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『バグを喰らう者』  作者: Iori-y-


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管理者

こんにちはこんばんはおはようございます

扉が、重く開く。


瞬間――


空気が変わった。


これまでの“歪み”とは、まるで質が違う。


カイは一歩踏み込んだ瞬間、息を止めた。


(……なんだ、これ)


視界が、揺れる。


いや、揺れているのは“視界だけじゃない”。


空間そのものが、定義されていない。


床があるはずなのに、足の感覚が曖昧だ。


壁があるのに、距離が一定じゃない。


「……最悪」


リゼが小さく呟く。


「ここ、“まだ決まってない”」


「決まってない……?」


「うん」


リゼの声がわずかに硬い。


「現実として固定されてない。全部“途中”」


カイの視界に、無数の線が走る。


分岐。


重なり。


選ばれていない可能性。


(……多すぎる)


これまでとは比べものにならない情報量。


頭が軋む。


そのとき。


――カチ、と。


小さな音がした。


世界のどこかで、“何かが選ばれた”ような音。


次の瞬間。


空間が、静止する。


すべての揺らぎが、一瞬だけ止まる。


そして。


そこに、“いた”。


「……あ」


リゼの声が、珍しく揺れる。


カイも言葉を失う。


人の形をしている。


だが、人ではない。


輪郭が曖昧。


存在が“重なっている”。


一人なのに、複数に見える。


複数なのに、一つに見える。


「……来たのか」


それが、口を開いた。


声は静かだった。


だが、直接“頭の中に入ってくる”。


カイの背筋に冷たいものが走る。


(……これ)


理解した瞬間、理解できなくなる。


矛盾した認識。


「お前たちが、“触れている側”か」


視線が向く。


カイに。


そして、リゼに。


「面白い」


その一言で、空間がわずかに歪む。


意図的な歪み。


「……誰」


リゼが言う。


警戒を隠さない。


「あなた、何」


“それ”は少しだけ考えるような間を置いた。


そして。


「定義が必要か?」


軽く言う。


「なら、こう呼べばいい」


一拍。


「“管理者”だ」


空気が凍る。


教官が一歩前に出る。


だが――動けない。


身体が“固定”されている。


「……っ」


声すら出ない。


カイとリゼだけが、かろうじて動ける。


「他は、うるさい」


管理者が言う。


「ノイズが多い」


まるで雑音を消すように。


人を“無効化”している。


リゼが小さく舌打ちする。


「……最悪のやつじゃん」


カイは一歩前に出る。


無意識だった。


「……あなたが、やってるんですか」


「何をだ」


「消失」


管理者は、少しだけ首を傾ける。


「消失、か」


その言葉を味わうように繰り返す。


「違うな」


あっさり否定する。


「“整理”だ」


その瞬間。


カイの中で何かが噛み合う。


(……同じだ)


やっていることの本質が。


「冗長な情報を削除しているだけだ」


管理者は続ける。


「不安定な個体。不要な分岐。未確定な要素」


淡々とした口調。


「それらは、世界の負荷になる」


リゼが睨む。


「だから消す?」


「だから整える」


即答だった。


「お前たちと同じだ」


その言葉が、鋭く刺さる。


カイの手が、わずかに震える。


(……同じ?)


「違う」


リゼが即座に否定する。


「私たちは“戻そうとしてる”」


「結果は同じだ」


管理者が遮る。


「選別している時点でな」


沈黙。


否定できない。


カイは、言葉を探す。


だが。


「……それでも」


絞り出す。


「全部消すよりはいい」


管理者が、初めてわずかに興味を示す。


「ほう」


「選ぶ余地があるなら」


カイはまっすぐ見る。


「残す方を選びたい」


リゼが横で小さく息を呑む。


その言葉は、彼女の領域でもある。


管理者は数秒、沈黙する。


そして。


「……非効率だ」


そう言った。


だが、否定ではなかった。


「だが」


一歩、近づく。


空間がそれに合わせて歪む。


「興味深い」


カイの前に立つ。


距離は近いはずなのに、遠い。


存在が安定していない。


「お前」


カイを指す。


「どこまで“選べる”」


試すような声。


リゼが小さく言う。


「……乗るな」


だがカイは、目を逸らさない。


「わかりません」


正直に言う。


「でも」


一拍。


「あなたよりは、残します」


管理者の目が、わずかに細くなる。


その瞬間。


空間が軋む。


「……言うな」


小さく呟く。


「“より良い”などと」


圧が増す。


世界そのものが押し潰されるような感覚。


リゼが歯を食いしばる。


「……っ、カイ……!」


だがカイは動かない。


むしろ、一歩踏み出す。


「なら――」


静かに言う。


「証明します」


管理者が止まる。


「何をだ」


「残す方が、意味があるってことを」


沈黙。


数秒。


やがて。


管理者が、ほんのわずかに笑った。


それは“人間の笑い”ではなかった。


だが、確かに何かを認めた反応。


「いいだろう」


空間が揺れる。


その瞬間。


部屋の奥に、巨大な歪みが現れる。


これまでとは比較にならない規模。


「これを使え」


管理者が言う。


「お前たちのやり方で」


一拍。


「ただし――」


視線が鋭くなる。


「失敗すれば」


空間全体が、わずかに削れる。


「この区画ごと、“整理”する」


絶対的な宣告。


リゼが小さく笑う。


「……デスゲームじゃん」


だがその目は真剣だった。


カイは歪みを見る。


巨大。


複雑。


無数の“消失しかけた存在”が絡み合っている。


(……これ)


今までの比じゃない。


だが。


横を見る。


リゼがいる。


目が合う。


「やる?」


軽く言う。


いつもの調子。


でも、逃げる気はない。


カイは頷く。


「……やります」


管理者が、静かに見ている。


試す者の目で。


世界を削る者と。


世界を残そうとする者。


その“差”を測るために。

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