三十一斬り目
やってはいけない事だったの?気に食わないからお説教を受けてるとしか他に考えられない。
人間。頭の中で何を抱えているのか分からない。それでもはい、あれですと答えるしかない。ずっと気配を控え込んでては駄目。美悦子は前に意識を込めた。
「負けとも勝ちとも問わず、立ちはだかったのです」
「自分を殺すつもりで?」
「違います。義務を背負うだけの事を考える他に抱える物はなかったのです。そして抗う者は他にいませんでした。私は身体の中で呟いたんです」
“ここで逃げたら誰が守るのかな?”
「いないよりは良い方だと私は思います」
自分がまるで抗議で言ってるみたいだ。相手もそれに気づいていて…すぐキレるような単純でもなかった。
「いるのはお前だけだった訳か」
「いえ長照さんと一緒だったので」
「…」
急に視線を美悦子から外した。そして薙刀は投げて返された。
「今日の事は何も言うな。責任背負うのは俺達だ」
別の件について…ここに来た理由を突きつけられる。鍛冶屋へ行くつもりと聞いて…
「着いて来い」
私。誘われた模様。
◇◇
加治屋よりも更に奥深く。ふと気付けば林の渦の中に潜り込んでは石や横切った根を避けて道を歩んだ。
男が先頭に立ち、美悦子は後に続く。最後尾に残るのが獣耳の女が苛立ち苦しそうな顔で二人の武器を担いでいる。何で自分がしないいけないと鼻から荒く息吹いた顔がそう言い張っているように見えた。
美悦子だけに牙を定めているようで少呑胡には全く抗う気はないようで…
「後ろの人は耳生えて何者ですか?」
「狐。野狐は火、油を飲む事をからかいに促す」
火を消したのではなく、彼女の腹の中に吸い込まれた訳だと納得した。黄蜀狐という女は女に化けた狐って訳か。というより吸うの?
妖怪という事で魔物に分類されるんじゃないのかな?魔物が人間世界に溶け込んでも平気な面で見られるのかな?もしかして少呑胡というのも…魔物?
彼等の家は村人と同じくごく普通の家だった。林に囲まれて影に覆われて薄暗い背景だった。
自分の定着している家と変わらない位の平凡さ。特武は普通の職よりも倍以上に給料が高い。二十両から五十両前後、月に給与されている。それなのにも関わらず、彼等は贅沢な人生を築く毛頭がない。
贅沢が嫌いなのかしら。美悦子も正直、元の家には戻りたくなかった
少呑胡が先に玄関に入り過ぎて、美悦子も足を踏もうとした。
「お邪魔します」
挨拶を家内に投げ込むのだが、突然黄蜀狐が美悦子の前に立ちはだかった。
「ここに住む者達はみーんな人間じゃないで。人喰らう魔物ばかりやで」
「大丈夫ですよ」
この人。特定の者にからかう癖があるんだろう。冗談だとしか考えられず、美悦子は怖くは感じなかった。
「よしなら入れや」




