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異世界帰りの元女子高生は、暇つぶしに人助けをする  作者: 雷訓


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初依頼 後編

「ここです。友達はまだ来ていないようなので、私たちは先に入って待ちましょう」


「そうだね、先に入って何か飲みながら歌おうか」


「はい!」


 私に案内されホイホイついて来た佐藤さんの彼氏こと田中だが、馴れ馴れしいことこの上ない。今回の設定上、清楚系で気弱な性格なのをいい事に、腰に手を回したりしてやたらとベタベタしてくる。気を許した所で私を食おうと画策しているためなのか、優しい言葉を投げかけ扉を先に開けてくれるとか紳士ヅラしてくる。

 見た目的に私は、中学校卒業したてか少し背の低い高校生くらいの筈なのだけど、こいつは守備範囲が広いのだろうか? だとしたらとんでもない変態ね。胸だけはそこそこ育っているから、恐らくそのせいだと思う事にするわ。


「あ、連絡きました。着いたそうです」


「お、じゃあみんなで一緒に歌おうぜ」


「そうですね。あ、でもその前に、友達が何か言いたい事があるらしいですよ?」


「ん? 皆とは初対面だけど、何かあるのかな? あれか、涼子ちゃんを取るな、とか?」


「何でしょう? あ、もう来ますね」


 私が言い終えたタイミングでルームの扉が開くと、まず初めに友紀が入ってきた。それを見た田中が「すっげぇ美人……」などと呟く。当然よ、正真正銘のお嬢様なんだから。友紀の登場に気をよくした所悪いけど、本命の登場よ。田中が友紀に見惚れている隙に入室し、佐藤さんの第一声がルームに広がった。


「お久しぶり、って感じでもないけど……やっと会えました、圭吾くん……」


「え……あ、綾子? え、え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 自分に声をかけられたと気づき顔を上げれば、まさかの人物。驚くのも無理はないわね、何せ逃げ回る原因が目の前にいるんだもの。しかも逃げようにも、唯一の出入り口は本人に塞がれている。


「な、何で……?」


「何でって、圭吾さんってば私が尋ねても出て来てくれないんですもの。だからお二人にお願いしたんです」


「そう言う事ですわ」


「えぇ、私はこれでも探偵ですので。田中さんが家にいるのもわかっていましたし、ここへ誘い出すのも私の計画です」


「何だと……?」


 憎々しげに私を睨む田中だけど何かポリシーでもあるのか、拳だけは振おうとはしない。取り敢えずそこは評価しよう。

 さて、ひとまず私の依頼は終わったけど、佐藤さんの戦いはここからね。田中の睨む視線を物ともしない佐藤さんは毅然と言い放った。


「圭吾さん、私と結婚してください」


「は……?」


「まぁ……」


 本当はこの段階で友紀と私は退室しても良かったんだけど、気になる事もあったからことの成り行きを見守る事にしたら、まさかの逆プロポーズとは。ちょっと突っ走り気味だと思っていたけど、まさかこんな発言が飛び出るとはね。でもある意味、現実的ではあるのよ。


「ま、またそれかよ! 俺たちまだ大学生だぞ! 何で急にそう言う話になるんだよ!」


「あら貴方、地元(こちら)に逃げる前にも求婚されたのですか?」


「そうだよ、あんたらそんな事も知らずに依頼受けたのかよ」


「えぇ、貴方が大学に来ていないから探して欲しいと言う依頼ですので」


「くそっ!」


 うん、今思えば根掘り葉掘り聞かずに依頼を受けるのは、結構危ないわね。佐藤さんからは彼氏が大学に来ていないって言う理由で始まった依頼だけど、そこまで深く聞いていないのよね。まぁ佐藤さんも意図的に隠していたんだと思うけど。嘘も言っていないけど、本当の事も言ってないって言うね。


「ねぇ、ひょっとして肝心なことをまだ言ってない?」


「肝心な事?」


「あー、なるほどですわ。涼子さん、ひょっとしてお腹のことですの?」


 やっぱり友紀も気づいていたようね。この中で唯一の男である田中だけは、いまだに何の事かわかっていない様子。ならここは佐藤さんの背中を押すべきよね。


「佐藤さん、まだ伝えてないんでしょ? お腹のこと、はっきり言わないと余計拗れるわよ」


「だ、だから何の事だよ!」


 さすがにそろそろ気づいてもいいと持ったけど、この男はどこまで鈍感なんだ。けど、ここではっきり言ってしまえばさすがにわかるだろうし、この男の本性も見えてくるだろう。これまでは、佐藤さんが理由もなく結婚を迫ってくる圧力で実家に逃げていたけど、その理由がここでわかる以上逃げることはできない。さぁどうする?


