三十二斬り目
美悦子は元の世界に友達なんて作った事がなかった。例えご近所の人と話す事もできなかった。家族が協力してくれないせいでもあった。
元は人との疎通と合わせる経験が乏しく転生でもその疎通の低さが引き継がれていた。しかし疎通の親しみを覚えてきた今の自分とは違う。
火鉄は単純そうで心広い。
家とは違い、一軒の小屋で鍛えて始めた。美悦子は四角い大理石に腰をかけては火鉄の作業を後ろから目に映していた。炉に火を焚いて、その中に薙刀の外した刃に熱を帯びさせた。取り出して赤白く照らす刃をはさみ(鉄をはさむ方の)で掴み、鉄床の上に置いて、槌で打ち付ける。金属音が部屋に広がると火鉄の頬に滴りが張らているのが見えた。苦しいかと不穏を覆ったが…逆に活入れて嬉しいようだった。
「かなりナマクラやったとけど十五匹位やったが?」
「当たりです」
「その内の半分が誰かに助け乞えて仕留めるやろ?」
何とも面目無い気分で「お見通しの通りです…」と小声に控え落ちる。刃が肉を刻む所が悪い時が生じた事があった。そうして魔物の反撃を受ける前に羅瑠渡か長照が横入って仕留めていた。
「見ていたんですか?」
「いやただの勘やき」
形が元の…いや新しい刃の形に変わった時、水桶に刃の熱を冷ます。
「何振り返ってもこうやって打つ事だけしか考えた事がないきね。親にただしつこく役に回されたぞね。まあおとおの仕事やったきね」
ここの住む異形とは…全員この田舎で育った訳じゃない。飽き飽きに暮れて、あるいは槌転みたいに蹴飛ばされた者がいいとこに目を付けて、寝そべっている。
実家に馴染めない者が新しい場所見つけて楽しいと感じさせる自分なりの人生を築いていく。
ここで集まって目的など決まっていない。
水を浸していた砥石を取り出してキュッと音を立てて研いだ。
研ぐの止めては完全かと思いきや、目を細めてまた研ぎ始める。弟子でやっているようでもない。
熟練業人だ。
丸太で試し斬りすると跡が平らだった。
「うむ。もがき事無し」
我ながらの上出来さに誇らしげた火鉄は美悦子に薙刀を返した。
「斬ればいつもの味が違うと自覚することになるやき。鍛え欲しくなったらいつでも来てもええで。あて故郷に帰らんやき」
道具類を片付け始めては一旦止める。そうだと思いついたかのように丸い両耳をピクンと立てた。
「あてらから頼み聞いてもいいが?」
「この皆から…ですか?」
「そうや。黄蜀を除いてはな」
仕舞い終えた火鉄が小屋から外で出た。手招きされて美悦子も外へ出る。
すると火鉄は家の屋根に向けてかけ声を浴びせた。
「糸綿ぁー用があるやき」
声に応えてヌッと顔が屋根から突き出した。またしても女。危害加えるとは思えない程優しい面を張っているがこの顔をした女がはて、いつ家の中にいたのか美悦子は冷や汗をかく。まさか屋根裏から直接出てきたとか…気味悪い。




