幕間 大陸へ
——小大陸 三国 同じ頃
◆ ◆ ◆
——アルタ正教国 山岳の地 出発の朝
ハルドは——山の頂を見た。
雲が——山の中腹にあった。
頂が——雲の上にあった。
「……行くぞ。」
静かに言った。
「はい。」
副官が——答えた。
三旅団が——山の麓に並んでいた。
アルタの山岳騎士団だった。
山で鍛えられた——強い足腰を持つ者たちだった。
「……三代前の祖父が——「必ず来る」と言った。」
「はい。」
「……来た。」
「はい。」
「……では——我らが行く番だ。」
ハルドは——馬に乗った。
三旅団が——動き始めた。
山を——降りていった。
◆ ◆ ◆
兵士の一人が——振り返った。
山が——見えた。
生まれた山だった。
育った山だった。
「……戻れるか。」
隣の兵士が言った。
「戻る。」
「根拠は。」
「……ハルド枢機卿が——戻ると言っていないからだ。」
「……それが根拠か。」
「十分だ。」
二人が——前を向いた。
山が——遠くなっていった。
◆ ◆ ◆
——マレン正教国 港
エイラは——甲板の上に立っていた。
船が——並んでいた。
「……出港します。」
副官が言った。
「はい。」
「……エイラ枢機卿。」
「何ですか。」
「正式な要請の前に——動くことは、問題ないですか。」
エイラが——海を見た。
「計算して——動いています。」
「……どういう計算ですか。」
「要請が来てから動けば——一週間遅れる。一週間——戦場では長い。だから先に動く。」
「……承知しました。」
「それと——」
「はい。」
「アルバ教皇の書に——「あなたの計算が必要になる日が来ます」と書いてあった。」
「はい。」
「……その日が——来た。」
エイラが——前を向いた。
「出港します。」
「はい。」
船が——動き始めた。
海が——広がっていた。
◆ ◆ ◆
船の上で——兵士たちが並んでいた。
海兵騎士団だった。
海に慣れた者たちだった。
でも——大陸に行くのは——初めての者が多かった。
「……大陸はどんな場所だ。」
若い兵士が言った。
「……広いらしい。」
「小大陸より。」
「ああ。小大陸の何倍もある。」
「……戦争をしているのか。」
「している。」
「……なぜ。」
「……人間同士が——殺し合っている。」
「なぜ人間同士が。」
「……分からない。でも——止めに行く。」
「誰が止めるんだ。」
「アルバ教皇が——止める。」
「……子どもの教皇が?」
「ああ。」
「……本当に止められるのか。」
「……イレーネ教皇代理が信じている。」
「……それで——十分か。」
「十分だ。」
海が——続いていた。
◆ ◆ ◆
——セルヴァ正教国 森林の地 出発の夜
ラウレは——聖堂の前に立っていた。
鐘が——まだ余韻を残していた。
「……行きます。」
静かに言った。
「……初代教皇様。」
「あなたの子孫が——大陸に行きます。」
「あなたが——大陸に正教国を作った。」
「その正教国が——危うくなっている。」
「……守りに行きます。」
「あなたの血が流れる子孫が——守りに行きます。」
◆ ◆ ◆
二旅団が——森の中に並んでいた。
松明が——揺れていた。
「……夜に出発するのですか。」
若い騎士が言った。
「はい。夜の森を——歩けるのは、我らだけです。」
「……暗くて——見えません。」
「森が——案内してくれます。」
「……森が。」
「はい。初代教皇が——この森を育てた。その森が——我らを送り出してくれる。」
若い騎士が——木を見た。
「……本当に。」
「信じなくていいです。でも——歩けます。」
「……そうですね。」
二旅団が——動き始めた。
森が——静かに、その者たちを送り出した。
◆ ◆ ◆
ラウレが——最後に振り返った。
聖堂が——見えた。
鐘が——静かに立っていた。
「……鳴らせました。」
静かに言った。
「イレーネ教皇代理の手紙に——「鳴らしてもいいですよ」と書いてあった。」
「……鳴らした。」
「民が——集まった。」
「二旅団分の志願者が——集まった。」
「……鐘の力だ。」
「初代教皇が——この森に作った聖堂の。」
「その鐘の力だ。」
ラウレは——前を向いた。
森の中を——歩き始めた。
「……行きます。」
「初代教皇様。」
「あなたが——大陸に作ったものを。」
「守りに——行きます。」
夜の森が——静かに広がっていた。
三国の旅団が——大陸へ向けて動いていた。
山から。
海から。
森から。
それぞれが——それぞれの道で。
同じ場所へ——向かっていた。




