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『バグを喰らう者』  作者: Iori-y-


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減らさない方法

こんにちはこんばんはおはようございます

巨大な歪みは、呼吸しているようだった。


膨張と収縮。


そのたびに、何かが生まれ――消えている。


「……見える?」


リゼが小さく言う。


「はい」


カイは即答する。


だが、その声は少し重い。


(多すぎる)


人の輪郭。


断片的な記憶。


名前にもならない情報。


それらが絡み合い、ほどけ、また絡まる。


一つ一つが“消えかけている存在”。


「……これ、まとめて扱うの無理だよ」


リゼが眉をしかめる。


「分けるしかない」


カイは頷く。


「でも、どこで区切るか……」


そのとき。


背後から声。


「単位を決めろ」


管理者だった。


いつの間にか、すぐ後ろにいる。


「すべてを救おうとするな」


淡々とした口調。


「処理単位を定義しろ」


カイは一瞬、息を呑む。


(……ヒント?)


敵ではない。


少なくとも、完全な敵ではない。


「単位……」


リゼが呟く。


「個人単位じゃ無理だね」


「はい」


カイも同意する。


「崩れすぎてます」


リゼが目を細める。


歪みを凝視する。


「……共通点」


ぽつりと呟く。


「似てるやつ、まとめる」


カイが反応する。


「クラスタリング……」


「なにそれ」


「いえ、なんでも」


言いながらも、カイの中で整理が進む。


(バラバラじゃない)


完全なランダムじゃない。


似た“傾向”がある。


「……感情で分けられるかも」


リゼが言う。


「恐怖、後悔、執着……そういうのでまとまってる感じ」


カイが頷く。


「それなら、“核”が見つかるかもしれません」


リゼがニヤッとする。


「じゃあ決まり」


一歩前に出る。


「私は“覚えてる側”から引っ張る」


「僕は“形を保つ”」


役割は自然に決まった。


管理者が静かに見ている。


何も言わない。


ただ、観測している。


「……いくよ」


リゼが目を閉じる。


その瞬間。


歪みの中から、いくつかの“層”が浮かび上がる。


色はない。


だが、質が違う。


「これ……“恐怖”」


リゼが指差す。


ざわつく層。


不安定で、崩れやすい。


「こっちは……“執着”」


重い。


絡みつくような密度。


カイがそれを見極める。


「……じゃあ、一番安定してるのからいきましょう」


「賛成」


リゼが頷く。


「執着は形が残りやすい」


カイが手を伸ばす。


その層に触れる。


(……重い)


だが、崩れない。


芯がある。


「いける」


カイが言う。


「支えられます」


「じゃあ引く」


リゼが集中する。


層の中から、“一つ”を選ぶ。


「……これ」


小さく呟く。


「“帰りたい”って思ってるやつ」


カイの胸が、少しだけざわつく。


(……強い)


単純で、強い願い。


だから残っている。


「いくよ」


リゼが言う。


「はい」


カイが応じる。


同時に動く。


リゼが“記憶の輪郭”を引き出す。


カイが“形の崩壊”を抑える。


だが――


「っ……!」


カイの腕に負荷がかかる。


さっきとは比べものにならない。


量が違う。


「無理するな!」


リゼが叫ぶ。


「一個でいい!」


カイは歯を食いしばる。


(……一個)


全部じゃない。


選ぶ。


「……これだけ!」


一点に集中する。


他は切り捨てる。


その瞬間。


周囲の層が、バラバラと崩れる。


“選ばれなかったもの”。


消えていく。


リゼの目が揺れる。


だが止めない。


止められない。


「――出ろ!」


カイが叫ぶ。


空間が弾ける。


一つの影が、外に引きずり出される。


ドサッ、と音。


床に、一人の少女が現れる。


小さく息をしている。


「……成功」


カイが呟く。


だが。


リゼは、歪みを見ていた。


消えた層。


消えた“他の可能性”。


「……ねえ」


小さく言う。


カイを見る。


「今、何個消えたと思う?」


カイは答えられない。


答えたくない。


管理者が、静かに口を開く。


「一を残し、九を捨てた」


淡々とした評価。


「効率としては、悪くない」


その言葉に、リゼが睨む。


「最悪だよ」


吐き捨てるように言う。


「でも」


管理者は続ける。


「“残した”」


一拍。


「それが、お前たちの選択だ」


カイは少女を見る。


呼吸している。


確かに、“いる”。


(……これでいいのか)


問いが浮かぶ。


だが。


答えはまだない。


少女が、かすかに目を開ける。


「……おかあ、さん……」


か細い声。


それだけで。


“何かは残った”とわかる。


リゼがその様子を見て、小さく息を吐く。


「……ゼロよりはマシ」


もう一度、同じ言葉。


でも、今度は少しだけ重い。


管理者が二人を見る。


評価するように。


「続けるか」


試す声。


カイは歪みを見る。


まだ、無数に残っている。


助けられるかもしれない。


でも、そのたびに。


何かを捨てる。


横を見る。


リゼがいる。


目が合う。


少しだけ、疲れた顔。


でも、逃げてない。


「……どうする?」


リゼが聞く。


カイは数秒、考える。


そして。


「……やります」


静かに言う。


「でも」


管理者を見る。


「やり方は、変えます」


管理者がわずかに興味を示す。


「ほう」


「一つずつじゃなくて」


カイは歪みを見る。


全体を。


「“減らさない方法”を探します」


沈黙。


リゼが少し驚いた顔をする。


「……それ、できるの?」


「わかりません」


正直に言う。


「でも、このままだと」


一拍。


「ずっと、誰かを犠牲にすることになる」


管理者が、静かに笑う。


「それが“世界”だ」


即答だった。


カイは首を振る。


「それでも」


視線を逸らさない。


「別のやり方があるなら、試したい」


沈黙。


数秒。


やがて。


管理者が一歩下がる。


「……いいだろう」


空間がわずかに安定する。


「試せ」


一拍。


「失敗すれば、すべて消す」


絶対的な条件は変わらない。


リゼがため息をつく。


「ハードすぎるでしょ」


でも、少しだけ笑う。


「嫌いじゃないけど」


カイもわずかに息を吐く。


(……減らさない方法)


まだ見えない。


でも。


やるしかない。


その隣で。


リゼが小さく言う。


「ねえ、カイ」


「はい」


「もしそれ成功したらさ」


少しだけ間を置く。


「ちょっとカッコいいよ」


カイは一瞬だけ固まる。


「……そうですか」


「うん」


軽く言う。


でもその目は、少しだけ期待していた。


その期待を背に。


カイは、再び歪みに手を伸ばした。

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