三十五斬り目
来た道へと逆戻りで荷物を捨ててたいまつだけを手にしてかけ走る。もやは望むを実現するどころではないと希望を投げ捨て、自分の命を守る以外に考えはしなかった。迫ってくる恐怖に死に物狂いで尽力張って逃げる。
採掘場へと戻った時に無事とは感じなかった。このままでは魔物に全員食われてしまう恐れで皆に報告しようとルウは何時も見る労働者を見つけた。
集団で背中を向いていて何やら騒がしい様子だった。
見張り役人達が波となって労働者の身を押し込んでいる。その波に押されては抵抗も何も動きを出す事なく押されていく。
何だ。抗議の最中か?それにしては息が合わさっているようだ。皆どれも恐怖に引きつった顔付きを張っている。
「軍隊まで入ってきたぞ!」
見張り役の服装とは明らかに違う鎧を纏った兵士が奥の方に目を捉えた。敵に追い詰められているような状況だ。洞窟内が揺れ始める。
「炎龍の奴、馬乗りしてるぞ!」
炎龍…?その力は災害に匹敵する程で一度現れば辺りを君臨してしまう。龍の襲撃で皆逃げてるのか?
洞窟の外で…
現場を踏み回し。炎を吐く。小さな兵士の命を虱潰す龍だった。深紅の鱗が輝く。
炎龍 災厄単位 森林
次は山に張り付いて、一つの入り口に顔を覗き込む。
見張り役はともかく、兵士は役立たずだな。
労働者よりも怖じ気づいては無理矢理押し込んでいる。積もるわ、更に積もって、ルウに押し寄せてきた。
「もっと奥へ進め!その先に広い空間がある筈だ」
誰かがそう怒鳴った。彼らの向かう先が…ルウの通った洞窟方面だった。
この先進んだら不味い!
「こっちも駄目だよ!」
誰の身分も問わず、ルウは人の積もった波に怒鳴りを投げかけた。その波がピタリと停止する。
「デカいのが中にいるっ…!」
ルウの口が動く最中に激しい揺れが彼等を轟かす。身を屈み、叫びが激しく高鳴る。女の高い悲鳴も混じる。
岩の破片の崩れ落ちる量も増える。
人波から離れていたルウも屈んで丸くなっていた。
カッと目が大きく開く。
(あいつが来た…!)
巨大な焦げ茶色の物体が岩盤を砕き破り、屈む人達の横を過ぎて行く。ルウは顔を上げてこれを見逃さなかった。
炎龍は前肢の爪で岩肌をガリガリと音を立てて掻き始めた。掘った事の無いにも自覚せず、涎を垂らしていた。
槍も剣も大砲も通じず、全ての抗いが無駄だと気付いた兵士達に士気が薄れかけていた。
武器を落として後退りするも…将軍や帝国委員達はそれを許さず。
「退くな!戦え!」
鞭や剣などで後退を余儀無くさせる。この魔物の力ずくによって手に入れた絢爛豪華な生活が潰されるのを恐れていた。戦士を呼べば事は一瞬で片付けるのは誰もが分かっている。だが戦士を呼応する者は誰もいなかった。
奴隷という制度に本来失望している彼等をここへ呼んでも問題の種がもう一つ芽が出るだけだ。
奴は穴を造ってしまえば、その穴から奴隷達が蜘蛛の子を散らすように出てくるに違いない。
エムハルトからの指令は…
龍に構わず、民の逃亡を封じよ!抜け出た者は殺して良し!
と口を叩かれても出たくない状況である。だが…最悪のシナリオが深刻化していく。
炎龍の先の奥で地鳴りが響く。何事と事態に気を向けた瞬間…岩盤が粉々に弾け飛んだ。




