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第五章 覚醒 第三節 土蜘蛛 第三話 激突(後編)

第五章 覚醒 第三節 土蜘蛛 第十話 激突(後編)


一体目の土蜘蛛を倒した達成感も束の間、洞窟の奥から、先ほどとは比較にならないほど強烈な「殺意」が溢れ出した。それは、死んだ土蜘蛛の気配を塗り替えるほどに濃密な、山を支配する王の気配だった。


「……まだ、終わっていないわ」


葛の葉の顔色が青ざめる。彼女は自身の霊視を極限まで引き伸ばし、山全体を俯瞰するように感覚を研ぎ澄ませた。


「情報の齟齬があったのね。この山には、二体の土蜘蛛が棲みついている……! 今の個体は哨戒役に過ぎない。真の主は、さらに深い地下の巣にいるわ!」


一家はすぐさま次なる洞窟へと駆け出した。そこは、目を覆いたくなるような光景だった。粘り気のある白い蜘蛛の巣が入り口を塞ぎ、先程と同じように、その内側に、生きた人間たちが貼り付けにされていた。彼らは意識を混濁させながら、生きたまま毒を注入され、蜘蛛の食料として繋ぎ止められていた。


「こっちは、村人全員じゃないか!」


「急げ、まだ、助かる!」


蒼也の目が据わった。作戦開始だ。


しかし、洞窟へ踏み込もうとしたその瞬間、葛の葉の叫びが響いた。


「蒼真、待って! 行かないで、罠よ!透明な糸が見える!」


そして、この糸は動いてる!


葛の葉の警告は、蒼真の動きを止めるには十分だった。二体目の土蜘蛛は、通常の糸とは異なる、人間の目には全く映らない「捕食のための透明な糸」を空間に張り巡らせていたのだ。


「それに、こいつは先ほどとは格が違う。姿を消す能力を持っているわ。気配を完全に殺して潜んでいる!」


情報の齟齬が死を招く。葛の葉は迷わず、周辺の空間すべてを焼き払うほどの炎の術を放った。見えない糸が次々と炎に呑まれ、透明な壁が崩壊していく。その隙に、レイカが広範囲を索敵しながら、周囲に潜む小型の蜘蛛を確実に撃ち落とし、防御の隙を作った。


「見つけた!」


レイカの銃口が、何もない空間の一点に向かって火を噴いた。炎の熱に炙られ、空間が歪む。そこには、体長五メートルを超える巨大な土蜘蛛が、岩肌と一体化して身を潜めていた。


「ガァァァァッ!」


姿を暴かれた二体目の土蜘蛛は、甲高い叫びを上げながら跳躍した。それは音速に近い突進だった。蒼也が回避し、蒼真が草薙の剣を構えて迎え撃つ。

そして、酸を大量にまき散らかした


「蒼也、今だ!」


葛の葉が渾身の力で「重力操作」の術を叩き込む。土蜘蛛の動きが一瞬鈍った。その刹那、蒼真が側面から土蜘蛛の右前足を斬り落とし、レイカの援護射撃が背中の核を貫いた。


「守るべきものがある以上、我ら神代に敗北はない!」


蒼也の声が山に響き渡る。彼は神速の踏み込みを見せ、土蜘蛛の懐へと飛び込んだ。先ほどの個体とは比較にならないほどの硬い甲殻。しかし、草薙の剣は、そのすべてを無慈悲に両断した。


重い地響きとともに、巨大な土蜘蛛の巨体が地面に崩れ落ちた。


洞窟に静寂が戻る。救い出された人々の荒い呼吸だけが、そこに響いていた。神代一家は顔を見合わせ、安堵の息をつく。


長い戦いが終わった。山を覆っていた「淀み」も、主を失い急速に霧散していく。


蒼也は剣を収め、力強く頷いた。


「これでようやく、住民たちを帰してやれる」


一家は再び、夜の闇へと足を踏み出した。彼らの背中は、何ものにも屈しない強固な絆で結ばれていた。この国の影に潜む、さらなる脅威に立ち向かうために。彼らの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

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