EP66 ID please
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車はいつの間にか発進する。
ほとんど揺れのないスムーズな走行。
広々として洒落た装丁の車内装飾、フカフカのソファ。
やはり普通の車ではない。
「どこに向かってるんだ?」
辻獅堂が聞く。
フレデリック麗羅がささやきかける。
「2人きりになれる、と・こ・ろ」
「おふざけは、もうやめてくれ」
獅堂が真顔で言う。
「あはは」
麗羅が笑う。
「やっぱり獅堂は、からかうと面白いね」
「俺は楽しくないよ」
「ごめんごめん、だって獅堂、退学処分になんて、されちゃってるんだもん」
「なんだ、もう知ってるのか」
「今日、校内の掲示板に張り出されてたよ」
「早いな。俺も今日、学校から連絡があったばかりだ」
「それでいいの?」
「まあ、仕方ないよな。警察まで動いてるんだから」
「でも正しく動いているかどうかは分からないでしょ?」
「正しい? 正しいって何だ?」
獅堂がたずねる。
麗羅が、大きなため息をつく。
「いいわ、あなたと話してると禅問答になっちゃう」
麗羅はそう言って、こう続ける。
「質問を変える。あなたは退学ですっきりするかもしれないけど、あなたが救ってきた仲間はどう?」
「仲間?」
「あの子たちはあなたを必要としていて、助けようと署名運動まで始めている。なのに、あなたは何も感じないの?」
獅堂は額に手を当てて考え込む。
そして、絞り出す。
「確かに、このまま学園を辞めたくない気持ちは少し、あるんだ」
麗羅はだまってうなずく。
獅堂が続ける。
「でもそれが1年6組のためなのか、と言われると、俺の中でつながらない」
そして頭を抱え込む。
麗羅が言う。
「もう、考えなくていいよ。少しでも、辞めたくないという気持ちがあるなら十分」
車はいつしか高速道路に乗っていた。
「もうすぐ着くわ」
車は大きな施設に到着する。
周囲は鉄製の高い塀に囲まれている。
車は重厚な石造りの門で一時停止する。
そこには監視所があり、制服を着た守衛が座っている。
大柄な体格で、明らかに日本人ではない。
車の運転手は自分の免許証を出して、顔の近くにかざす。
守衛がうなずく。
麗羅も後部座席のウィンドウを開けて、顔を見せ、自分の学生証を提示する。
「ほら、あなたも」
麗羅が言う。
促されて獅堂はバッグから学生証を出し、自分の顔の横にかざす。
「俺はもう退学なんだけどな」
獅堂がつぶやく。
麗羅が悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「今朝までは学生だったから、ギリ、セーフじゃん?」
守衛は親指を立て、続いて手で中へ進めと指示する。
「ここは何処なんだ?」
獅堂が聞く。
麗羅が言う。
「あなたは知らないほうがいいわ」
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




