EP36 ファーストキス
お読みいただき、まことにありがとうございます。
ライオンマスクは美穂に近づき、イスに縛られていた手足のヒモをほどいていく。
美穂が言う。
「辻くん…なんでしょう?」
ライオンマスクが言う。
「ああ」
「すぐにここに来てくれたのね」
「尾行につかれたと聞いたとき、やつらの行動は見え見えだった。だから夏川のスマホをアプリ登録したんだ」
獅堂は美穂に相談を受けたとき、電話がつながっていなくても、相手のスマホの位置がわかるようにGPS追跡できるようにした。
だからこの場所を特定し、駆けつけることができた。
獅堂は美穂をほどいたヒモで、倒れたままのフェイスマスク男の手足を縛り付けていく。
拘束が完了すると、フェイスマスクをはいだ。
銀色の髪と、端正な顔だちが現れた。
平手大樹だった。
獅堂は床に落ちているビデオカメラを拾った。
カメラは回り続けている。
そのまま平手の顔を撮影した。
そしてカメラを美穂に渡す。
獅堂は数回、平手の頬を張り、意識を戻させる。
その目がゆっくりと開いた。
獅堂が言う。
「平出、お前が松本優を殺したのか?」
平出はアナコンダのマスクに向かって、唾を吐きかけた。
「お前の質問になど、答えるつもりはねぇよ!」
そういう平出の鼻筋を、獅堂は思い切り蹴りつけた。
鈍い音が響き、平出が、
「ぎゃひっ!」
と悲鳴を上げ、のたうち回る。
美穂も思わず顔を手で覆う。
平出の鼻筋が変形し、青あざになり、鼻血が噴き出している。
「あんたのその自慢の顔、誰にも見られなくない形にしてやろうか?」
獅堂が冷たい声で言う。
平出は目を閉じた。
静かに首を振る。
そして言う。
「俺たちは組織に女を紹介していただけだ。事件で何があったかは知らない」
獅堂が聞く。
「組織と言うのは暴力団の事か?」
「ああ」
「広域暴力団か?」
「いや、その下部組織だ」
「今回の夏川美穂の誘拐に、東大島がいないのはなぜだ?」
平出が言う。
「あいつは下っ端の使い走りに過ぎない。俺たちに憧れて付きまとっているだけだ。俺たちのバックの組織の正体もよくわかっていない。あんな雑魚は今回のミッションに不要だった。しかもヤツには戦闘力もないし邪魔になるだけだ」
「なるほど」
獅堂はうなずく。
そしてこう続ける。
「だが今回の夏川美穂の誘拐は最悪の手だったな。音声と映像で一部始終は記録させてもらった。これが表に出たら執行猶予もつかない犯罪者になるぞ。あんたはもう自主退学した方がいい」
平出はうなだれる。
獅堂が続ける。
「しかも危ない組織に関係していたとなれば、より事態は深刻になる。悪いことは言わないから、すぐに学園から去れ」
平出はうなずく。
そのボロボロの体に抵抗する力は残っていない。
獅堂はその拘束をほどいた。
平出はよろよろと歩きながら。仲間2人の意識を回復させるため、倒れた2人のもとに向かう。
美穂はライオンの覆面をつけた獅堂に抱き付いた。
ピンクの髪の毛から薔薇の花のような芳香が漂い、美穂の汗の甘いミルクのような匂いと混ざる。
若い女の子独特の甘い香りだ。
美穂は柔らかな体を獅堂に押し付けながら言う。
「辻くんが私のことを愛してくれなくてもかまわない。今だけでいいからキスしてほしい」
獅堂は美穂をじっと見つめる。
美穂が言う。
「お願い。付き合わなくてもいいから」
獅堂が言う。
「ごめん。付き合うも愛してるもよくわからない」
それを聞いた美穂の目に涙がにじむ。
獅堂が続ける。
「でも夏川のことは好きだ。大切だ。だからキスなんて必要ないと思う」
美穂が目を丸くして獅堂を見る。
獅堂はマスクをかぶっているものの、間違いなく大真面目な顔をしている。
「馬鹿っ!」
美穂が獅堂の頭を思い切り殴る。
「いてッ!」
獅堂が頭を抑える。
「あははッ!」
美穂が腹を抱えて笑っている。
そしてこう続ける。
「こんなにお馬鹿さんだとは思わなかった」
「なんだよ」
獅堂はまだ頭を抱えている。
「自業自得よ。反省しなさい」
獅堂は目をつぶって首を振る。
「さあ、ここから出るよ」
美穂は獅堂の手を握って、雑居ビルのドアを開けた。
獅堂はマスクを脱ぐ。
その瞬間、美穂は背伸びして、獅堂に口づけをした。
「何するんだよ!」
思わず唇に手を当てる獅堂。
「おしおきよ」
白い歯を見せる美穂。
「さあ、帰りましょう」
街はすっかり闇に包まれて、大きな月が夜空に輝いていた。
スキップしていく美穂。
その後を獅堂は頭を掻きながらついていく。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




