グッズもくそもないだろうが……」
「頭ぶん殴るにしても、ここ結構いろんな時間で人通り多いはずだけどなあ。俺はこの商店街あんまり来ないけど、夜の十時くらいまでは結構人がいるイメージだったよ。さっき見てた感じでも、飲み屋とか多いし、深夜帯で営業してるところもありそうな雰囲気だよ」
「うーん、言われてみればタカシロの言う通りだなあ」
「二人ともどうしたの、電柱なんか見ちゃって」
「ああ、レイト。これだよ」
「何これ」
「張り紙」
「見ればわかるよ!? ええっと……なになに? 注意喚起の紙……?」
「そうなんだよレイトちゃぁん。変だと思わなぁい?」
「ジェイたまにオカマみたいになるの何なの? いや別にいいんだけど……変って、何が? ジェイの頭?」
「なんでそこで俺の頭になっちゃうかなぁ!? 違う違う、紙に書いてある内容だ、内容!!」
「あーーーごめんごめんごめん、内容ね、内容! ……子供から目を離すなって書いてあるけど……」
「変だと思わないか?」
「えぇ? 変かなあ。不思議な話じゃないと思うけど」
「じゃあ聞くけど、『目を離すな』ってどっからどこまでの話だよってならねえか? 小さい子供とかならまだしも……小さいっつっても、ほら、三歳とか四歳とか……幼稚園児とかそういう子あたりならまぁ、とは思うけどよぉ」
「え。……あー……確かに?」
「な、実質無理だろ。」
ジェイが腕を組みながらそう言うと、レイトは「うーん」と唸った。
「第一、大人も消えてるのにさぁ、なんていうかその、見る側消えちゃったら意味ない話だよねぇ、これ。」
「確かに。何のための注意喚起なんだろうね、これ」
タカシロの言葉にレイトは頷いた。
「んっ? あれ、二人とも、テラーズは?」
「え?」
「あれ?」
三人はいつの間にかいなくなったテラーズの姿を探して、辺りを見回す。
どこに行ったのか、と思ってからそれほど立たないうちに、「おーい」というテラーズの声が聞こえて、三人は安堵しながらその声の方を振り向くと。
「すまんすまん、ちょっとあっちの方まで聞き込みに行っちゃってたわ」
片手をあげてテラーズが三人のほうに向かって歩いてきていた。
……なぜか、隣に制服姿の女の子を連れて。
「「「いや誰ーーーーー!?」」」
「うわうるさ」
「いやいやいやいやいやテラーズそれはまずいって!! どこからパクってきたの!! おうちに返してきなさい!!」
「テラーズ、まずいよこれは僕たちが疑われる方になるってそれは!!」
「テラーズにそんな趣味があったなんてお母さん知らなかったわ!!」
「お前ら何の誤解したらそうなるんだ殴るぞさすがに!! 力いっぱい殴るぞ!?」
「「「うわああああああ暴力反対!!!」」」
テラーズは言いたい放題に言う三人に向かって拳を振り上げると、三人は逃げ出す準備をし始める。
その四人の姿をテラーズの横に立つ女子学生はどういう反応をしていいのか困ったような、また呆れたような、話しかけるのを間違えたと考えた時のような顔をしていた。
「とりあえず話聞けてめえら!! この人は例の、消えた学生の女の子の友達だよ!!」
「………え? あ、そうなの。俺ァつい、てっきり」
「ジェイお前後で覚えとけよ」
「えっこわ……」
「え、でもなんで学生さんがこんな時間にこんなところにいるの? 全然今日平日だし、もうお昼休みとかも終わってる時間だよね?」
「………あたし、今日学校さぼってるの」
ぼそっ、と、その女子学生はそのように言った。
ジェイ、レイト、タカシロの三人は顔を見合わせた。
「ええっと……それってもしかして、友達を探して、ってこと?」
「……………」
レイトの問いかけに、女子学生はレイトを見つめたまま静かにうなずく。
「立ち話もなんだから、どっか店に入ろう。さっき喫茶店があったから、そこで話すか」
ジェイが提案すると、女子学生以外の面々が頷いた。
ジェイの指さした方向には、軒先に色とりどりの花が飾られた喫茶店が存在していた。
彼らはそこに向かって歩き始める。
その間、彼らは少女に自己紹介をしたが、少女のほうは頷くばかりで、あまり反応がなかった。
ジェイはそれを見て、「まあ、大の男四人に囲まれたらそうだわな」と小さく息を吐いて納得していた。
喫茶店に入ると、中にはあまり人がいなかったので、好きな席に座っていいと店員に言われた。
「そういうことなら」と、彼らは迷いなく、一番奥の席に腰かける。
明らかに制服を着た、しかも異性の学生連れということで、店員の目は少し痛いものであったが。
それぞれが飲み物の注文をし終えると、四人はその学生のほうに向きなおった。
……が、彼らは何から話したものか、と考えて黙ったままだった。
女子学生のほうも、俯いたまま何かを言う素振りはあまりない。
と、言っても、彼女に関しては『友達が消えた』以上のことを言えるわけではない可能性もある、と四人は薄々考えていなくもなかったのだが。
だからこそ、彼らはどこまでを彼女に聞くべきか、と悩んでいた。
「……とりあえず、君、さっき俺に言ってくれたことを直接こいつらに説明してもらってもいいかな」
埒が明かない、と思ったテラーズがそのように言うと、女子学生はちら、とテラーズのほうに視線をやってから、また俯いた。
「……………。」
また、沈黙が訪れる。
