20日後 - 順調(デルガント)
ニコが《デルガント》を抜けてから、20日ほどが過ぎた。
その間に、5人は5件の依頼をこなした。街道近くに現れた魔物の討伐、王都近郊の森での採取護衛、廃屋に棲みついた小型魔獣の駆除。いずれも王都の近くや、何度も足を運んだ場所での仕事だったこともあり、どれも問題なく終わった。
5人になったことで戦力が落ちたという感覚もない。
もともとニコは戦闘では後方にいることが多かったのだから、当然といえば当然だった。
むしろ移動は以前より速くなった。少し変わった足跡があったからといって足を止める者はいない。道端の草を確かめるためにしゃがみ込む者も、遠回りを提案する者もいない。
「今日も早かったよな。前なら、まだ森の中だったんじゃねえか?」
3件目の依頼を終えた帰り、エルマーがそう言った。
「ニコなら途中の川で止まってたな」
ロルフが笑う。
「ああ。水がどうとか、上流で雨が降ってたらどうとか」
「それで結局、何もねえんだよ」
「そうそう」
5人の間に笑いが起きた。
似たような会話は、その後も何度かあった。
予定より早く目的地へ着けば、ニコがいないからだと言った。足跡を見つけてもそのまま進めば、前ならここで止められていたと笑った。
もっと早くこうしていればよかった、と言うエルマーの意見を、誰も否定しなかった。
次に受ける依頼は、近隣の村から出された魔物の駆除だった。
受付で手続きを済ませたところで、ロルフが何気なく尋ねた。
「ジェラルド、明日はどっちから行くんだ? 森の南か?」
ジェラルドは一瞬、返事に詰まった。
「ああ……あとで地図を確認しておく」
「分かった」
それだけだった。
ロルフはエルマーたちと酒場へ向かい、ネイトもそのあとを追う。
その夜、ジェラルドは自宅の卓上に地図を広げた。目的の村までは街道を使えばいい。その先の森へは、南東側から入るのが一番近い。
指で道をたどっているうちに、ふと思う。最近、雨は降っただろうか。昨日の朝に少し降った。大雨ではない。川はあるが、橋も記されている。依頼票にある魔物なら生息域も知っている。ほかに危険な大型種が頻繁に出る場所でもなかったはずだ。
ジェラルドはしばらく地図を眺め、南東から入ることに決めた。
思ったより時間はかかったが、やってみればどうということはない。
これまでなら地図を広げると、ニコが横から覗き込んできた。どこを通るべきか、どこを避けるべきか。昨日の天気や、少し前に出た魔物の話まで持ち出して、あれこれと話し始める。
そんな話をずっと聞かされていたのだ。自分だって何も知らないわけではない。
ジェラルドは地図を畳んだ。
翌朝、5人は予定通り村へ向かった。
南東側から森へ入ると、昨日の雨が残っていた。ところどころ地面がぬかるみ、いつもより歩きにくい。
「ニコなら絶対、別の道にしようって言ってたな」
泥に沈んだ靴を引き抜きながら、ロルフが言いネイトが笑う。
「で、北まで回って、余計に1時間かかる」
「こっちで正解だろ。歩けるんだから」
実際、その通りだった。足を取られることはあっても、進めないほどではない。
途中、湿った地面に魔物らしい足跡を見つけた。ロルフが向きを確かめ、自分たちの進行方向とはずれていると判断する。
「ならいい。行くぞ」
ジェラルドが言うと、エルマーが満足そうに頷いた。
「いいな、こういうの。前ならここから長かったんだよ。何の足跡だとか、いつ通ったとか、どこへ向かってるとか」
「ああ。最後は『念のため確認しましょう』だろ?」
「それ」
またニコの話をしていると一瞬思ったが、ジェラルド自身も笑ってしまっていた。
目的の魔物は、さほど苦労せずに見つかった。2体とも問題なく討伐し、ネイトが治癒術を使う必要すらなかった。
依頼は成功し怪我人もいない。
王都へ戻る頃には全員の靴と裾が泥だらけになっていたが、それだけだった。
「まあ、今日はちょっと疲れたな」
報酬を受け取ったあと、いつもの店でロルフが肩を回した。
「先頭歩きながらずっと地面とか周り見てんの、地味に面倒くせえ」
「でも、お前できてたじゃん」
ネイトが笑う。
「ニコ、よくずっと見てたよな」
その言葉に、ロルフが杯を口元まで運んだまま止まった。
「……まあ、あいつはそういうの好きだったんだろ」
「好きっていうか、気になって仕方なかったんじゃねえの?」
エルマーが笑った。
「だから面倒だったんだよ」
それで話は終わった。
ジェラルドも酒を飲んだ。
今日の依頼に問題はなかった。
自分で道を決め、ロルフが足跡を見つけ、戦闘も問題なく終わった。
店を出て仲間たちと別れ、1人で家へ向かいながら明日の依頼先について考えた。
王都から北西にある山の麓で、何度か行ったことはあるが、前回とは季節が違う。
どの道を使うかは、まだ決めていない。
帰ったらまた地図を見なければ。




