第14楽章
いつもの倉庫スタジオ。
亮太が珍しく頭を抱えている。
「…蓮との歩み寄りが
欲しいところだよなぁ」
亮太
(なんかねぇのかよ——
グッと近づくやつ)
そこにPCが鳴る。
メール受信。
件名:トラベリングオーケストラ様
『初めまして。
私は、レイクサイドキャンプ場を経営している者です。豊かな自然に囲まれて四季に合わせてイベントをしているのですが、お客様からオーケストラの生演奏を聴きながら自然の素晴らしさを実感したいとリクエストを頂き
トラベリングオーケストラ様にお願い
出来ないかとご連絡いたしました。
レイクサイドキャンプ場』
亮太
一瞬、固まる。
そして——
目が、輝く。
「キャンプ!BBQ!1泊!
ワーゲンバス!ありだろ!これ!」
ニヤけながらスマホを取り出し
グループLINEに
「今日夜九時!全員集合!」
ピコン。
ピコン。
ピコン。
次々と通知が鳴る。
OK
了解
分かった
行ける
既読はつくのに、
返事をよこさない奴が一人増えた。
仁はいつものことだが
画面を見つめる。
「……あいつか」
既読ついてるし
「ま、いっか…」
夜九時。
倉庫スタジオのシャッターを開けて
待っていると
メンバーが入ってきた。
亮太
「よう!」
圭一
「……お前…なんでニヤけてるんだ?」
ゆり子
「嫌な予感がする」
浩平
「同感だな」
和馬
「右に同じ」
いずみ
「そんなに楽しい依頼なの?」
その時——
仁が入ってきた。
「亮太を信用するな」
亮太
「なんでだよ!」
全員笑う。
と、ふと見ると
仁の後ろで横を向いている蓮の姿。
亮太はさらにニヤける。
仁
「で、依頼か?」
亮太、勢いよく
「レイクサイドキャンプ場!
生演奏を聴きながらキャンプ!
つまり——俺たちもキャンプだ!」
全員固まる。
ゆり子
「は?」
圭一
「決定事項なのか?」
亮太、嬉しそうに
「もう了解です。って送信した」
全員
「えええええ!!?」
亮太
「肉の用意もしとくからさ!
ワーゲンバスでキャンプだ‼︎」
浩平
「俺、いい肉屋知ってる!」
亮太
「最高かよ!」
盛り上がる二人。
それ以外のメンバー
頭を抱える。
蓮は静かに目を閉じていた。
——
和馬
「で、レイクサイドってことは?」
亮太
「湖岸のキャンプ場」
いずみ
「気持ちよさそう」
亮太
「日没から夜にかけての演奏」
ゆり子
「曲は静かな方がいいわね」
和馬が
テーブルの上にいつくかの楽譜を置く。
亮太がチラッと蓮を見て
「蓮!お前も考えてくれよ」
蓮
仕方なさそうに
みんなの居るテーブルへ
亮太
(内心:きたあああああ!!!)
テーブルの上には
静かな曲ばかり並ぶ。
いずみ
「外だと音、流れるよね」
圭一
「風もあるしなぁ」
ゆり子
「繊細な方がいいわね」
決め手がない。
その時——
蓮
一枚、手に取る。
視線だけで読む。
そして
静かに置く。
全員の視線
そこにあるのは——
亮太
「おっ…」
和馬
少しだけ頷く。
「……ブラームスか」
蓮
「夜に合う」
全員、譜面を見る。
仁
「それでいく」
蓮。
少しだけ間。
「…分かった」
和馬
小さく笑う。
「やっと会話したな」
亮太ニヤける
(内心:きたあああああああ!!!!)
ゆり子
「顔、うるさい」
小さく、笑いがこぼれる。
仁
立ち上がる。
「決まりだ」
亮太
両手広げて。
「よーーし!!!キャンプだあああああ!!!」
全員
「そっちかよ!!!」
⸻
そして当日
倉庫前。
ワーゲンバスの後ろで
亮太がせっせと荷物を詰めている。
クーラーボックス。
袋。
袋。
また袋。
亮太
「よし……肉よし!飲み物よし!
