EP51 休戦協定
お読みいただき、まことにありがとうございます。
ソフィアの唇を吸おうとする東大島。
鈍い音が響いた。
それとともに東大島の体が、ソフィアの上に崩れ落ちる。
そこにいたのは辻獅堂だった。
ソフィアにのしかかる無防備な東大島の背中。
その後頭部に、強烈な回し蹴りを食らわせたのだ。
「獅堂!」
ソフィアは涙を浮かべながら、東大島の体を跳ねのけ、獅堂に駆け寄る。
そして首にしがみつく。
獅堂は震えが止まらないソフィアの金色の髪を、そっとなでる。
ソフィアが泣き声で尋ねる。
「なぜ、ここがわかったの?」
「今週の頭に変な話をしてきたから、尾行して自宅を割り出させてもらった。立派な豪邸だったな」
「えっ!?」
「で、今日は豪邸前で15時からタクシーで待機して、つけさせてもらった」
「なんて人なの…」
獅堂はソフィアの手を握り、倉庫から連れ出す。
そして待たせていたタクシーの後部座席に乗る。
「俺のせいで、こんな目に遭わせて、すまない」
「ううん。助けてくれてありがとう。私、あんな男に何かされたら、もう生きていけないもの」
「気持ちはわかるけど、早まったこと言うな」
「気持ち、わかってなんかないでしょ?」
獅堂は黙る。
また、まずいことを言ってしまったらしい。
ソフィアが言う。
「わたしは他の誰の男のものにもなりたくないの。わからないの?」
そして彼女は獅堂の腕にすがりつく。
獅堂は柔らかな金髪の髪を撫でる。
ソフィアは体を獅堂にあずけ、その胸の中に身をゆだねる。
獅堂は彼女の肩をそっと抱いた。
ソフィアは小さな寝息を立てていた。
獅堂は彼女を自宅の10メートル手前まで送り届けると、彼女を起こした。
「あとは自分で帰れるな」
ソフィアはうなずく。
キスを交わしたそうだったが、獅堂は、
「じゃあ明日!」
とその空気を打ち消す。
変なことをして見つかったら、彼女の家族に半殺しにされるだろう。
獅堂はソフィアの背中を押して送り出す。
すこし口をとがらせた彼女だったが、そのまま素直に帰っていった。
翌日の図書館での〈セッション〉。
獅堂が来る前に、女子メンバーは全て集まっていた。
綾乃が言う。
「いま辻くんは、明らかな危険にさらされている」
集まった女子がうなずく。
綾乃が続ける。
「辻くん自身が狙われることもあるけど、最近は私たちが誘い出されて狙われる。まずは私たちがうかつに動かないことが大切よ」
美穂も言う。
「6月26日の事件も、辻くんからの偽メールに騙された私たちが襲われたものね」
綾乃がうなずいて、こう言う。
「敵の正体はわからないけど、私たちの辻くんへの気持ちにつけこんできてる」
奈緒も同意して言う。
「私も本音は、辻くんを独り占めするチャンスを狙ってる」
他の女子から笑いが起きる。
美穂が言う。
「私だってそう。心に隙が生まれる。だからこそ今は、女子で協力したいの。今は休戦してみんなで辻くんを助けてあげたい」
奈緒も言う。
「賛成。このセッションも私たちだけで回していければ、よりいいよね」
そして、こう続ける。
「辻くんのおかげで、勉強とどう向き合えばいいのかも理解できたし」
美穂もうなずいていう。
「今まで頼り切っていたけど、これからは私たちで辻くんを助けてあげないとね」
全員がうなずく。
「あれ、何を話してるの?」
そこで、小寺孝雄が話に入ってきた。
彼も、このセッションのメンバーだ。
奈緒が説明する。
「辻くんをみんなで助けてあげたい、って話で盛り上がってたんだよ」
小寺が優しい細い目を、さらに笑顔で細めながら言う。
「そうだね。それがいいと思う。みんなも辻くんのことを思いやって、偉いね」
女子たちが、小寺の笑顔につられるように穏やかな笑顔を浮かべる。
「話していればなんとやらだ。辻くんが来たよ」
獅堂が図書館に入ってくる。
セッションの女子たちは次々に席を立ち、獅堂のもとに集まる。
みな口々に、先程まとまった話を獅堂に聞かせる。
それを小寺は笑顔で見守っている。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




