十九斬り目
今回は三千文字まで増やしました。
フイルベリアはキリッと白い歯を唇を噛み締めた。あえてこの戯け者が!と叩きつけたいどころだが、今重難たる強敵の前で仲間とのいがみ合いというのも自分からの視点では情けない。今市民が見れば間違いなく幻滅するであろう。マグニエスタも。この化け物も同じ気持ちかもしれない。
何の怪物め!
今までこのような様を見せた事はない!この神の隷下である騎士が貴様の息の音を止めるまで斬り刻む!
甘えてはならない。うろたえてはならない。それが私だ!
獣如く吠える。私の何かを晒し出す…それは奇跡…
フイルベリアの鎧が紅き光に帯びた。周りは目を焼け付ける。化け物もずっと眺めているかのようにじっとしている。
いいだろう…!私の本当の姿を見るがいい!
神から授かった真の姿を!
紅き鎧。よりも炎々たる情熱を発する神器たる鎧。そして右手に握る剣。もう片方の盾。
我ながらも美しい。そして勇ましいものだ。
我こそが神に継ぐ者だ。
フイルベリア。朦々しく光る剣を差し向けた。彼女の目がクチビル丸ごと映る。
「魔物よ…!今から貴様の肉の斬り焼く。そうと思え!」
フイルベリア。先程の駆け込む脚よりも増していた速さでクチビルに目掛けて突っ込む。
一瞬にしてクチビルの前に飛び出す。一撃たる留めだ!
「はああっ!」
剣先を差し伸ばした。決まったと思った瞬間。フイルベリアは「何!?」と叫んだ。
クチビルの頭が後ろに仰け反ってしまった。空中を斬っただけの結果を晒す。見た目とは違い、優れた運動能力。そして反射能力。この魔物は単純な生物とは外れていた。
着地したフイルベリア。左右からの剣を振り回した。
三回振った。その所でクチビルの足に剣が踏まれる。ガタリと引かれるように崩れたフイルベリア。クチビルの平手が彼女を後方へ突き飛ばした。
フイルベリアは振り絞る。足をつかせた。
(剣を置き去りにしてしまった…!)
するとクチビルが剣を摘まんだ。そして口に投げ込んだ。歯でガリゴリと噛み砕き鳴らす。
歯の極めた強靭さがフイルベリアは伺える。何せあれの剣は龍の腕力でも折れなかったのだ。とんでもない事をやってのけているとする。まさか…こんな事になるとは…!
フイルベリアを荒く息を漏らした。その時だった。クチビルが洞窟のような大口を開けた。また噛み砕きかと頭に横切った。しかし予想は外れた。
大砲の弾よりも遥かに一回り大きい粘液弾が連射してきた。大量である。
放物線を描いて飛んできた。身体には直撃しなかったものの、周囲に着弾した。欠片となって飛び散る粘液がフイルベリアの身体中に付着した。
(ぐっ…こんなじめっぽいのは嫌いなんだ…!)