完璧!!」
その時——
ゆり子
「……何それ」
亮太
「肉」
ゆり子
「見れば分かる」
浩平
目が輝く。
「量おかしくない?」
亮太
「足りないよりいいだろ!」
圭一
「一泊だよな?」
亮太
「一応な!」
いずみ
クーラーボックス覗く。
「……業者?」
和馬
「演奏しに行くんだよな?」
仁
後ろから一言。
「帰るぞ」
亮太
「行く前から!?」
蓮、肉の山を見る。
一言。
「……無駄」
亮太
「食うから無駄じゃない!」
全員、軽く笑う。
空気が柔らかい。
亮太、手を叩く
「よし!行こうか!」
全員
視線が集まる。
亮太
満面の笑み。
「キャンプ場へ!!!」
乗り込む
ガチャ、バタン。
エンジンがかかる。
低く、懐かしい音。
走り出す。
最初は——
見慣れた街。
信号。
コンビニ。
人の流れ。
亮太
「音楽流すぞー!」
爆音。
ゆり子
「うるさい」
笑いが混ざる。
そのまま、走る。
気づけば——
建物が、少しずつ減っていく。
道が広くなる。
窓の外に、緑が増える。
いずみ
「なんか、匂い違うね」
圭一
「草の匂い」
さらに
風が入る。
カーテンが、揺れる。
さらに進む。
亮太
「もうすぐだぞー!」
最後のカーブ
視界が、開ける。
その先に——
湖
きらり、と光る水面。
いずみ
「うわ……!」
ワーゲンバスが、ゆっくりと減速する。
砂利を踏む音。
エンジンが、止まる。
静けさ。
ドアが開く。
ガチャ。
外の空気が、流れ込む。
仁
周囲を見る。
一言。
「音が合う」
亮太
満面の笑み。
「だろ!!!!!」
オーナー
「トラベリング•オーケストラの皆さまですか?」
一歩、近づく。
「今日はよろしくお願いします」
亮太
「はい!任せてください!」
少しだけ間。
ニヤッ。
「あと、キャンプも全力で楽しみます!」
オーナー、少し笑う。
「どうぞ、ごゆっくり」
亮太
「よーし!まずはテントだ!」
圭一
「説明書どこ?」
亮太
「いらん!」
ゆり子
「いる」
バサッ。
テント、崩れる。
浩平
「腹減った」
いずみ
「まだだよ」
蓮
少し離れて見ている。
仁は何も言わない。
和馬
無言で支柱を立てる。
蓮
ちらっと見る。
少しずつ
全員が手を動かす。
テントが形になる。
亮太
「できたあああ!!!」
全員
「普通」
——
夕方
空の色がゆっくり変わる。
橙から赤へ。
湖がその全部を映す。
楽器を構える。
観客はまばら。
その向こうに、
空。
湖
どこまでも、広がっている。
仁
静かに手を上げる。
止まる空気。
《ブラームス 交響曲第3番ヘ長調》
振り下ろされる。
音が、広がる。
湖に、溶ける。
風に、流れる。
誰も、無理に合わせない。
それでも——
少しずつ。
距離が、近づいていく。
音が、続く中。
いずみ
ふっと笑う。
浩平
小声で
「外でやるの、いいな」
ゆり子
小さく。
「音が軽い」
蓮。
何も言わない。
でも——
さっきより、離れていない。
音が、終わる。
拍手は、少ない。
でも——
悪くない。
亮太。
少し離れた場所で
ニヤッと笑う。
(内心:いい感じじゃねぇか)
音が、ほどけていく。
風の音。
湖の揺れ。
