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第21楽章

いつもの倉庫スタジオ。


グループLINE


ピコン。


一つ。


また一つ。


駿

『みんな元気か?』

『今、アジアツアー中』

『今度、日本に帰る』


一瞬。


沈黙。


次の瞬間——


ピコンピコンピコンピコン!!


止まらない。


亮太

「おおおおおお!!!」


圭一

『マジかよ』


浩平

『生きてたか』


ゆり子

『帰ってくるの!?』


いずみ

『やったー!』


スマホが鳴り続ける。


⸻


アジアのホテル。


駿、スマホを見る。

鳴り止まない通知。


少しだけ、苦笑する

(……変わってねぇな)


⸻


LINE


亮太

『で!いつ!?』

『横断幕持って迎えに行く!!』


駿

『来るな』


『お前らに依頼だ』


空気が、変わる。


亮太

「きたーーーー!!!」


駿

『ドイツの楽団と』

『トラオケでコラボする』

『曲はこっちで決めていいか?』


亮太

『イエッサー!!!』


駿、苦笑。

指が動く。

『ボレロだ』


一瞬、止まる。


爆発。


『うおおおおお!!!』

『マジか!!!』

『やるぞ!!!』


熱が、一気に上がる。


駿

そして——

『それから、もう一つ』


流れが、変わる。


『ドイツのメンバーと」

『和馬」

『それから』

『蓮』


空気が、止まる。


『四人で弦楽四重奏をやりたい』


空気が止まる。


亮太

「おー!!」


和馬

『問題ない』


亮太


『よっしゃーーー!!!』

『全員集合だな!!』

『リハの日決めるぞ!!』


駿

『その時、会うな』


決まる。

通知が、止まる。


⸻


亮太

「楽しみだな!駿に会える!…あれ?」

眉をひそめる。

「なんで……蓮の名前知ってんだ?」


空気。


全員の視線。


蓮へ。


蓮、ゆっくり、顔を上げる。

何も言わない。

スマホを差し出した。


画面には――


『ミュージックカレッジ学院』


動画が流れる。

見覚えのある編成。


一瞬。


全員の視線が画面に釘付けになる。


そして――


「あー……」


亮太

ニヤッと笑う。

「よし」


立ち上がる。


「合同リハの前に——俺たちのリハだ!!」


空気が、締まる。


⸻


音が、ぶつかる。

かなり熱の入ったリハ。


止まらない。

誰も、引かない。


蓮

その中で——

一瞬、視線を外す。


壁の時計。


「……」


ほんのわずか。

息を整える。


ヴァイオリンを下ろす。


ケースを開ける。

静かに、収める。


音は——

まだ続いている。


圭一

弾きながら、横目で見る。

「おい」


蓮

立ち上がる。

「これから行くところがある…

今日は、上がる」


音が、少しだけ揺れる。


亮太

眉をひそめる。

「なんか……珍しいな……」


蓮、答えない。


ケースを持つ。


そのまま——

扉へ。


音の中を、抜ける。

ドアを開ける。


振り返らない。

出る。


ドアが閉まる。

音が、遠くなる。


⸻


広い空港ロビー。

スーツケースを引く人。

行き交うアナウンス。


ざわめきは、途切れない。


蓮、立っている。

動かない。


手にはスマホ。


画面には——


“19:00”


