3か月後 ― 新しい探索役(デルガント)
《デルガント》に新しい仲間が加わった。
カーティスという、30歳の冒険者だった。
日に焼けた肌に、短く切った焦げ茶色の髪。革の胸当てに動きやすそうな服を身につけ、腰の左右には使い込まれた短剣を1本ずつ下げている。
以前所属していたパーティでは、前方の探索を担当することが多かったという。地図が読めて、魔物の痕跡も見分けられる。先行して周囲を確認することにも慣れており、戦闘になれば2本の短剣を使う。
特別に何か1つへ秀でているというより、探索役として必要なことを一通りこなせる男だった。
以前のパーティを抜けた理由も単純だった。リーダーが故郷へ戻ることになり、それを機に解散したらしい。
募集を出してから何人かと話をしたが、5人の意見が最も早く一致したのがカーティスだった。
「探索ができて、戦闘にも参加できる奴って書いてあったから。俺なら合うかなと思って」
受け答えも簡潔だった。
「前のパーティじゃ、どのくらい先まで見てた?」
「場所によるな。森なら離れすぎない方がいいし、見通しのいい場所ならもう少し先まで行く。何かあったときに戻れない距離までは行かない」
「罠は?」
「簡単なものなら分かる。専門ってほどじゃない」
「魔物の種類は?」
「よく出る奴なら痕跡でもある程度は。分からなければ分からないって言う」
ジェラルドが尋ねたことには、その都度答える。
できることと、できないこともはっきりしていた。
それで十分だった。
◇
6人での最初の仕事は、王都の南東にある森での魔物討伐だった。
街道を通る荷馬車が、何度か小型の魔物に襲われている。幸い大きな被害は出ていないが、このままでは商人が道を避けるようになるため、周辺を調べて討伐してほしいという依頼だった。
出発前、ジェラルドはカーティスと地図を広げた。
「目撃されたのはこの辺りだ」
「なら、街道から入った方がいいな」
カーティスが地図の上を指でなぞる。
「こっちの道の方が近いんじゃないか?」
横からロルフが細い道を指した。
「途中からかなり狭くなる。今回襲われてるのは街道を通る荷馬車だろ? まず街道沿いを見た方がいいと思う」
「じゃあ、それで行こう」
ジェラルドが決めると、カーティスは地図を畳んだ。
ジェラルドはこのところ、依頼前に自分で掲示を確認し、最近の情報を聞き、地図を眺める時間が増えていた。
もちろん今日も確認はしているが、その先を1人で全部考えなくていい。
道筋について意見を求めれば答えが返ってくる。
以前は当たり前だったことが戻ってきたような気がした。
街道へ出てからは、カーティスが少し前を歩いた。
ただ、ずっと地面ばかり見ているわけではなく、道の端に残った跡へ視線を向け、森の方を見て、そのまま歩いていく。
しばらく進んだところで、初めて片手が上がった。
「ちょっと待って」
5人が足を止める。
カーティスは街道脇へしゃがみ込み、柔らかい土に残った跡へ指を近づけた。
「何か通ってるな」
ジェラルドも覗き込み窪みを確認したものの、自分にはそれ以上のことは分からない。
「今回の奴か?」
「多分。大きさも合う。何度か同じ辺りを通ってるみたいだな」
カーティスは立ち上がり、森の方を見る。
「こっちから出入りしてる。中に入れば見つかると思う」
「分かった。行こう」
森へ入ってからもカーティスは何度か足を止めた。
足跡が残っていれば確認し、低い枝が大きく折れていれば見る。
だが、違うと判断すればすぐに歩き出したし、何もなければ、何も言わない。
ロルフがその後ろを歩きながら、ジェラルドを振り返り、小さく笑った。
そして、いざ戦闘が始まれば、カーティスも当然のように加わった。
2本の短剣を抜き、正面から魔物を受けるジェラルドとブルーノの横へ回る。ロルフの動きも見ながら位置を変え、エルマーの魔法を邪魔することもない。
初めて組んだ相手だから完璧な連携というわけではなかったが、全く危なげはなかった。
討伐した証明になる部位を回収し、森を出た。
帰りの街道でも、カーティスは行きと同じように前を歩き、一度だけ道の端で止まった。
「どうした?」
ブルーノが尋ねる。
カーティスが指した先には、森へ向かう跡が薄く残っている。
「さっきの奴か?」
「いや、違うな。もっと大きい。それに2日か3日は経ってる」
「追わなくていいのか?」
「街道へ出てきた跡でもないし、今回の依頼とは関係ないだろ」
カーティスは立ち上がった。
「何か報告されてるなら別だけど、そうじゃないなら追う必要はないと思う」
「それもそうか」
ジェラルドも何も言わなかった。
気づかなかったわけではないが、何かを見つけた上で、必要がないと判断したのだ。
そのまま6人は王都へ戻り、依頼は問題なく完了となった。
◇
その夜いつもの酒場で、ロルフが満足そうに杯を置いた。
カーティスの歓迎会も兼ねている。
「毎回こんな楽ならいいんだけどな」
「初仕事でそれ言うと、次でひどい目に遭うぞ」
ネイトに言われ、ロルフが顔をしかめた。
カーティスが笑いながら酒を飲む。
エルマーが追加の料理を注文し、ブルーノが空いた皿を端へ寄せた。
初めて一緒に仕事をしたばかりだが、カーティスは思っていたより早く5人の中へ馴染んでいた。
うまくいきそうだった。
探索を任せられ、戦闘にも参加できる。必要なことがあれば言い、必要がなければそのまま進む。
カーティス自身も、こちらに合わせづらそうな様子はない。
自分たちが探していたのは、こういう人間だったのだと思う。
「カーティス、これからよろしく頼む」
「ああ。こっちこそ」
ジェラルドが杯を上げると、カーティスも自分の杯を持ち上げた。
「お、じゃあもう1回やるか」
エルマーが割り込み、ロルフとネイトも杯を伸ばしてくる。
「何回乾杯するんだよ」
「歓迎会なんだからいいだろ」
杯がぶつかり合った。
6人になった《デルガント》の初仕事は、上々の滑り出しだった。