誰かが、息を吐く。
浩平
「……腹減った」
一瞬の間。
圭一
「出たな」
笑いがこぼれる。
⸻
打ち上げBBQ
パチ、パチ。
炭が弾ける音。
湖はすっかり夜。
亮太、汗だく。
ひたすら焼く。
ジュウウウ……
他のメンバー
皿を持って並んでいる。
浩平
「次まだ?」
いずみ
「いい匂い〜」
圭一
「のんびり待つかぁ」
ゆり子
「焼けたのからでいい」
亮太
「……おい」
誰も気づかない
肉、焼ける取られる。
また焼く。
また取られる。
亮太
「おい!!!」
全員
「ん?」
亮太
「誰も焼かねぇのかよ!!!」
一瞬、止まる。
和馬
「任せてた」
ゆり子
「適任」
浩平
「うまいし」
亮太
「ふざけんな!!!」
トング振り回す。
「蓮!!!」
全員の視線が向く。
蓮
一言。
「焼けてる」
亮太
「そうじゃねぇ!!!!」
トングを振る。
「焼く側に来いって言ってんの!!!」
蓮
「……今?」
亮太
「今だよ!!!」
蓮
ため息をつく
「……はぁ」
しぶしぶ立つ。
交代
トングを渡す。
亮太
「ちゃんと焼けよ!」
蓮、何も言わない。
炭を見る。
そして、火の強さ。
位置。
肉を置く。
変化
音が変わる。
ジュウ……
均一。
無駄がない。
ひっくり返す
迷いがない。
香りが、一気に立つ。
浩平
「え?」
いずみ
「なんか違う」
圭一
「プロ?」
ゆり子
じっと見る。
「……焼き慣れてるわね」
和馬
小さく。
「無駄がない」
亮太
ポカン。
「は?」
蓮
淡々と。
「火、強すぎ」
炭をずらす。
さらに肉を休ませる。
仕上げ
静かに置く。
蓮
一言。
「……食え」
全員
一斉に食べる。
——沈黙。
浩平
「うっっっま!!!」
いずみ
「やばいこれ」
圭一
「全然違う」
ゆり子
小さく
「火、支配してる」
和馬
小さく頷く。
亮太
遅れて食べる。
固まる。
「は???
なんだこれ!!!店出せるだろ!!!」
蓮
肉を焼きながら。
「普通」
亮太
「普通じゃねぇ!!!」
笑いが広がる。
仁
遠くから。
わずかに笑う。
そのあとも
蓮
自然に焼き続ける。
亮太、横に立つ。
小声。
「……サンキュな」
蓮
少しだけ間。
「別に」
でも——
トングを渡さない。
それを見る亮太
一瞬だけ
口元が緩む。
焚き火の火。
笑い声。
⸻
パチ……パチ……
焼ける音が、少しずつ減っていく。
誰かが、串を置く。
火だけが、残る。
小さな焚き火。
火の明かりが
顔を揺らす。
湖は静か。
まったりな空気が流れる。
いずみ
「なんか落ち着くね」
圭一
「いいなぁ、これ」
ゆり子
「うるさくないのがいい」
亮太
ニヤッ。
「甘いな」
全員
嫌な予感。
亮太
袋を取り出す。
「デザートだ!!!」
中身
マシュマロ。
浩平
「おお!!!」
亮太
「こうやってな——」
グイッ。
棒に刺す。
そのまま——
火のど真ん中。
一瞬。
ボッ!
全員
「え」
マシュマロ…真っ黒。
亮太
「え?」
ゆり子
「焦げてる」
圭一
「というか燃えてた」
浩平
「もったいねぇ!!!」
亮太
「いや今のはミス!」
すぐに、もう一本。
ためらいなく——
突っ込む。
ボッ!