「圭吾さん、私のお腹には貴方の赤ちゃんが宿っています。ですので、結婚して一緒に育ててください」


「…………へ? ほ、本当に?」


 素っ頓狂な声にその反応、おおむね予想範囲内ね。学生の身分で節度のない行為には苛立ちを覚える。けど、肝心の返事はまだもらってないわ。さぁどう出る?


「本当です、産婦人科にも行って来ました。今は九週目です」


 そう言うと、佐藤さんは鞄から一冊の手帳を取り出して見せた。いわゆる母子手帳ってやつね。つわりの影響か、顔色がそれほど良くない。本来ならパートナーが寄り添って、代わりに家事や世話などをして労わるなどをして労わらなければならない時期だ。それを懸命にこらえて旦那である田中を探すために奔走していたんだと思うと、ちょっと来るものがあるわね。


「そ、そんな急に言われてもよ……いきなり父親になれとか、結婚しろとか言われても俺たち学生だぜ? 働きだしてからでも遅くはないだろ? だ、だからさ……っっ」


「……」


 続きで何かを言おうとした田中だったけど思うところがあったのか、そこからは唾を飲み込むようにグッと堪えたようだった。良かったじゃない、それ以上言おうものなら最低でも二つの拳が顔面に飛び込んでいたところよ。


 さて、改めてこの状況。さっきまでナンパした女の子と楽しくカラオケと思いきや、彼女に出会い頭に子供がいると告げられる。田中にしてみれば急に見えるけど、私たちにとっては至極当然の行動。

 男女二人が準備もしないでやる事やれば、そうなる結果は見えているでしょう。それなのに急とか言って逃げ腰のこの男を見ていると、体の内の黒いものが噴き出て来そうになるわね。


「何をおっしゃるのですか。あなた方はやる事をやっていたのでしょう? ならばそれは、急とは言わず必然ではなくて? そうなる覚悟もなく逃げの算段となれば、それはもう婦女暴行と同義ですわ!」


 私が思っていたことを、友紀が声を荒げて話し出す。さらにそれは犯罪だと非難し始めたが、私は特に止めはしないわ。私だって目の前の男の煮え切らない態度にイライラしてたんだから、むしろいい気味とさえ感じてしまう。


「それに佐藤さんも佐藤さんですわ、なぜ初めから私たちにも田中さんにも全てを話さないのです? 依頼者(クライアント)が正直に話してくれなければ、信用関係が成り立ちませんわ!」


「はい、申し訳ありません」


 そうね、初めから全てを話してくれていたら、同行者として田中の実家へ乗り込むこともできた。そこで親も交えて話し合えばこんな手間を取らなかったのに。

 佐藤さんのお腹のことは友紀も勘付いていたし、私も気づいていた。でも結局佐藤さんが隠している以上、こちらから根掘り葉掘り聞くわけにもいかない。どちらにせよ、泥沼なのは間違い無いのだけど、もっとスマートに行きたかったわね。


「で、どうするの? このままじゃ埒が開かないし、どのみち両家の親を交えて話し合わなければいけないのは確かよね?」


「そ、そんな!?」


 田中が絶望したような顔で私の方を見る。こればかりはどんな道を辿ろうとも、避けれないだろう。本来であれば、周りに祝福されて穏やかに過ごさなければならないタイミングなのに、着地点を探るようなこの状況。佐藤さんだってこんなの望んでいないはず。こんな無責任な態度を取られて何で優しくできるんだろう。


「佐藤さん、その、言いにくいのですが……今回は。何もこんな薄情な男の……」


「阿東さん、ありがとうございます。でも私は圭吾さんの子がいいです」


「その理由を聞いても?」


 私もぜひ聞いてみたい、なぜこんなにこの男にこだわるのかを。

 どうやら出会いは、大学に入る前かららしい。田中は実は友紀や佐藤さんより一回生上だった。きっかけは、当時受験生だった佐藤さんが受験で大学に来ていた時、困っている所をいろいろ親切にされたのが今でも鮮明に覚えていた。そんな素敵な出会いを果たした佐藤さんは(個人談)無事に合格しキャンパスライフを謳歌しつつ、あわよくば運命的な再会を果たせればと妄想していたら、それが現実になったのだ。