視線の先は到着ゲート。


まだ、来ない。


アナウンス

何か言っている。


でも——

入ってこない。


蓮、内心は

少しだけ。

落ち着かない。


人が流れ出てくる。


次々と。


知らない顔

知らない声。


その中に——


一人。


周りより、少しだけ歩幅が違う。

見覚えのある、歩き方。


蓮、視線が止まる。


駿、スーツケース。

肩の力、抜けてる。


でも——

目で、見つけ合う。


お互い——


距離がゆっくり、縮まる。


駿

「……よう」


蓮

軽く手を上げる。


沈黙


でも——

気まずくない。


駿

少し笑う。

「来たのか」


「ああ…お前、いつまでいんの」


駿

「数日」


「短いな」


「忙しいんだよ」


「知ってる」


駿

少しだけ——

真面目な顔。

「お前は?」


蓮

「……やってる」


「見りゃ分かる」


蓮

「音、変わったな」


駿

一瞬、止まる。


蓮

「いい方に」


駿

ほんの少しだけ——

笑う。


人混みの中。

二人だけが、止まっている。


それで、十分だった。


⸻


駿

「何食う」


蓮

「ラーメン」


即答。


駿

「だと思った」


二人、歩き出す。


夜。


暖簾が揺れる。


ラーメン屋。


店内はカウンターだけ。


店主

「いらっしゃい」


駿

「二人」


席に並んで座る。

メニューは見ない。


駿

「ラーメンでいいか?」


蓮

「ああ」


「ラーメン二つ」


沈黙


駿、水を飲む。

「で」


「で?」


「楽しいか」


蓮

少し考える。

「……まぁな」


「“まぁ”かよ」


「そっちは?」


駿

「忙しいでも——」


少しだけ笑う。


「悪くない」


蓮

小さく頷く。


ラーメン

が来る。


湯気。


二人

同時に箸を取る。


少しだけ、間が合う。


ズルッ。


熱い。


でも——

悪くない


駿

「……変わったな」


蓮

「何が」


「前はさ、もっと尖ってた」


「今は?」


駿

少し考える。

「丸くなった」


「悪い意味で?」


「逆、ちゃんと、届く音になった」


蓮、

箸が止まる。


駿

「前は、“上手い”だけ…今は、“残る”」


蓮

小さく、息を吐く。

「……そうか」


駿

少し笑う。


蓮

「俺も負けてらんねぇ」


「勝手にしろ」


「するよ」


二人、

また、食べる。


沈黙


でも——

満ちてる。


同じ席。

同じラーメン。


湯気が、ゆっくり消えていく。


丼が、空になる。

席を立つ。


——


店の外

暖簾を出る


夜風。

少しだけ、涼しい。


駿、ポケットに手を入れる。


蓮、空を見上げる。


駿

「……弾くか」


蓮

視線を戻す。

「ここで?」


駿

少し笑う。

「ホテル戻るのもな」


蓮

「ああ」


小さな公園。

街灯が、一つ。


静か。


駿と蓮。


向かい合う。

言葉は、ない。


弓を構える。


わずかな動き。

空気が、張る。


《パッサカリア ト短調》


低く、

始まる。


一つの流れ。

繰り返し。

逃げない。


駿。

先に置く。


迷いがない。

静かに、

深く。


蓮。

すぐに重ねる。


少しだけ、

鋭い。


でも——

外さない。


音が、

絡む。

ぶつからない。


でも、

譲らない。


繰り返す。


少しずつ、

熱が上がる。


駿。

一歩、踏み込む。

音が、

太くなる。


蓮。

すぐに返す。

輪郭を、

強くする。


言葉はない。


でも——


音が、

答える。


街灯の下。

影が、

揺れる。


弓の動き。

呼吸。


ぴたりと合う瞬間。

わずかにズレる瞬間。


その全部が、

会話になる。


止まらない。

繰り返す。

積み上がる。


やがて——

ふっと、

ほどける。


最後の音。

消える。


静寂。


どちらも、

動かない。

弓を下ろさない。


ほんの少しだけ、

息が上がっている。


駿、

口の端を上げる。

「悪くない」


蓮、

わずかに視線を逸らす。

「そっちも」


風が、

少しだけ吹く。

街灯が揺れる。


夜は、変わらない。


でも——

二人は、もう同じ場所に立っている。


⸻


倉庫スタジオ


翌日。


全員、揃っている。

準備はできている。


なのに——

亮太がいない。


和馬

スマホを取り出す。

「……遅いな」


かけようとした、その時。