全員
「学習しろ!!!」
煙が上がる。
咳き込む。
いずみ
「ちょっと煙すごい!」
煙が、流れる。
誰も近づけない。
そのとき。
蓮が、無言で立つ。
亮太
「お、やるか?」
蓮
火の横に座る。
マシュマロを刺す。
火の外側
ゆっくり回す。
静かに、少しずつ色づく。
甘い香りにきつね色。
蓮
「……はい」
いずみ
「わぁ……」
浩平
食べる。
「うっま!!!」
圭一
「全然違う」
ゆり子
「焦げてない」
亮太
「なんでだよ!!!」
蓮
「火、見ろ」
亮太
「見てたわ!!!」
和馬
小さく。
「見てないな」
笑いが、少し落ち着く。
亮太
真剣に焼く。
ゆっくり。
蓮
チラッっと見る。
「……そこじゃない」
亮太の腕を軽く掴む。
少しだけ横へ動かす。
位置をずらす。
「そこ」
亮太
「お、おう」
完成!
少し歪だけど
焼けてる。
亮太
食べる。
「……うま」
蓮
「だろ」
一瞬
目が合う。
⸻
夜も更けてきた。
焚き火は、もう小さい。
声も、少なくなる。
誰かが、あくびをする。
亮太
「……そろそろ寝るか」
圭一
「だな」
いずみ
「ちょっと冷えるね」
それぞれテントへ。
寝袋を広げる慣れない手つきで。
浩平
「これどっちが上?」
ゆり子
「知らないわよ」
和馬
無言で整える。
亮太
「よし!おやすみ!」
早い。
静けさが、落ちる。
遠くで虫の音。
テントの中は微かな寝息。
蓮
目を閉じている。
でも——
眠っていない。
ふいに
小さな明かり。
スマホ画面にメッセージ。
駿
“上手くやってるか”
蓮
一瞬だけ、止まる。
蓮
“問題ない”
送信。
すぐに既読がつく。
だが——
返事はない。
画面を消す。
目を閉じる。
そのまま——
チュン……チュン……
鳥の声。
朝の光。
湖は静か。
完璧な朝。
テントの中——
ぐちゃ。
亮太
「……ぐえ」
寝袋に絡まっている。
亮太
「出れねぇ!!!!」
バタバタ。
和馬
すでに起きている。
仁
コーヒーを入れている。
亮太
やっと脱出。
「はぁ……死ぬかと思った」
外へ出る亮太。
「うお、まぶしっ」
仁
「遅い」
亮太
「いや遭難してたわ!!!」
和馬
「テントでな」
いずみ
「空気いい〜」
圭一
「あと5分……」
ゆり子
引きずり出す。
「起きろ」
浩平
すでに外でパン食べてる。
亮太
「それいつの!?」
浩平
「さっき」
亮太
「どこから!?」
そのとき——
光が、湖に落ちる。
キラキラと揺れる。
一瞬
全員
少しだけ黙る。
いずみ
「……きれい」
圭一
「来てよかったな」
蓮が、外に出てくる。
寝癖がほんの少し付いている。
亮太
「うわレア!!!」
蓮
「殺すぞ」
全員、笑い。
仁
蓮にコーヒーを渡す。
蓮
一口。
「……うまい」
仁
「普通だ」
亮太
「なんでそこ静かなんだよ!!!」
亮太
パンをかじりながら。
「よし!!!今日も遊ぶぞ!!!」
全員
「帰るだろ!!!」
笑いが、残る。
片付けの音。
テントを畳む。
火を消す。
湖が、また静かになる。
——
ワーゲンバス
エンジンが低く響く。
走り出す。
車内は来た時より
少しだけ静か。
でも途切れない会話
いずみ
「昨日の音、よかったよね」
圭一
「風がちょうど良かったな」
ゆり子
「まだ粗いけど」
浩平
「肉も、うまかったぁ」
全員
「そっちかよ」
和馬
小さく笑う。
蓮
窓の外を見る。
でも、少しだけ
会話を聞いている。
亮太
バックミラー越しに
みんなを見る。
ニヤニヤが止まらない。
亮太
小声で
「いいじゃん……」
誰も、気づかない。
でも——
車の中の空気は、
昨日とは少し違っていた。
つづく…
お読みいただきありがとうございます。
第15楽章へ———