 それはもう天に昇る気持ちだった。何せ学部も同じだから、これからも顔を合わせることが増えるだろうが、もっとお近づきになりたいと思った佐藤さんは、同じサークルに入る事にした。それから毎日サークルに顔を出しては、甲斐甲斐しく世話をしてある事に気づいた。田中は私と出会ったことを覚えていないのではないか、所詮困っていた受験生を助けただけでしか無いのではないかと。

 心にモヤがかかり掛けてたのを無理やり吹き飛ばす。ならまた一から気にかけて貰えばいい、再会を果たせただけでも幸運だったのだから、まだチャンスはある。そうして再び気合を入れ直して大学生活を送り、ついに運命の日が訪れた。

 サークル活動が終わり、みんなが帰った部室に二人きりで呼ばれたのだ。


「佐藤さん、君が俺にいろいろと世話をしてくれているのはわかっている。いや、俺だけじゃなくて周りの人も気づいている人はいるだろう」


 田中しか見えていない佐藤さんは、自分でも耳まで赤くなっていくのを自覚した。けど、それと同じくらい田中が自分の好意に気づいてくれるのも嬉しかったのだ。


「だから敢えて言うよ、俺は別に彼女はいらない。フリーで遊べる女しか選ばない」


 耳を疑った。彼が何を言っているのか分からなかった。いや、言っている言葉の意味を、頭が理解するのに時間がかかっていると言ったほうがいいだろう。

 佐藤さんは別にそう言ったものに疎いというわけではない。高校時代にも友人との雑談の中でそう言った流れの話になる事もあった。その時は顔っを赤らめながらも耳を大きくして聞いて、学校から帰った後に自分のスマホで調べたりもした。

 つまり田中が言いたいのは、『都合のいい女』が欲しいだけなのだ。自分の遊びたい時に呼び出しに応じ、退屈凌ぎだと分かってても呼び出しても来てくれて、そして抱きたい時に股を広げる女。田中が求めているのは、そういう女だという事だ。

 佐藤さんの目の前は真っ暗になった。優しくて周りからの人気も高く、誰にでも優しい人だと思っていたのは、ただの幻想で妄想でしかなかったのだ。

 目の前いる。呼吸が乱れる。胸を抑え蹲りながらも手を伸ばす。もう少しで手の届くと思っていたものが、急速に離れていくのを感じた。もちろんそれは佐藤さんの錯覚だ。でもこの数歩の距離が遠く、伸ばす手が空を切る。正に理想と現実の違いを知った瞬間だった。

 本来ならここで引き、自分を落ち着かせて田中から離れていくのが理想だったのだろう。けれど、なぜかお互いにここで引かなかったのだ。


「なら君が俺にとって『都合のいい女』になってくれ。代わりに、そうだな……俺がお前の理想の彼氏になってやろう」


「!?」


 これを語っている佐藤さんにとってはこの上ない提案に聞こえただろうが、私にとっては悪魔の囁きにしか聞こえなかった。隣にいる友紀も顔を顰める。けどこれで結論が見えた。

 要するに佐藤さんは田中の『都合のいい女』になったのだ。

 それからは、腹が減れば佐藤さんのお弁当を差し出し、遊びに行くと言えば後ろをついて歩き、抱きたいと言えば夜中でも田中の家に向かった。正に『都合のいい女』だ。

 それでも佐藤さんは幸せを感じていた。初めてを捧げた時でも優しくしてもらい、遊びに行く時でも二人分出してもらい、食事には少しおしゃれなところにも連れて行ってくれた。


「私にとっては圭吾さんが全てなんです」


 この佐藤さんの一言に全てが集約されていた。そして田中にとって誤算だったのは、佐藤さんが重い女だった事だ。とは言え、ヤンデレと言うほどでもないのが唯一の救いなのかしら。

 ともあれ、馴れ初めを聞いて田中は中途半端なクズと言うのは分かったけど、まだ根本的なことは解決していないのよね。


「それで、ここまで思われている貴方からは、何か言うことはないのかしら?」


「お、俺は、俺は…………」


「責任は取りたくない、親にも言わないで欲しい。じゃあ貴方は何ができると言うの? 小中学生の子供じゃ無いのよ? やる事やればできる、それは必然よ。自分の意思でやった結果なんだから、自分の意思で誠意を見せなさい! ここで逃げれば、この先何があっても逃げればいいと言う癖がつくわ。それは先送りでも何でもない。貴方の背中に問題が積み重なっていくだけ。そしてあなたは必ずそれらに押しつぶされ、死という形で精算されるわ」


