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『バグを喰らう者』  作者: Iori-y-


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選択

こんにちはこんばんはおはようございます

区画全体が、軋んでいた。


壁がわずかにズレる。


床の位置が、瞬間的に入れ替わる。


人の声が、途中で途切れる。


「……限界だね」


リゼが呟く。


「混ざりすぎてる」


カイは歪みを見る。


いや、もう“歪み”というより――


“世界そのものが歪んでいる”。


「原因は一つだ」


管理者が言う。


「お前の処理だ」


カイは否定しない。


できない。


「削除を拒否し、圧縮を選んだ結果」


淡々と続ける。


「整合性が崩壊しかけている」


リゼが舌打ちする。


「つまり?」


「選べ」


管理者の声が、少しだけ重くなる。


「一つに戻すか」


一拍。


「このまま“混ざった世界”を維持するか」


沈黙。


カイの中で、何かが止まる。


「……戻すって」


リゼが低く言う。


「どういう意味」


「簡単だ」


管理者が答える。


「“基準”を一つに定める」


カイの脳裏に浮かぶ。


あの最初のやり方。


揃える。


一つを選び、他を消す。


「それが最も安定する」


管理者の声は正しい。


理屈としては。


「……で、混ざったままは?」


カイが問う。


「不安定だ」


即答だった。


「いずれ崩壊する」


一拍。


「だが、“消えない”」


リゼが小さく笑う。


「最悪の二択だね」


カイは目を閉じる。


頭の中に、今までの光景が浮かぶ。


消えた人。


戻せなかった人。


混ざった人。


そして――


リゼ。


「ねえ」


その本人が言う。


「私はどっちでもいいよ」


軽い声。


でも、嘘じゃない。


「消えるの、慣れてるし」


カイの心臓が強く鳴る。


「でも」


リゼが少しだけ視線を逸らす。


「今は、ちょっと嫌かも」


小さな本音。


カイは目を開く。


「……僕は」


言葉を探す。


「全部残したいです」


リゼが笑う。


「欲張り」


「でも」


カイは続ける。


「それで全部壊れるなら意味がない」


管理者が静かに言う。


「ようやく理解したか」


カイは頷く。


そして。


「だから――」


ゆっくりと、言う。


「“範囲を決めます”」


リゼが眉を上げる。


「範囲?」


「はい」


カイは周囲を見る。


「全部じゃなくて、“ここだけ”を残す」


管理者の目が細くなる。


「局所維持か」


「他は?」


リゼが聞く。


カイは少しだけ迷って。


でも、答える。


「……戻します」


沈黙。


それはつまり。


この区画以外は――


「消すってこと?」


リゼの声は静かだった。


カイは頷く。


「完全には消えません」


自分に言い聞かせるように言う。


「でも、“選ばれない”」


リゼは何も言わない。


ただ、カイを見る。


数秒。


そして。


「……いいよ」


あっさり言う。


「どうせ全部は無理だし」


でもその目は、少しだけ寂しそうだった。


「その代わり」


一歩近づく。


「ここは、ちゃんと残して」


カイは強く頷く。


「はい」


管理者が言う。


「実行しろ」


その声は、どこか静かだった。


試す者ではなく。


見届ける者のように。


カイは深く息を吸う。


そして――


両手を、空間に触れる。


(範囲指定)


初めての感覚。


世界の“境界”に触れる。


「――ここまで」


線を引く。


見えない線。


だが確かに存在する。


その内側と外側。


「内側は維持」


「外側は――」


言葉が詰まる。


だが。


「戻す」


その瞬間。


世界が、軋む。

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