EP46 心の隙間
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翌日の朝の学園。
脇腹の肋骨は痛み続けているが、ロキソニンの湿布でなんとか抑えている。
あとは気合で我慢する。
顔の青アザは大きなマスクで隠している。
辻獅堂の姿を見た美穂がそばに来る。
「辻くん、風邪?」
「そんなところ」
「噓でしょ」
「本当だよ」
「じゃあ、マスク取って見せてよ」
「大丈夫だよ」
「見せなさい!」
美穂が目を三角にしながら、獅堂のマスクをはぎ取る。
獅堂の顔面の右側に大きな青あざができている。
「やっぱりケガしてるじゃない」
「なぜ、わかった?」
「だって辻くん、ウソつくとき、いつも気持ち悪い笑顔浮かべるんだもん」
「気持ち悪いって……」
獅堂は頭をかく。
「気持ち悪いは冗談。ともかく、またケンカしたの?」
「ケンカじゃないよ。襲われたんだ」
美穂の目に、みるみる涙が浮かぶ。
「辻くんがまた危険な目に遭うなんて、私はもう耐えられない」
「お前には関係ないだろ?」
美穂は真っ赤になって獅堂を蹴り飛ばす。
獅堂の体が近くの机にぶつかり大きな音をたてる。
クラス中が振り向いた。
獅堂が慌てて言い訳をする。
「あ~ゴメンゴメン、俺、コケちゃって…」
みんなの顔が元に戻った。
「下手な言い訳」
両手を腰に当て美穂が仁王立ちする。
彼女がこう続ける。
「だいたい、関係ないって、どういうことよ」
美穂はすこし小声で言いながら、獅堂をつねる。
「私は辻くんに身も心も初めてを捧げてるんだからね」
「おいおい、体の関係があるみたいに言うなよ」
「エッチしたかどうかなんてどうでもいい。もっと大事なことがあるの」
獅堂は黙る。
美穂が言う。
「それに、私、辻くんより強いでしょ」
「ある意味ではね…」
「私、辻くんのこと守ってあげる。だから、ずっと一緒にいましょ」
「今後は気をつけるから許してくれよ」
「仕方ないわね。また何かあったら、おわびしてもらうからね」
「おわび?」
「そう、お・わ・び」
言い捨てると美穂は自分の席に戻った。
その様子をじっと見つめている視線があった。
石橋奈緒だった。
始業開始のチャイムが鳴ると、奈緒は獅堂と視線をからませながら戻っていく。
2時限目と3時限目の間、体育から戻ってきた獅堂。
廊下の端に石橋奈緒が一人で立っている。
獅堂があいさつ代わりに軽く手を上げて通り過ぎようとすると、石橋奈緒が袖をつかんだ。
「辻くん、ちょっといい?」
獅堂はうなずいて、奈緒と向かい合う。
彼女が言う。
「夏川さんと何かあったでしょ?」
上目遣いに獅堂の顔色の変化をじっくり観察している。
獅堂は頭を掻きながら、
「何もないよ。みんなと同じ友達だ」
「噓!」
奈緒が責めるように言い、こう続ける。
「じゃあ何で頭を掻いてるの。やましいんでしょ?」
「考えすぎだよ」
奈緒が言う。
「ごめんなさい。だって夏川さん、すごく幸せそうなんだもの。きれいになったし」
「石橋さんだってきれいだと思うが」
奈緒が口もとを抑えて赤くなる。
「お世辞を言ってもらおうと、そんなこと言ったわけじゃないの」
「いや、お世辞じゃなくて本当にきれいだから」
奈緒は真っ赤になって固まってしまった。
「俺、まずいこと言ったか?」
獅堂が言うと恵美は、
「いいえ、そうじゃないの。でもさっき、夏川さんが辻君を蹴飛ばしてたでしょ」
「見られていたか…」
「私も蹴飛ばしたいわ」
獅堂は頭を抱えた。
「至らず、申し訳ない」
「そういうとこよ!」
奈緒は獅堂のすねを軽く蹴った。
「痛てっ」
「あはは」
奈緒が初めて笑った。
獅堂もつられて笑う。
奈緒が言う。
「6組のみんなは事情聴取が始まって不安でいっぱいよ。そのうえ獅堂くんもケガしてる」
獅堂はうなずく。
奈緒が続ける。
「そんなとき女の子はどんな気持ちだと思う?」
「……」
獅堂は沈黙するしかない。
奈緒が言う。
「誰かが一緒にいてくれて、話を聞いてほしい。夜、寝るときも、おやすみを言ってほしい」
「なるほど、俺にはそんな大変な役目、務まりそうもないな」
「だから不満なのよ!」
奈緒は獅堂のすねを強く蹴った。
「痛た~っ!」
獅堂は今度は体を折り脛を抑える。
「いい気味よ!」
奈緒は言い捨てて、踵を返して教室に戻っていく。
一連の様子を、6組教室近くの柱の陰で、夏川美穂がじっと見つめていた。
そして階段の踊り場の影に隠れながら、それを見ている人物の影があった。
「これはうまく使えそうだなぁ」
そういいながら、スマホを右手でいじっている。
「辻獅堂くん、覚悟しておいてくれ」
その人物の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