「し、死ぬのか? そんなことで死ぬのか?」


「そんな事? 命を弄ぶ事をそんな事と言わないで! 因果は巡るわ、貴方に罪の意識があろうと無かろうと。その代償はいずれ払う事になるわ。佐藤さんはいい子よ。貴方だって彼氏を振る舞うくらいには、憎からず思っていたんでしょ? ならここは漢を見せる時じゃないの?」


「そ、そうか……」


 ちょっと説教臭くなっちゃったけど、これは私の本心だ。私が経験した異世界では、命の価値が本当に安かった。魔物が村を蹂躙し、なす術のない村人たちは容易く狩られていった。だけど、そんな時でも村人は女子共を真っ先に隠し、男たちは魔物に立ち向かった。みんなで村の未来を守ろうとしたのだ。だから目の前のこの男の行動には…………。


「誠意か…………綾子、お前はこんな俺でも好きなのか?」


「もちろんです、愛しています」


 私の言葉が通じたのか、それとも思うところがあったのかわからない。けれど、顔を上げた田中の顔には、さっきまでの様な弱気な感情はなかった。


「わかった。ならまずは俺の家に行こう」


「!!……圭吾さん、幸せになりましょうね」


「…………あぁ……」


 観念、とは違うわね。どちらかと言えば覚悟を決めた感じかしら?

 でもこれで解決したわけではないわ。と言うより、ようやくスタートラインに立ったと言ったほうが正しいわね。


「ではお二人とも、次の段階に入りますわよ!」


 一通りの収束を見た友紀が二人の肩を叩くと、佐藤さんと田中は頷いた。修羅場はまだまだこれからだけど、覚悟を決めた今の田中なら佐藤さんを守ってくれると信じてみてもいいかもしれない。


「さぁ涼子さんも、お二人も行きますわよ!」


「はい!」


「あぁ!」


「私? 帰るわよ?」


「え!?」


 意気揚々と二人を立ち上がらせ、店から連れ出そうとする友紀に私は待ったをかける。


「友紀、私たちの依頼は二人を引き合わせることよ。流れで佐藤さんのフォローをする事にはなったけど、ここからは田中さんの仕事よ」


 この後、二人は田中の実家に行ってありのままを話して、結婚を認めてもらわなければいけない。けれどそれは、全部田中が進めなければいけない。

 よそ様の娘を孕ませたとして、ぶん殴られるかもしれない。それならまだいい、逆に息子を誑かした売女として佐藤さんを罵倒するかもしれない。そうなった時、間に友紀が立ってはいけない。友紀は仲人気取りで浮かれているかもしれないけど、こう言う時こそ田中が漢を見せる時なのだ。

 だからこれ以上出しゃばらないようにここで終わりにしたいと思う。


「佐藤さん、依頼完遂って事でいいわね。成功報酬は後日請求するわね」


「はい、ありがとうございます。たった二日で解決されるとは思いませんでした」


「有能でしょ」


「感謝しかありません」


「けど、これからは佐藤さんが旦那のケツを引っ叩く番よ、気張んなさい! 田中さんも、何があっても佐藤さんを守りなさい!」


「はい」


「必ず!」


 自分を有能アピールって自惚れでちょっと恥ずかしい気もするけど、初依頼にしては上々よね。

 カラオケボックスを出ると、二人の背中を見送ってから二人と反対の道を歩き出す。友紀はまだ着いて行きそうだったけど、そこは自重してもらいたい。何度も言うけど、そこは二人の仕事であり、田中の漢の見せ所でもある。


