EP38 熱い抱擁
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会談は早々に組まれた。
翌日の放課後だ。
辻獅堂は緑川綾乃に聞く。
「場所はどこだ?」
「ディべート室よ」
「聞いたこともないぞ。どこだよ?」
「2階の東側の廊下の奥よ」
「この学園はなぜ変な部屋をいっぱい作るんだ。物好きだな」
「相変わらず口が悪いわね」
綾乃がため息交じりに言う。
一方の奈緒は屈託のない笑顔で言う。
「2組クラス委員のフレデリック麗羅って、どんな人かな? 話すの初めてだから楽しみ!」
ディベート室はそんなに大きくない。
だがどんな議論形式にも対応できるよう、折り畳みの机とイスが多くの種類用意されている。
綾乃が手際よく、小さな机1つと、イスを数脚、並べ始める。
そこにドアを開けて、入ってきたのが、ブロンド金髪の女生徒だった。
「ハァ~イ、綾乃。今日は話を受けてくれてありがとね!」
身長は170㎝を少し超えているだろう、大きな茶色の瞳に、すっきりとした鼻筋。
石橋奈緒は、口をぽっかり開けてすっかり見とれている。
綾乃は精一杯のつくり笑顔で、麗羅と握手を交わし、言う。
「こちらこそ、お声をかけていただいて、感謝します」
綾乃はこう続ける。
「フレデリックさんは、お一人なんですか?」
「イエス、私一人で皆さんのことを知ったほうが、付き合いやすいですからね。それに綾乃、私のことは麗羅って呼んでくれる?」
「わかったわ、麗羅」
またもや、引きつった笑顔で答える綾乃。
そのまま麗羅と綾乃は少し沈黙する。
瞳の奥を探り合っているようにも見える。
やがて麗羅が口を開いた。
「綾乃、あなたは、ミスター平出やそのお友達とはとんな関係だったのですか?」
綾乃が言う。
「私と、5組のクラス委員との関係について知りたいの?」
「イエス! どうやって潰したんですか?」
綾乃が噴き出して、こう答える。
「潰すも何も、連絡さえ取ってないわ」
「じゃあどうやって、5組を追い越したの?」
「私たちは勉強会で成績を伸ばしたの。そのリーダーがここにいる奈緒ちゃんです」
麗羅が奈緒に視線を向けると、
「初めまして、石橋奈緒です」
「まぁ、可愛らしいGIRLね」
麗羅が言うと、綾乃は、
「可愛いだけじゃなくて、奈緒ちゃんは、数学のテスト順位が校内1位なんですよ」
「OH、すごいですね!」
奈緒は顔を覆いながら照れている。
麗羅が言う。
「6組はグループ学習で、フェアに5組を逆転したということですか?」
綾乃がうなずく。
麗羅が言う。
「アメージング! 2組は個別にしか勉強しません。集団で成績を上げるなんて考えもしませんでした。そんなこと本当にできるんですか?」
「やってみた結果が、今の状況です」
麗羅は小さな口笛を吹く。
そこで初めて気づいたように、綾乃に聞く。
「その端にいるBOYは誰?」
「ああ、クラスメイトの辻獅堂くんです」
麗羅が畳みかける。
「何してる人?」
獅堂が初めて口を開く。
「ただの付き添いです。特に何もしてません」
それを聞き、綾乃がため息をつく。
麗羅は何事もなかったように視線を綾乃に戻し、勉強会についての質問を続ける。
女生徒3人の会話は盛り上がった。
懇親と言う意味合いでは、少しは意味があったようだ。
30分ほどの会話はやがて雑談となり、お開きとなった。
最後に6組の3人は、麗羅と一人ずつ握手する。
麗羅は握手の後、そのまま相手の体をハグする。
奈緒は手を回された瞬間、
「嬉しい~、麗羅さん、すごくいい香り~!」
とはしゃいでいる。
最後、獅堂との握手。
能面のような表情で握手を交わしながら、麗羅は獅堂の体も軽く抱く。
しかし麗羅はその瞬間、獅堂の顔を鋭い目で見た。
そのハグは密着度を増して、麗羅は小声で獅堂の耳元にささやく。
「この体、まるでスティール(鋼鉄)。あなた、いったい何者?」
「ただの高校1年生だ」
「そんなわけない。こんなとこに顔を出して、何を企んでるの?」
「何もないよ…」
そこで奈緒が大きな声を出した。
「辻くんだけ麗羅さんとのハグが長い。ずるいよ~!」
麗羅はようやくハグを解く。
その後も麗羅は、女子2人と和やかにあいさつして別れる。
しかし獅堂に対してだけは、去り際も鋭い視線でにらみつけてきた。
獅堂は視線をそらし、逃げるように立ち去る。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




