世界を区切る者
光が、弾けた。
音はない。
ただ、“決定”だけがあった。
次の瞬間。
すべてが静かになる。
カイは、ゆっくりと目を開ける。
……そこは、同じ区画だった。
だが。
違う。
空気が、安定している。
歪みがない。
「……成功?」
リゼの声。
カイが振り返る。
そこに、彼女がいる。
はっきりと。
混ざっていない。
「……はい」
カイは答える。
周囲を見る。
人がいる。
記憶も、関係も――
完全ではないが、安定している。
「やったじゃん」
リゼが笑う。
少しだけ、安心した顔。
だが。
カイは気づく。
「……静かすぎる」
外が。
音がない。
リゼも気づく。
「……外、どうなってる?」
二人で、区画の外へ出る。
扉を開ける。
その先にあったのは――
“何もない”空間だった。
建物も、人も、空も。
すべてが、曖昧な灰色に溶けている。
「……うわ」
リゼが呟く。
「やりすぎ」
カイは言葉を失う。
(……これが、外側)
“選ばれなかった世界”。
完全な消失ではない。
だが、存在しないに等しい。
管理者が現れる。
「正しい選択だ」
淡々と言う。
「最小限の損失で、安定を確保した」
カイは拳を握る。
「……正しい、ですか」
「少なくとも、機能的にはな」
冷たい答え。
リゼが小さく言う。
「ねえ、カイ」
「はい」
「後悔してる?」
カイは少し考える。
そして。
「……少しだけ」
正直に言う。
「でも」
リゼを見る。
「あなたが残ったので」
一拍。
「それでいいです」
リゼが一瞬固まる。
そして。
「……それ、ズルい」
顔を逸らす。
でも、少しだけ笑っている。
管理者が二人を見る。
「お前は」
カイに言う。
「世界を“削る者”ではなく」
一拍。
「“区切る者”だ」
新しい定義。
「管理者に近い」
カイは首を振る。
「違います」
静かに言う。
「僕は――」
リゼを見る。
少し迷って。
でも、言う。
「残したいものを選ぶだけです」
管理者は何も言わない。
だが否定もしない。
やがて。
「……好きにしろ」
それだけ言って、消える。
空間が静かになる。
残ったのは。
小さな区画と。
そこにいる人々と。
二人だけ。
リゼが、ふっと息を吐く。
「で、これからどうする?」
カイは周囲を見る。
狭い世界。
でも、確かに“ある”。
「……整えます」
リゼが笑う。
「まだやるの?」
「はい」
カイも少しだけ笑う。
「今度は、壊さないように」
リゼが一歩近づく。
距離が、自然に縮まる。
「じゃあさ」
軽く言う。
「一緒にやろうよ」
カイは頷く。
「はい、相棒」
リゼが少しだけ不満そうな顔をする。
「……それだけ?」
カイが少し困る。
「え?」
リゼがため息をつく。
でも、すぐに笑う。
「まあいいや」
一歩、さらに近づく。
「そのうちアップデートしてよ」
カイは首をかしげる。
「アップデート?」
リゼが肩をすくめる。
「関係性の話」
少しだけ赤い顔で。
カイは理解していない顔のまま。
でも。
「……考えておきます」
真面目に答える。
リゼが吹き出す。
「ほんとズレてるね」
でも、そのズレが――
今は、少しだけ心地よかった。
世界は小さくなった。
失われたものは多い。
それでも。
残ったものがある。
選ばれた世界で。
選ばれた二人が。
これから、少しずつ“整えていく”。
それが、彼らの物語の続きだった。