超越したこの自分でも、奴をどうする事もできない。何たる事だ…!こいつは龍以上に恐ろしい魔物。
戦うのを止めるにも粘り気が固まったかのように強い過ぎる。
身体に気配を配っている合間にもクチビルが余裕保ってのそりと迫ってきた。フイルベリアを掴み取った。この為にわざと外していた。
何とか粘り気が減ってもクチビルの腕力には自力では脱出できなかった。ギリギリと歯を鳴らす。クワァと口を開けた。
血生臭い息が鼻が痺れる。 喰われた仲間みたいに手にして喰うつもりだ。盾を離してしまった。手段は他に考えられなかった。
もうこれで命が絶える時が来たのだろう。死ぬのならこの化け物の事なんかもどうでもいい。
涙ぐましい程ではないが…ただ負けてもかすり傷は付けたい所だったがな。
絶望だと察したその時だった。
「ブモ?」
クチビルが何かを気配したかのようで空を見上げた。頭上から紅く光が照明した。
クチビルはフイルベリアの身を投げ飛ばした。後方を飛脚した。クチビルの立っていた位置に複数の炎の弾が降り注いだ。
投げ出されたフイルベリアを仲間達が絨毯代わりとなって重い衝撃を耐え、受け止めた。
あの炎の弾。天から降ってきた。仲間と同時に空を見上げた。それは聖域から降臨したきた…我が崇めとなる…炎の神だった。フイルベリアは絶望を払いのけた顔に豹変する。
「マグニエスタ様」
紅き髪を纏った神。見慣れた姿に間違いな神。マグニエスタが雲の下へと降りていた。
腕を組みながら地上の方へと睨んでいる。更に地上への降下。地へと足を着けた。
この時、彼の後ろ姿を眺めたフイルベリアは声をかけたかったが遠く離れていた為、出さなかった。慈悲を申すのは後だ。
フイルベリアは戦わなくてもいいのだろうと悟った。クチビルの対面しているのだから。
仲間達も悟った通りに「任せておきましょう」とフイルベリアの身を後ろへと引き下げた。
「魔物よ…」
マグニエスタの口が揺らぐように動いた。ギロリと目を鋭く光らせる。
「お前がどれほど身の程なのかあぐねているのかじっくりと教えてやろう。信者。そして神に刃向かった未来像をどう予見するのか…分かるな…」
コォォと息を漏らした。マグニエスタ。クチビルの制裁が始まったのだ!
◇◇◇
交戦していた頃。村の隣の都市。入口付近で立ち往生していた市長。そして依頼主である村長。
市長の追加で用意した報酬を貰いに村長は訪れていた。
「これで全部ですな。しかし村長さん。気が晴れないですな」
「ああ…受注した戦士がどうも心配でな…成功の見込みが薄いままで依頼してしまったんだ。第一クチビルというあの化け物は最近知ってな。クロヌリから送ってきた資料で生息地がここのナイカル湖と一致していた」
資料は広紙としてルブス各地に散らばっているという。この魔物達にご注意を。と示す広告だった。
天空級の魔物の名前と姿を描いていた。
土蜘蛛大蛇。黒殻糖身無。海荒鬼。氷姫冬寒九水。クチビル。アイジェルトの獣。ジェリー・ウマーノ。グラダーリズラーダーシュバリダーワルキュリダー。カルゴン・ガラム。潜遼帝。ギガポゴ。血海苔鉄左右衛門。
どれも初耳にする魔物達ばかりである。
その時市長はピクリと気配を察した。森の方からだ。ガサガサと音が響き渡る。村長は音に気づいて、森の方へ顔を向けた。この顔の向いた先にはナイカル湖があった方角だ。
市長は指を指した。
「あれは女か?」
「受注した女戦士…だろう」
疑いを背負うにも初対面した時の冷静沈着とは逆に汗水をだらだらと垂らした、切羽詰まった顔付きで都市へ走りかけていた。
本当に女戦士の隊長。と気づいた時。彼女の後方からドスンと足を踏み鳴らす大きな音が近づいてきた。
「本当に戦士だ。何があったか問い詰めたいな」
「ああそうだ。失態どころか…何で…」
恐る恐る指し指を震わせ、村長は指した。
広告の一番の下の記事。“どうして災厄単位が作られたかは力量を計算して対策を練る為ではない。安全性など確認できない状態で作図された物であり、弱い者を守れる保証はできていない。その上で警告している。特武が集まっても一体で全滅する程。恐ろしい奴らが揃っている。この連中達は…神を超える、まるで奇跡の強さを持った…天空級以外誰にも止められない。人間。誰もが生き残らない。神でも。最強スキルやチートたる異世界からの救世主も生き残らなかった。 桜花より”
マグニエスタ。をくわえたクチビル。フイルベリアを追いに迫ってきた。
「何でこいつまでついて来てんだああぁぁぁぁ!!!」
クチビルがゴクリと飲み込んだ。
「ブモォオオオオオオ!!!」
怒りを張り上げたかのような響きを大きく上げた。市長。村長。そして若き守衛。拳を喰らったかのような衝撃が走った?
災厄単位 天空 三百以上の国の崩壊
もう世界の終わりだって…いやそうであったりなかったり