「ちゃんと上手くいくか心配ですわね」


「いくでしょ、私ら二人が頑張ったんだし」


「ですわね。それに暫くすれば、大学で結果が聞けますわ」


「そっか、友紀は同じ学部だから会うわけよね。わかったら教えてくれる?」


「いの一番に連絡しますわ」


 友紀が佐藤さんと同じ学部なの、すっかり忘れていたわ。あれだけ晴々と別れておいて週明けにあっさりと再開するかもと思ったら、ちょっと格好つけすぎて恥ずかしいわね。


「さ、私らも帰ろうか」


「何を仰いますか? これからですわよ」


 依頼も無事終わって帰るだけなのに、友紀は俺に腕を絡めると、駅とは違う方向へ連れて行こうとした。


「せっかく涼子さんが可愛い格好をしていらっしゃるんですから、ショッピングも楽しみませんと!」


 いや、私の格好と買い物に関連性はないと思うんだけど。こう言う楽しい事をする時の友紀の行動力は凄まじいのよね。


「それに……」


「ん?」


「涼子さんと離れ離れになった数年を埋めるには、まだまだ時間が足りませんですわ」


 そうか、再開してから今日まで、お茶やお互いの家やアパートに行き来する事はあっても、じっくりショッピングする事はなかったわね。

 普段は居酒屋でバイトして昼間は寝ている生活ばかりのせいか、改めて見る昼間の光景は何だか眩しく感じた。

 そして改めて隣を歩く頭ひとつ分高い親友の顔を見る。


「どうしたんですの?」


「ん? なんて言うか、こう言うのも案外悪くないかもって思っただけよ」


 異世界から帰って暫く、陽の下で堂々と歩けると言う感動を改めて感じる。夜型の生活でちょっとだけドライになっていたのかもしれないわね。


「ならこれからは定期的にお出かけしますわよ。もちろんコーディネイトは私がしますわ。よろしいですわね?」


 私の意見を肯定と捉えたのか、目を爛々と輝かせた友紀が前のめりに提案してくる。私としても昼間の外出は精神衛生にもいいかもと思ったけど、ここまで食いつかれると少し早まったかもと後悔もある。けど、言ってしまった以上、今更やっぱやめるとは言いづらい。

 それにさっきの友紀の言葉。友紀にとって私のいない期間は地獄の世界だったんだろう。重いと思えばそうなんだろう。けど、私にとっても友紀は光の存在であり続けてくれる人だと思っているからお互い様よね。


「では、行きますわよ!」


「おっけー!」





 後日談。数年後。

 私と友紀は今、とある結婚式に呼ばれていた。真っ白なテーブルクロスに高価そうな料理が並べられ、入場する新郎新婦はとても幸せそうな顔をしていた。

 けど、一つだけ解せない事がある。


「阿東さん、渡辺さん。改めてあの時はありがとうございます。お二人がいなければ、私たちは今ここに立てていませんでした」


「あ、うん、良かったじゃない。末長くお幸せにねー……」


「あの時の叱咤は今でも心に留めています。本当にありがとうございました」


「あ、うん、綾子さんを幸せにしてあげてねー……」


「あなた方二人のお陰で、圭吾は立派に生まれ変わりました」


「いえいえ、私のした事なんてただのきっかけに過ぎませんよー……」


 あれから数年、どうやら二人はお互いの両親に認められ無事にゴールインする事ができた。

 田中は自分の父親に殴られ、相手の両親に土下座する勢いで謝られたが、そこはお互い大学生。佐藤も責任の一端があると言って宥めすかしたそうだ。けど、それはそれ。結婚と出産は認めてほしいと懇願したところ、快く了承してくれたそうだ。

 ならば、田中家はすぐにでも愚息に働かせると言ったところ、田中本人から待ったがかかったらしい。


「確かに今すぐ就職すればお金は手に入る。けど、無理を承知でお願いしたい。俺を卒業させてください! 今から勉強し直して少しでもいい会社に就職すれば、綾子をこの先もっと幸せに出来るかもしれない! この通りだ!」


 この惚気話を佐藤さんから聞いた時は、少し田中を見直したわ。やっぱり誰かが間に入るより、田中一人でやらせた事で得るものはあった様ね。

 それらの話をまとめてから佐藤さんの両親にも挨拶にいったらしいけど、まぁ学生の身で娘を傷者にされたんだから、推して知るべしよね。

 けど、それも今この場に両家全てが集まっているのを見れば、大団円って事でいいのよね。

 私を除いては。


「友紀、聞いてないわよ」


「何がですか、涼子さん」


 まだすっとぼけるか。見るからに私の席次表の位置がおかしいでしょう。


「何で私の席が高砂のすぐ傍にあるのよ! ここ、どう見ても仲人の場所でしょうが! 私がいつあの二人の仲をとり持ったのよ? もしかしてあれのこと言ってるの? あれはただの依頼でしょ? 仲人役は友紀の方がノリノリだったじゃないのよ!」


