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異世界帰りの元女子高生は、暇つぶしに人助けをする  作者: 雷訓


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初依頼 中編

「涼子さん、久しぶりに私と宅飲みをしましょう」


 その日の夜、友紀が私のアパートに訪ねてきた。酎ハイやつまみになりそうな物がこれでもかと詰まった袋を重たそうに持ってきて、勝手に上がり込んでテーブルにぶち撒ける。


「いいけど、よくバイトが休みだってこと知ってたわね」


「当然ですわ、私が涼子さんの事で知らないことなどありませんわ!」


 なにそれ、怖いんだけど。小学校で助けて以来私にべったりなのはわかっていたけど、数年ぶりにこっちに帰って来れてから再開しても、一向に変わらないのはどうかと思う。

 しかもこれ、友紀の親公認ってのは、外堀を埋められている気がするんだけどね。


「とりあえず、乾杯ですわ!」


「ん、乾杯!」


 さすがにお土産を持ってきてくれた親友を追い返すわけにもいかず、まずは部屋に入れて乾杯をした。ちなみにご近所さんが持って来てくれたおかずもテーブルの上に参加している。

 明日は週末だから友紀も佐藤さんも講義はなく、一日私と一緒に行動だ。それがわかっているから泊まり目的で来たと言うことね。

 それに、泊まりがけでお酒を持ってきた友紀の次の出方はわかっている。


「あー、学業の後の一杯は五臓六腑に染みますわ! それに、たまにはこう言う安酒も悪くないですわ!」


「安酒……」


「ちょっと涼子さん、飲んでますの!?」


「酔うの早いよ!」


 あの、この安酒を飲むのに必死こいてバイトしてるんですけど。

 向かいでなぜか正座して豪快に飲み干す美女に、何処から突っ込めばいいかわかんない。学業で五臓六腑に染み渡るのってどうなのよ?


「学業で脳がアルコールを欲しているんですわ!」


「普通は糖じゃないの?」


「代替品ですわ!」


 もう突っ込まないわよ。

 とりあえず、お互いにほろい気分もよろしく、酒もつまみもある程度消化したところで、友紀がここに来た目的を果たしましょうか。


「友紀、あの佐藤さんって人。同じ学部ってだけで、ほとんど面識はないわよね?」


「もっちろんですわ。講堂で何度か見かける事はありました。が、それ以上の面識はありませんわね」


「そう、じゃあ佐藤さんの彼氏の顔は見たことあるのね。どんな印象か覚えてる?」


「えぇ、典型的なチャラ男ですわ。だからこそ、佐藤さんとのギャップは印象強いですわね。あと取り巻きもそこそこいましたわね。その取り巻き連中も失踪した理由はわからないっぽいですわね。」


 あの場では聞けなかったから、タイミングよく私から切り出す。私も写真で見たからわかるけど、改めて友紀にも聞いてみる。すると、友紀も澱みなく自分の知っている事をつらつらと語り出した。久しぶりだけど、これは友紀と私との昔からの恒例行事でもあったりする。

 友紀は昔から、鬱憤が溜まったり悩みがあったりすると、私の家へ泊まりに来ていた。小学六年の時の中学受験や中学校三年の時の高校受験の時、その他にも家の悩みや将来の悩みの時もだ。さすがに今のようにアルコールって訳にもいかなかったから、当時はジュースとお菓子を持ち寄ってパジャマパーティーなんて事になっていた。そうやって考えると、あの頃からの延長線ってだけで、そんなに私らは変わってないわね。


「そうなの。それで、何で失せ(者)ってこじ付けてまで持ってきたの?」


「それは…………見ていられなかったからですわ」


「どう言う事? 今朝会った様子からして、それなりに仲の深いカップルだとは思うけど、それ以上の何かが? それでも友紀には接点ないのよね?」


「佐藤さんとは、確かに面識は殆どありませんわ。ですが、ここ数週間は毎日のようにいろんな人に声をかけていましたの。その時の佐藤さんの憔悴した姿が、あなたが消えた時の私と重なりましたので……」


「あー……」


 なるほどね、私が戻って来てから家族や知人から聞かされた話だけど、その当時の友紀の狼狽えようは常軌を逸していたそうだ。聞き込みや張り紙、果てには有力な情報への懸賞金まで出していたそうだ。

 それを 当時の自分と捉えれれば、佐藤さんの彼氏への執着の仕方は異常と言う感じになる。けれど、それも愛情ゆえのと考えれば、友紀からすれば同情を禁じ得なかったんだろう。


「まぁいいわ、せっかく友紀が持って来てくれた依頼なんだし、今更断らないわよ」


「ありがとう、涼子さん。と言いますか、すでに居場所の特定は済んでいるんではなくて?」


「それはもちろん。佐藤さんの彼氏の生存は確定しているわ。それどころか、居場所も顔も見てきたわ」


「あれを使いましたの?」


「もちろん」


 すっかり酔いの冷めた友紀が、明日のことに触れる。

 あれとはもちろん、導きの願望器(アカシックコンパス)のことだ。異世界から帰って来て早々、友紀がトラブルに巻き込まれた時にこのアイテムを使っているから、別に今更隠すような事はしない。

