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第12楽章

飛行場。


展望デッキ。


空を切り裂くように、

一機の飛行機が滑走路を走る。


加速していく。


そして——

ふっと浮き上がる。


空へ。


小さくなっていく機体。


やがて、

雲の向こうへ消える。


風の音だけが残る。


亮太

ぽつり。

「駿……行っちゃったな」


誰も

すぐには返さない。


いずみ

小さく。

「……さみしいね」


圭一

「……ああ」


浩平

鼻をすする。

「泣いてねぇし」


ゆり子

「うるさい」


和馬は、空を見たまま

黙っている。


短く。

「……始まるだけだ」


その言葉に、誰も返さない。


でも——

全員、分かっている。


——


数週間後。


今日はいつもと雰囲気が違う

倉庫スタジオ。


いずみ

「なんか緊張する〜!」


圭一

「お前が受ける側かよ」


ゆり子

「変なの来ないといいけど」


亮太

「来るだろ」


ニヤッと笑う。


「俺らのとこだぞ?」


ドアの向こうに小さなざわめき。


「ここで合ってるよな?」

「トラオケって……」

「やば、緊張してきた」


亮太

ドアの前でニヤッとする。

「来た来た」


亮太、勢いよくドアを開ける。


「ようこそ!トラオケへ!」


外にいたのは、数人の若い演奏者たち。

楽器を抱えて、少しだけ固い表情。


亮太

「面接とか、堅いのやらないから」


少し笑う。


「とりあえず、弾いて」


一瞬、ざわつく。


亮太

「順番でいいから、入ってきて」


——


一人目。

緊張してる手で弓をおく。


ひとつ、ひとつ丁寧。

確かめるように。


間違えないように。

それだけを、守っているみたいに。


まっすぐに進む。


乱れない。


崩れない。


でも——

どこにも、引っかからない。


音が、止まる。


一瞬の静寂。


圭一

小さく。

「うまいな」


浩平

ゆっくり頷く。

「うん」


ゆり子

淡々と

「決め手がないわね」


いずみ

小さく

「すっと流れちゃうね」


亮太

ノートPCを見ながら。

「印象、残りにくいな」


誰かが、言葉を探す。


でも——

ぴったりの言葉は、出てこない。


仁は、何も言わない。


ただ——

ほんのわずかに、目を閉じた。


——


二人目。

ゆっくりした動きで構える。


迷いがない。


決めた通りに、進んでいく。


外さない。


崩れない。


きれいに、揃っている。


でも——

踏み込んでこない。


音が、止まる。


一瞬の静寂。


浩平

小声。

「悪くねぇけどな」


圭一

ぽつりと

「ちゃんとしてる」


ゆり子

静かに

「優等生ね」


和馬

短く。

「隙がない」


亮太

画面を見ながら。

「完成してるな」


少しだけ顔を上げる。


「完成しすぎてる」


沈黙。


誰も、否定しない。


仁は、静かに言う。

「一人で完結している」


——


次。


ドアがガンッと開く。

少し乱暴な音。


空気が変わる。


一人の青年。

ケースを肩にかけたまま。


視線だけがまっすぐ刺さる。

挨拶……しない。


いずみ

「えっ……」


浩平

「クセ強」


ゆり子

「論外ね」


仁、じっと見る。


亮太

「……どうぞ」


青年

頷きもしない。


空気だけが張る。

そのまま弓を置く。


そして

一音。


弓が、叩きつけられる。


空気が、止まる。


さっきまでのざわめきが、

嘘みたいに消える。


まっすぐじゃない。


でも——

離れない。


視線が、吸い寄せられる。


いずみ

「……!」


ゆり子

小さく。

「……なにこれ」


浩平

目を見開く。

「おい……」


次の音、少し荒い。

完璧じゃない。


音が、前に出る。


引きずるように。

連れていくように。


呼吸が、変わる。

誰も、動かない。


追いかけるように、音が走る。

少し危うい。


圭一

静かに

「荒いな」


浩平

「めちゃくちゃだ……」


——そのとき


和馬

目を細める。

「……ツィゴイネルワイゼン…」


気づけば——

誰も、評価していない。


ただ、聴いている。


仁は、動かない

ただ見ている。


音は、さらに激しくなる。


まるで——


誰かの感情を、

そのまま投げつけてくるみたいに。


いずみが、

小さく息をのむ。

「……すごい」


言葉にした瞬間、

少しだけ悔しそうな顔。


綺麗じゃない。


でも——

目を離せない。


最後。


急に音が落ちる。

すっと、消える。


終わる。


誰もすぐに動けない。


——音が、まだそこにある。


完全な静寂。


青年は何も言わない。


ただ、

こちらを試すように見る。


亮太

「うち、選んだ理由は?」


青年

即答。

「選んでない」


一切、迷いのない声。


空気が凍る。


浩平

「は?」


ゆり子

「落とすわよ」


青年

「別にいい」


一言。

「名前は」


青年

「……上野蓮」


頷く。

「来い」


——一瞬。


誰も意味を理解しない。


そして——


全員

「えええええ!?」


浩平

「マジかよ!」


ゆり子

「ありえない!」


圭一

「絶対!揉めるだろ」


いずみ

「うん……」


和馬

小さく笑う。


亮太

ニヤニヤしてる。


静かに言う。

「面白くなる」


蓮は、ただそこに立っている。


空いていた場所。


そこに新しい音が入る。

まだ混ざらない。


でも——

確かに始まっている。

衝突する音が。


駿がいない。


でも

止まっていない。


そして——

新しく入った存在。


ぶつかるのは、

分かっている。


でも——

それでいい。


同じ音じゃなくていい。


同じ方向を、

向いていればいい。


まだ、

ひとつじゃない音。


だからこそ、

進む。

強くなる。


新しい形で。


トラベリング・オーケストラは——

止まらない。


次の場所へ。


つづく…

お読みいただきありがとうございます。

第13楽章へ———

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