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『バグを喰らう者』  作者: Iori-y-


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3/14

世界の在り方を決める者

こんにちはこんばんはおはようございます

扉の向こうは、これまでの施設とは明らかに空気が違っていた。


静かすぎる。


人の気配はあるのに、音がない。


カイは一歩踏み入れた瞬間、理解した。


(……ここ、“安定しすぎている”)


ノイズがほとんどない。


歪みが、存在しない。


いや――正確には。


“消されている”。


「気づいたか」


前を歩く教官が言う。


「ここは調整区画だ。異常はすべて排除されている」


カイは床を見る。


綺麗すぎる。


まるで世界そのものが“最適化”されているようだった。


(でも……)


胸の奥がざわつく。


さっき感じた違和感と同じ種類のもの。


“足りない”。


「来い」


案内されたのは、円形の部屋だった。


中央に机。


その周囲に、数人の大人が座っている。


全員、視線だけでカイを測っていた。


「例の被験体か」


その一人が言う。


感情の薄い声。


「……随分と普通だな」


「今、テストを行った」


教官が短く答える。


「結果は?」


「S相当だ」


一瞬、空気が揺れた。


だがカイには別のものが見えていた。


(この人たち……)


微かに、歪んでいる。


だがそれは自然なものじゃない。


“整えられた歪み”。


不自然に均一なズレ。


「ほう」


男の一人が身を乗り出す。


「では実演してもらおう」


指を鳴らす。


その瞬間。


部屋の端に、歪みが発生した。


だがカイは眉をひそめる。


(さっきのとは違う……)


これは“自然発生”じゃない。


意図的に作られている。


しかも――粗い。


「修正しろ」


命令だった。


カイは動かない。


数秒の沈黙。


「聞こえなかったか?」


別の男が言う。


カイはゆっくりと口を開いた。


「これ、バグじゃないです」


空気が止まる。


「……何だと?」


「これは“作られた歪み”です。修正対象じゃない」


教官の視線がわずかに鋭くなる。


「違いがわかるのか」


「はい」


カイは歪みを見る。


その奥にあるもの。


(これ……)


一瞬だけ、“線”が見えた。


どこかへ繋がっている。


「繋がってます」


「どこに?」


「……わかりません。でも、これを消すと――」


カイは言葉を切る。


胸の違和感が強くなる。


(また消しすぎる)


「やらない方がいいです」


ざわめき。


だがすぐに、冷たい声がそれを押さえた。


「却下だ」


最初に話していた男が言う。


「我々は結果を見るためにここにいる」


その目は、カイではなく“機能”を見ていた。


「修正しろ」


カイは動かない。


教官が一歩前に出る。


「カイ」


低い声。


「これは命令だ」


少しだけ、間があった。


カイは目を閉じる。


(……どうする)


従えば評価される。


逆らえば、終わるかもしれない。


だが――


(これは、“直しちゃいけない”)


目を開く。


「……やります」


そう言って、歩き出す。


だがその足取りは、さっきまでと違っていた。


歪みに手を伸ばす。


触れる直前で、わずかに止まる。


(全部消すんじゃない)


意識を変える。


“選ぶ”。


指が触れる。


視界が開く。


だが今度は、無数の分岐の中から――


一本の“線”だけを追う。


(これが、本体)


歪みの核。


作られた原因。


「……切る」


小さく呟く。


その瞬間。


歪みが、音もなく消えた。


同時に――


遠くで、何かが“切れた”。


カイの背筋に冷たいものが走る。


部屋は静寂に包まれていた。


「……完了です」


顔を上げる。


大人たちの表情は、先ほどと明らかに変わっていた。


評価ではない。


警戒。


「今、何をした」


カイは少し考える。


正直に言うべきか。


それとも――


「バグを、直しました」


同じ答え。


だが今度は、誰も笑わなかった。


教官だけが、静かに呟く。


「……違うな」


その目は、確信していた。


「お前は、“直していない”」


一拍。


「“選んでいる”」


カイは何も答えなかった。


だがその沈黙が、答えだった。


そしてその瞬間。


この部屋にいる全員が理解した。


この少年は。


“世界を正常に戻す者”ではない。


“世界の在り方を決める者”だと。


そして――


それは、あまりにも危険すぎる力だった。

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