 むしろこのアイテムを持っているから、私が探偵まがいのことをしようとしても、止めることをしなかったのよね。


「居場所もすでに特定済みだし、何も心配することないわ。明日も早いんだし、さっさと寝ましょ」


 明日の集合時間は特に早いって訳じゃない。けれど、寝坊して依頼人(クライアント)を待たせるなんて事はしたくないだけ。


「その前に、シャワーをお借りしますわ」


「ん、好きに使ってー」


 シャワーくらい好きに使えばいい。アルコールを体内に取り込めばそれなりに体が火照る。部屋に空調は効いているけど、適度に体を冷やして寝ちゃおう。


「涼子さんも一緒に浴びます?」


「くっ、顔が近い! 結構です! 先に寝るわよ!」


 私を好きすぎる友紀は、隙あらばこう言う誘いをちょいちょい仕掛けてくる。それでもそれ以上の誘いはなく、私が断れば追求はしない。だから私もちょっと過剰なスキンシップ程度にしか思っていない。恐らく一度許せば、なし崩し的に転がり落ちそうだから、ここは必死に断るところよ。顔面偏差値が高すぎる親友も困りものね。


 次の日、予定通り佐藤さんと昨日と同じ場所で合流し、モーニングを摂りながらこれからの事を話した。


「結論から言うと、佐藤さんの彼氏は生きているし、居場所も特定しているわ」


「本当ですか!? 場所はどこですか?」


 私は昨日裏付け調査で撮った写真をテーブルに広げて、詳細を話し始めた。

 結論から言えば、佐藤さんの彼氏は実家にいたのだ。それどころか家から普通に出歩いているし、特段両親との仲も悪い感じは見られなかった。


「恐らくだけど、佐藤さんが訪ねた日にも家にいたはずよ。それにも関わらず家人に追い返されたとなれば、匿っているもしくは何かを吹き込まれたかのどちらかね」


「ならなぜ、学校に来なくなったんでしょうか? このままじゃ単位だって、生活だって、あの人には私がいないと!」


「まてっ!」


「え……?」


「少し落ち着きなさい」


「で、でも!」


「そうですわ、今焦ってもしょうがありませんわ。それより涼子さんの話の続きを聞きましょう」


「あ…………はい、すみません」


 

 私が言葉の続きを続きを手で制し、友紀が落ち着く様促した。これは昨晩、友紀が言った通りだ。昨日会った時にはわからなかったが、佐藤さんは彼氏に依存している傾向にあるようだ。それが故に、あの取り乱し様だったんだろう。


「で、提案なんだけど、このまま正面から堂々と訪ねたい? それとも出て来たところを確保したい? それとも他の方法?」


「そ、それはどう言う事でしょうか?」


「私の依頼は、佐藤さんの【彼氏を探して佐藤さんと引き会わせる】事よ。要するにどう言う形であれ、会わせた段階で依頼完了な訳」


「なるほどですわ。だからこそ、どう言う形で会いたいのかが重要と言う訳ですのね?」


「そう言う事。正面から尋ねても一度失敗しているから、また門前払いされそうだし。外出時を狙っても出会って早々に逃げられそうだしね」


「そ、そう言う事ですか。なら、じっくり話し合える場所へ連れて来て欲しいです。色々聞きたいことがあるので……」


「オッケー、なら二人に作戦を伝えるわ……」


 私と友紀の言う事に理解をした佐藤さんは、ならばと自分の意思を伝えた。


「だから昨日と全然違う格好をしているんですか?」


「いつもそのくらいの格好をしていればいいのですわ」


 佐藤さんと言い友紀と言い、この格好を見た時から色々言いたい事があったんだろう。けど、私の作戦を聞いて、ようやく真意が伝わったと確信。私だってやればできると言うことを伝えれただけでも良しとする。さぁ行動開始よ。


 まず初めは、全員で彼氏の実家のある街へ移動。そこから私だけ実家が見える位置で見張りをする。その間、二人にはファミレスで待機。見張りに三人もいらないし、いざ彼氏が外に出て来た時に佐藤さんが冷静にいられない場合もあるから、私からの連絡があるまでは大人しくしてもらったほうがいいわ。


「隠蔽(クローキング)」


 玄関が見える物陰で隠蔽の魔法を施す。それによって私の体は周囲の景色に溶け込み、人が目の前を通ろうとも気づかなくなる。

 さて、あとはどのくらいの時間で出てくるのか。一時間後か、半日後か、それとも今日は出てこないのか。私としてはこの案件は、佐藤さんの為にもさっさと片をつけたい。可能であれば今日中にね。感覚だけどあまり時間がないような気がする。だから、夕方までに出てこないようであれば、強制的に外出してもらう事も検討している。

 そんな事を考えながら待つこと数時間。昼を少し過ぎた頃、ついに動き出した。玄関を出たところを後ろから追跡開始。一定の距離を保ちながら、友紀に連絡。あとはタイミングを見て確保するだけ。ここからが私の腕の見せ所ね。


