5か月半後 ― その夜(デルガント)
ブルーノを待たずに飲み始めていた4人のところへ、ジェラルドがやってきたのは、全員2杯目の酒が半分ほどなくなった頃だった。
「遅かったな。……あれ?ブルーノは?」
エルマーが隣の椅子を引いたが、ジェラルドはそこへ座りながら首を振った。
「パーティ辞めるってさ」
卓上へ伸びかけていたロルフの手が止まった。
ネイトが顔を上げ、カーティスもジェラルドを見る。
「はあ?」
エルマーの声が大きくなり、近くの卓から何人かがこちらを振り返った。
「何だよ、それ。今日?」
「今」
「なんで?」
「……ニコのこととか、いろいろ考えたらしい」
ジェラルドは店員を呼び、自分の酒を頼んだ。
それから、ブルーノとの話をかいつまんで説明した。
ニコが話を聞いてもらえなくなっていたことに、ブルーノは気づいていた。それでも自分の居場所を失うのが嫌で、何も言わなかった。それを後悔しているらしい。
そこまで聞いたところで、エルマーが眉を寄せた。
「いや、あいつも一緒にいただろ」
「ああ」
「ニコが長々しゃべってるとき、普通に先行ってたよな?」
ロルフが酒杯を持ったまま考える。
「止めてた記憶はねえな」
「俺もない」
ネイトも小さく頷いた。
「だろ? なのに今になって、それが嫌だから自分は辞めますって何なんだよ」
「自分も同じだったって言ってたよ」
ジェラルドが答えると、エルマーはますます納得できない顔になった。
「だったら余計に分かんねえよ。今さら急にいい人になったって仕方ないだろ」
「いい人になったっていうか……」
ジェラルドは運ばれてきた酒を受け取り、一口飲んだ。
自分だって、ニコへの態度が良かったとは思っていない。
カーティスに言われてから、思い当たることはいくつもあった。ニコが話している途中で先へ進んだこともあるし、聞かずに済ませたこともある。
最近になってノートを読み、そんなことをしてくれていたのかとは思った。
だが、それと5年間すべてが悪かったという話は別だと思う。
「俺たち、そんなひどかったかあ?」
口に出すと、ロルフが困ったように笑った。
「話聞かねえことくらいはあったけどな」
「毎日ずっと仲良しってわけにもいかないし」
ネイトが言う。
「別に殴ったり蹴ったりしてたわけじゃないだろ。報酬だって同じだったし」
「そもそもニコだって、最初からあんな感じじゃなかっただろ」
エルマーが卓に肘をついた。
「だんだん細かくなってったんだよ。何か見つけるたびに止まって、こっちがもういいって言っても説明続けてさ。5年も毎日一緒にいたら、そりゃ聞かなくなるときだってあるだろ」
「まあな」
ロルフが頷く。
「合わなくなってたのは確かだと思うぞ」
それはジェラルドも同じだった。
だから辞めてもらった。
今になって分かったことがあるからといって、あのとき何も理由がなかったことになるわけではない。
「ブルーノ、考えすぎなんじゃねえの」
エルマーが言った。
「今さら自分だけ反省して辞めるって、ちょっと偽善っぽくないか?」
ジェラルドは酒杯を置いた。
「ニコは辞めてよかったって言ってた」
「は?」
「あのままいたら消耗しきってた、って」
エルマーの顔から笑いが消えた。
「何だよ、それ。俺たちがニコを潰してたみたいじゃねえか」
「俺もそう言ったよ」
ジェラルドは肩をすくめた。
「そしたら、俺は分かってないらしいぜ」
「何が?」
「知らねえよ。聞いたけど、『それも分からない』って」
一瞬の沈黙のあと、ロルフが吹き出した。
「何だそれ。謎かけかよ」
「だろ?」
「本人も説明できねえんじゃねえの?」
エルマーも呆れたように笑い、ネイトも困った顔をした。
ジェラルドもつられて口元を緩めた。
ブルーノは昔から、思ったことを器用に言葉にする男ではない。それは分かっている。
ただ、卓の端に座るカーティスだけは笑っていなかった。
話に加わることもなく、皿の肉を切っている。
「何だよ、カーティス」
エルマーが気づいた。
「また何か言いたそうだな」
「いや」
「言えよ。前も言っただろ」
カーティスは手を止めた。
少し考えてから、卓の上にナイフを置く。
「ブルーノさん、自分は悪くないって言ってたんですか?」
「いや」
ジェラルドが答えた。
「逆だよ。自分も分かってて何も言わなかったって。それを後悔してるってさ」
「じゃあ、別に自分だけいい人だとは言ってないですよね」
エルマーの眉が動いた。
「でも今さらだろ」
「そうですね」
カーティスはあっさり頷いた。
「今さらだと思いますよ。俺も」
それだけ言うと、またナイフを手に取った。
エルマーは何か言い返しかけたが、相手がそれ以上話すつもりがないと分かったのか、酒杯へ手を伸ばした。
ジェラルドも、それ以上カーティスに聞こうとは思わなかった。
「で、どうすんだよ」
ロルフが話を変えた。
「ブルーノ抜けるなら、前衛1人減るぞ」
「ああ。それなんだよな」
ジェラルドは椅子に深く座り直した。
カーティスが入ってから、探索については問題がない。だがブルーノが抜ければ、今度は単純に戦力が減る。5人でも受けられる仕事は多いが、これまでと同じ依頼を選ぶなら、新しい前衛を探した方がいいだろう。
「また募集出すか?」
「そうだな。急がなくてもいいけど、剣士か盾役あたりは欲しいな」
「今度はちゃんと戦えるやつにしろよ」
「分かってるよ」
「カーティスみたいな当たりなら楽なんだけどな」
「俺を基準にされても困りますよ」
カーティスが苦笑する。
エルマーが笑い、ロルフが次の酒を頼んだ。
そのまま話は、次に受ける依頼へ移っていった。
ブルーノが座っていた席だけが空いたままだったが、それでも酒は減り、料理は追加され、いつものように夜は過ぎていく。
《デルガント》は続く。
ニコが抜けたときもそうだった。ブルーノが抜けても、きっと同じだ。
ジェラルドはそう思いながら、酒を飲んだ。
ただ、ブルーノの言葉だけが、ときどき頭に戻ってきた。
『あいつは帰ってこないよ。もう放っておいてやれよ』
なぜブルーノが決めつけるのか。
自分たちが悪かったところは分かった。今度は話を聞くつもりもある。探索はカーティスに任せれば、ニコが何もかも背負う必要もない。薬や記録のように、ニコに向いていることだって分かってきた。
以前とは違う。
確かにブルーノの言うとおり、自分には分かっていないことがあるのかもしれない。
だが、何が分かっていないのか分からないのだから、考えたところで仕方がない。
会う機会があれば話してみればいい。
実は向こうだって待っているかもしれないではないか。