扉の向こう。

足音。

ガチャ。


入ってきた——


亮太。


……


……


空気が止まる。


タキシード。

完璧な。


無駄にキマってる。


亮太

満面の笑み。

「いやーーー!駿に会うからさ!」


一歩、ポーズ。


「正装しなきゃと思ってさっ!」


沈黙。


圭一

「……お前、それで運転するのか?」


ゆり子

顔をしかめる。

「無理。恥ずかしい」


仁

即答。

「脱げ」


亮太

「え?」


次の瞬間——


全員、動く。


「ちょっ、ちょっ待てって!」


「いいから脱げ!」

「シワになるって!」

「知らん!」


強制。


数秒後。


亮太

いつもの服。


髪だけ無駄にキマってる。


「ひどくね?」


仁

「行くぞ」


即、切り替え。


和馬

ドアを開ける。


外には——

ワーゲンバス。


エンジン音。


「……いよいよだな」

和馬が呟く。


空気が変わる。

さっきまでの笑いが、静かに沈む。


向かう先は——

リッツカートンホテル。


ドイツ楽団との初顔合わせ。


そして——


駿。


——


ワーゲンバスは、街の中へ。


車内は笑い声が止まらない。


亮太

「絶対ビビるって!オレ見て!」


圭一

「もうビビってるわ」


ゆり子

「ほんとやめて」


いずみ

笑ってる。


空気は——

軽い。


でも、その奥。

少しだけ、緊張。


仁

「……久しぶりだな」


⸻


ホテル駐車場


ワーゲンバスが止まる。

エンジン音が落ちる。


静けさ。


ドアが開く。


⸻


ロビー


一歩、入る。


空気が変わる。

音が、吸われる。


さっきまでの笑いが、静かに消える。


亮太

小声。

「……ほらぁータキシードの方が良かったじゃん」


全員

スルー。


和馬

スマホを見る。

「……そろそろだな」


その時。


エレベーターの

扉が、開く。


降りてくる——


ドイツ指揮者ルーカス


その後ろに——


駿。

ドイツ楽団。

視線が、交わる。


一瞬。


止まる。


駿

見つける。


「……」


そして——

笑う。


歩き出す。

距離が、一気に縮まる。


亮太

「おおおおお!!!」


我慢できない。


そのまま——

抱きつく。

「生きてたぁぁ!!!」


駿

一瞬、よろける。

「やめろ、お前……!」


でも——

笑う。


周り

少し遅れて、動く。


圭一

「おかえり」


ゆり子

「ほんとに帰ってきたんだ」


いずみ

「おかえり〜」


和馬

何も言わない。

ただ、軽く頷く。


駿

一人ずつ、見る。

「ああ」


短く。


でも——

全部、入ってる。


その時。


ルーカス

一歩、前に出る。


空気が、また変わる。


場の温度が、下がる。

視線が集まる。


ルーカス

静かに、全員を見渡す。


そして——

「トラベリング•オーケストラか」


低い声。

無駄がない。


仁

一歩前に出る。

「指揮者の塩見仁です」


ルーカス

「ルーカスだ」

軽く頷く。


それだけ。

余計な言葉はない。


でも——


十分。

空気が締まる。


フェリックス。


視線を横に流す。

止まる。


蓮。

数秒。

無言。


測るように。

蓮も、逸らさない。


ぶつかる視線。

静かな火花。


駿

それに気づく。


一歩、

前に出る。


間に立つ。


視線を、

それぞれに向ける。


一瞬だけ。


「トラオケ」


それだけ。


振り返る。


「こっちは、

今の俺のとこ」


その言葉に、少しだけ重み。


亮太

「くぅ〜〜〜!!

…….かっけぇぇぇ!!!」


ゆり子

「ちょっと黙って」


圭一

「うるせぇ」


いずみ

笑ってる。


空気が、少しだけ緩む。


ルーカス

それを見て——

小さく息を吐く。


そして。

次の一言。

「今からリハーサルだ」


一切の迷いなし。

“今からやる”

その圧。


亮太

「え、ちょ、今!?」


和馬

もう歩いてる。

「当たり前だ」


蓮

無言でついていく。


駿

振り返る。


一瞬だけ。

元メンバーを見る。


そして——

笑う。


「行こうぜ」

その一言。


全員、動く。


再会は——

終わり。


そのまま、歩き出す。


つづく…

お読みいただきありがとうございます。

第22楽章へ———

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