そのうちに、飲み物を運んできた店員が来て、テーブルにそれぞれ並べて行ったのだが、その飲み物がついてからも少し、時間があった。
彼らは特に無理に聞き出そうとも思わなかったので、何も言わずに自分の分の飲み物を煽る。
そうして、五分ほど経った頃だろうか。ようやく少女は口を開いた。
「………一週間前、公園で子供が消えた、って話が出た後。……あたしの友達が、消えたんです。……あたしの、目の前で。」
「………………ええっと、その。それは、どこでの話、なのかな……?」
レイトが遠慮がちに彼女に問いかけると、彼女は少しだけ視線をあげて、レイトのほうを見る。
「……その公園での話」
「………………そう、ありがとう。………えと、どうして、二人ともその公園に行ったの? ……登下校に、使ってるとか?」
「…………………………」
少女はあからさまにそこで、口を噤んだ。
彼女は俯いていた顔をさらに下に向けると、小刻みに震えだした。
レイトがごく、と嫌な予感に喉を鳴らす。
テラーズの冷静な視線が、ジェイの静かな視線が、タカシロの伺うような視線が、少女に向けられる。
「…………………っ、ちょっとした、好奇心ってやつだったの!!」
その視線の中で、彼女は声を張り上げた。
彼女の肩は大きく震え、座っているというのに立ったまま地震に耐えるかのように足に力が入っている。
レイトはびくり、と体を揺らして彼女の剣幕に驚いていたが、その言葉の意味を頭の中で反芻すれば、何となく理解できてきて、冷静になった。
「………学校で……学校でただ、世間話みたいに、話してただけだったの。『神隠しなんて、誰かが言ってるだけの噂でしょ』って。もし、誘拐犯とか人間だったら捕まえちゃえばいいよ、とか………そんなこと言って、……二人で公園に行ったの。……そし、……たら、……こんなことに、なると思ってなくて、それで、あの子が、こんな……こんな、」
少女は頭を抱える。
「あたしが、あたしがあんなこと言いださなければ、あの子は、あの子はこんなことにならなかったのに!! あたしが提案したから、お母さんとも、お父さんとも引き離されて、帰ってこなくなって、学校も……学校もあの子を探してて、大ごとになって……もうどうしたらいいかわかんないのよ!!」
少女は目を見開いたまま、自分の脚を見つめている。
いや、正確には、彼女には今、何も見えていないのかもしれない。
レイトにはそう見えていた。
レイトが他の面々に視線を投げて見れば、誰も何も動き出す気配がなかった。
強いて言うなら、テラーズだけが無表情であった。
その言葉を聞いても、何にも思っていないんじゃないかと思うほど、彼の顔には何も浮かんでいないように見えた。
あのジェイでさえ、静かではあるが思案に沈んだような空気を出しているというのに。
この空間を取り囲んでいるのは、異様な空気であった。
レイトは溜め息にならないように、整えるように息を吐くと、少女の方へ向き直る。
「…………よく、話してくれたね。ありがとう。でも、軽い気持ちで事件に関わろうとしちゃダメだよ。大人だって、どうにかできなくて犠牲になる人もいる。……君の友達がどうなったかは分からないけど、それを探すのは大人の役目だよ。君は、黙っててもいいから、自分のお母さんやお父さん、学校の人を安心させるためにもみんなの前にいてあげて。君までいなくなったら、それこそどうにもならないだろうから」
レイトは説教臭いことを言ってしまった、と思いながらも、口から出してしまったことは取り返せない、と背筋を伸ばす。
少女は変わらず、下を向いたままだったが、自分の頭を押さえつけていた手を、ゆっくりと下した。
………ややあって、少女はレイトの言葉に反応するように、こくん、と頷いた。
レイトは少女には見えないだろう、とわかりつつも苦笑する。
だが、肝心のことを聞けていないと、レイトはもう一度冷静になる。
「それで……ごめんね。こんなこと言っておいて、思い出させるのは、どうかと思うんだけど。………改めて質問をさせてくれるかな。『目の前で』、友達が消えたっていうのは、……どういうこと?」
「………それは………その、……言葉の通りにしか、言えないっていうか……」
「………?」
「……直前まで、あたしと、その子はずっと会話してたの。自分たちで来たとはいえ……結局怖かったからさ、携帯だけもって、カメラ起動してて……カメラ機能のライトで照らしながら、公園をうろついてた。………気が付いたら、なんか、黒いものがいたの」
「黒いもの?」
少女は顔をあげて、レイトに向かって頷く。
「……最初は、人影かなんかだと思った。地面にうずくまってるみたいに見えたの。だから、声をかけたの。『なにしてるんですか?』って。不審者だったら通報してやろう、警察の人だったら帰りの途中だって言って、そのまま誤魔化して帰ろうと思って。………でも、その影は、何にも言わなかった」
「…………それで、どうしたの?」
「そしたら、友達が、『もしかしたら、具合が悪いのかも』って言って、あたしに携帯を渡してその影に近づいたの」
少女は、そこで言葉を切り、ひりついた声で続けた。
「その瞬間、黒いものが……友達に飛び掛かって。……どっちも、いなくなってたの」
レイトは自分の肩が後ろに引かれたような感覚を覚えた。
(つづく)