 佐藤さんの彼氏の後を【隠蔽(クローキング)】を使用したまま後をつけることしばしば。

 彼は電車を乗り継ぎ、大きな繁華街へやって来た。こんな所へ何のようだと訝しんで様子を見れば、何のことでもなかった。


「お姉さん、かわいいね! もし暇しているなら今からお茶でもどう? 俺美味しい所知ってるんだ!」


「お、君かわいいね! 服のセンスもいいじゃん! 俺奢るからさ、今から遊びに行こうよ!」


「お嬢さん、綺麗だね。今急いでる? 俺と少しでもいいので知り合う時間をもらえないかな?」


 要するにただのナンパである。講義をサボって実家に寄生して何をしているのかと思えば、こんなくだらない事だなんて。正直佐藤さんには見せられない光景だ。

 けれど、逆に確保しやすい状況でもあることは確かだ。今日のこの格好はその為でもあるんだからね。

 そうと決まれば、私は後ろからの尾行はやめて前に回り込みながら物陰で【隠蔽(クローキング)】を解除する、そしてわざと出会い頭になるようにしてぶつかった。


「きゃあ! いたたた……ご、ごめんなさい……」


「いってぇ……おい、どこ見て歩いてんだ…………よ……」



 真っ白なワンピースで溢れる清楚感を醸し出し、薄手のブラウスからでも透き通る真っ白な肌がか弱さをより強調させ、上目遣いの謝罪は相手の心に隙を持たせる。

 名付けて『出会い頭に相手の心を鷲掴みにする』戦法よ!


「申し訳ありません、大丈夫でしたか?」


「…………」


 謝罪する私に対し、佐藤さんの彼氏は何も答えない。先に起き上がって前屈みになって心配そうに見つめる私だが、相手の視線が少し下に向いているのはわかっている。正直、少し嫌悪感を覚えるけど、作戦がハマっている証拠でもあるからここは我慢。


「あ、あの……?」


「あ、あぁ、俺は大丈夫だ、君は?」


「はい、なんとか大丈夫です。心配してくれて、ありがとうございます」


「いや、俺こそすまない。かわいい子に怪我がなくて良かった」


「い、いえ、私なんて!」


「いや、本当さ! あ、そうだ、ぶつかったお詫びも兼ねて今からお茶とかどうだろう?」


 息をするように私をお茶に誘うその手法に驚きだけど、こうも簡単に食いつかれると逆にこの彼氏は簡単に詐欺とかに引っかかりそうで、そっちを見てみたい気もするわね。


「え、でも私、今から友達とカラオケの約束があるので……」


「友達って女の子だけで?」


「それは危ないな、変な奴が絡んで来ないように俺が守ってあげるよ。もちろんお詫びも兼ねて、

カラオケ代は友達の分も含めて全部俺が奢るよ」


「え、えっと、じゃあ友達に聞いてみますね」


 誘い待ちで気弱そうに振る舞えばグイグイくると思ったけど、予想以上に押してくるわね。守るとか言いながら、一番危険なのはお前だとツッコミたいわ。

 新手のボケなのかと勘繰りながらも、少し離れてからスマホを出して友紀に電話をする。


「あ、友紀ちゃん? 今ちょっとトラブルになちゃった人が、お詫びにカラオケ奢ってくれるって言ってくれてるんだけど」


「わかりましたわ、では駅前のカラオケで集合ですわね」


「うん、じゃあ予定通りで!」


「あ、それと涼子さん」


「ん?」


「その喋り方、とても可愛ですわよ♡」


「で は 予 定 通 り で!」


 ガッデム! これが固定電話だったら、受話器を叩き切っていたところよ! こっちに目標がいるってのをいい事に、好き放題言うじゃない。素を出せない分ストレスが溜まるわね!

 けど、ここでボロを出すわけにはいかない。一度深呼吸をしてから笑顔全開で振り返る。美少女満点ビームだ!


「お待たせしました。友達も大丈夫って言ってますので、お言葉に甘えさせていただきますね」


「お、おぅ。…………眩しいな……」


「ん、何か?」


「では向かいましょうか、こっちです」


 何かなんて難聴系主人公みたいな事を言うけど、しっかり聞こえているよ。私の笑顔に目が眩んでいるのはいい事だ。せいぜい今を楽しんで、その後の落差で悶えて欲しいものよ。


「あ、自己紹介遅くなったけど、俺は田中圭吾(たなかけいご)。君は?」


「私は渡辺涼子(わたなべりょうこ)と言います」


「うん、涼子ちゃんか。涼しげでいい名前だね」


「あ、ありがとうございます……」


 名前を褒めてくれるのは嬉しいんだけど、涼しげって言うのは斬新ね。それどころかいきなり名前呼びってどうなのよ。

 まぁでも、ここまで来れば依頼達成は間違いない。けど、問題はその後なのよね。友紀が持って来てくれた初依頼だけど、結末的にはどうやっても苦いものになりそうなのよね。今から少しだけ憂鬱よ。

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