「イヤですわ涼子さん。私は助手でして、解決してあの二人が無事にここまで来れたのは涼子さんの叱咤があればこそですわ」


 こやつ、いけしゃあしゃあと功績を人になすり付けようとする。自分の方がノリノリだったくせに手柄とかは全部私に渡そうとする。この間の時も……、っとそれはまた。


「呼ばれるにしても私は友人席でよかったのよ」


 なんて今更言っても、後の祭りなのはわかっているわ。

 改めて高砂の二人を見る。田中の方は最初に見た時とは見違えるように精悍な顔つきになっている。変わって佐藤さん、って今は田中だったわね。で、綾子さんの方も一児の母になっただけあって、こっちも逞しくなっている様で安心したわ。


「で、次は友紀の番?」


「私の番、ですの?」


 少しだけ上向きになった気分で茶化すように友紀に投げかけてみても、本人は何のことだかわかっていない様ね。

 そりゃ特定の相手もいないような状態だと、話の流れにピンと来るものはないかもしれない。と言っても私も同じ様なものだから本人の資質と気持ちの問題かも。


「お互いに相手もなしじゃ成立しないわね」


「そう言う話でしたら、問題ないですわ」


 問題ないとは? 今まで一緒にいてそんな浮ついた話は聞いたことないし、婚約者がいたと言う話も聞いていない。良いところのお嬢様だから、ひょっとしたら秘匿されていて知らないだけと言う可能性もあるけど。


「そう言うことではありませんわ。私は涼子さんさえいれば、問題ないと言うことですわ」


「へ? ……そう言う?」


「そう言うことですわ。改めて、愛していますわ。ですので、お覚悟くださいませ」


「へぁ!?」


 とんでもない不意打ちを食らった私が呆けていれば、友紀は耳元でさらに爆弾発言をついかで囁いた。私も友紀のことは大好きだが、そんなつもりは全くなかったから心臓の鼓動がこれ以上ないほど早鐘を打っている。魔王との決戦でもこんなことは無かったのに。

 それ以降、色々な祝辞や余興などはあったが、友紀の一言が原因なのか内容が一切頭に入ってこなかった。肝心なブーケトスも私の近くに来たと思ったけど、群がる女性軍団に揉みくちゃにされただけで終わってしまった。


「綾子さん、綺麗でしたわね」


「そうね……」


「お子さんも可愛かったですし、次は家族ぐるみで遊ぶのも悪くないですわね」


「そうね……」


「涼子さん?」


「…………」


 結婚式の帰り道、私は友紀の送迎車に一緒に乗せられて帰路についていた。その車内で結婚式での余韻冷めやらぬ友紀はあれこれと話題を振るが、私には上の空だった。もちろん、原因はあれ。

 あの言葉が私の中を何度も反芻する。もちろんあの会場でも友紀には話た。私には特定の相手はいない。と言うか、作る気もない。それなのに、友紀は私にしか狙いを定めていなかった。

 それは全く知らなかったわけではない。十五年前の助けたあの日から、私に異様な執着を見せていたのだからそう言う可能性だってあるとは思っていたし、距離も近いと思っていたわ。告白めいたことも何度も言われた。なら何で今更。

 答えは簡単、私が認めていなかっただけ。認めることが怖たった。私の身体には問題がある。友紀もそれを分かっていて、尚そう言ってくれる。けど、私自身が怖がっていた。

 でも、それももう限界かも。


「友紀」


「何ですか、涼子さん」


 私の悩みなど何も無かったように、友紀は笑顔で返してくれる。眩しいな。


「ありがとう。これからもずっと一緒よ」


「…………!?!?!?」


 ずっと返事を待っていてくれた友紀は、私の言葉を肯定と捉えてくれたを分かったのか、涙目でこっちを見てくる。泣くほど嬉しいと思わなかった私も面食らったけど、その笑顔を見れば言った甲斐があったと言うものよ。


「涼子さん、涼子さん、私たちの式はいつにしましょう! 海外も良いですが、いっぱい呼べる場所も悪くありませんですわね! それとも二人だけで厳かなのも好きですか? ならなら、いろんな式をやっちゃいますわ! バリエーションの分だけやっちゃいましょう!」


「いや、待って! 暴走しないで! 今から色々端折りすぎよ! 段階を踏んでからにして!」


 友紀がいれば、この先も色々騒がしく楽しくなりそうね。

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