第六十二話 発動
——正教国 大広間 一週間後
一週間——休んだ。
計算は——続けていた。
でも——術式は使わなかった。
根源律を——閉じたままにしていた。
「……慣れてきました。」
セラフィアに言った。
「……感知範囲が——広くなっても。」
「はい。最初の三日間は——目が回りました。でも——今は問題ありません。」
「……承知しました。」
「では——動きますか。」
「はい。」
◆ ◆ ◆
大広間に——全員を集めた。
イレーネ。
セラフィア。
イルマ。
エーファ。
「特別異端審問作戦を——今日、発動します。」
私は言った。
「はい。」
「内容を——確認します。三段階です。」
◆ ◆ ◆
「第一段階。評議会員全員に——「異端審問召喚状」を送ります。正式なアルバ教皇名義で。」
「はい。」
「召喚状の内容:「正教会はあなたを異端として審問する。三十日以内に正教国に出頭せよ。応じない場合——正式に異端と認定する。アルバ」」
「三十日以内、ということですか。」
「はい。三十日の猶予を——与えます。」
「……猶予を与える理由は。」
「対話の窓を——開けておくためです。評議会員の中には——迷っている者がいるかもしれない。その者に——選択の時間を与えます。」
「ヴォルフラムですか。」
「はい。それと——ゼールバッハ王も含みます。」
◆ ◆ ◆
「第二段階。小大陸の四国に——書を送ります。」
「内容は。」
「「異端審問を発動した。三十日後——異端が確認された場合、軍事支援を要請する。準備を整えよ。アルバ」」
「……小大陸を——正式に動かす準備をする。」
「はい。」
「四枢機卿は——動けますか。」
イレーネが言った。
「ハルド枢機卿からの報告では——三旅団の準備が完了しています。エイラ枢機卿は——海路を確保済みです。ラウレ枢機卿とカシム枢機卿も——準備中だと聞いています。」
「……三十日あれば——動けます。」
「はい。」
◆ ◆ ◆
「第三段階。特殊騎士団が——各評議会員の動向を監視します。」
「はい。」
「イルマ団長。現在——評議会員の所在は把握できていますか。」
「ヴォルフラム:カルヴァーン王城。ゼールバッハ王:前線に近い位置にいるという情報があります。ライナー:不明。ラエティア宰相:王都に籠っているという情報があります。」
「……ライナーだけが——不明ですか。」
「はい。魔族から逃走中という情報があります。」
「……ライナーは——今、自分の立場を失った。でも——頭は動いている。何かを計算しているはずです。監視を——最優先にしてください。」
「承知しました。」
◆ ◆ ◆
「一つ——確認させてください。」
エーファが言った。
「どうぞ。」
「特別異端審問作戦の発動後——正教国軍は何をしますか。」
「防衛を——維持してください。」
「攻勢には出ませんか。」
「今は——出ません。」
「なぜですか。」
「攻勢に出れば——評議会が団結します。今——評議会は内部で揺れている。その揺れを——利用します。外から圧力をかければ——揺れが止まる。だから——今は守る。」
「……守りながら——内側から崩す。」
「はい。」
エーファが——静かに頷いた。
「……承知しました。第五騎士団は——防衛を維持します。」
◆ ◆ ◆
「以上が——三段階の作戦内容です。」
私は言った。
「質問はありますか。」
しばらく——沈黙があった。
「……一つだけ。」
セラフィアが言った。
「どうぞ。」
「……あなたは——作戦発動後、どう動きますか。」
「ゼールバッハ王との——直接対話を試みます。」
「……どこで。」
「中立地帯を——設けます。正教国でも——ゼールバッハ領でもない場所で。」
「……ゼールバッハ王が——来ますか。」
「来させます。」
「……どうやって。」
「召喚状と——同時に、書を送ります。」
「内容は。」
「「直接話したい。中立地帯で会おう。アルバ」」
セラフィアが——少し止まった。
「……それだけですか。」
「はい。」
「……ゼールバッハ王が——来ると思いますか。」
「来るかもしれません。来ないかもしれません。でも——送ります。」
「理由は。」
「……選択肢を——与えることが、対話の第一歩だからです。」
◆ ◆ ◆
「では——発動します。」
私は言った。
「イレーネ教皇代理——召喚状を今日中に送ってください。」
「はい。」
「イルマ団長——監視を強化してください。ライナーの所在を——最優先で。」
「はい。」
「エーファ副総長——防衛ラインを維持してください。」
「承知しました。」
「セラフィア大神官——私の傍にいてください。」
「……はい。」
「以上です。」
◆ ◆ ◆
大広間が——動き始めた。
全員が——それぞれの持ち場に向かった。
私は——一人、大広間に残った。
「……発動した。」
静かに言った。
「三ヶ月以内——まだ間に合う。」
「評議会が——揺れる。」
「その揺れを——計算する。」
「……動く。」
◆ ◆ ◆
ノートを開いた。
「特別異端審問作戦——発動。」
書いた。
「第一段階:召喚状を評議会員全員に送付。三十日猶予。」
「第二段階:小大陸四国に書を送付。軍事支援準備を要請。」
「第三段階:特殊騎士団による監視強化。ライナーの所在把握を最優先。」
「ゼールバッハ王への直接対話要請——召喚状と同時に送付。」
一行空けた。
「……三十日後——何が変わるか。」
「ヴォルフラムが動くか。」
「ゼールバッハ王が来るか。」
「ライナーが——何を計算しているか。」
「……全部——見える場所にいる。」
「根源律が——広くなった今。」
「……全部——計算する。」
もう一行。
「三ヶ月の残り時間——計算中。」
「……まだ——動ける。」
ノートを閉じた。
正教国の空に——光が差していた。
灰色の瞳が——静かに、発動した作戦の行方を見ていた。




