第24話 枠外
「じゃあ早速魔王の話をするぞ──」
ワルドは重々しい雰囲気を出し話をしだした。
言うほど早速だとは思わないがそれを口に出すのはやめておこう。
「魔王の居場所は分からないと言ったな? それは長らく人類の前に魔王が現れていないからだ。文献によると最後に魔王が姿を見せたのは300年前。王都を襲撃し当時の王都は大きな被害を受けたとされている。壊滅寸前のところまで追い詰められたが騎士団がなんとか魔王を追い払ったらしい。その後の王都再建時になにやらごたごたとあったようだが詳細は知らん。なんせ300年前の話だ」
最後に現れたのが300年前……
「……魔王は今も生きていると思うか?」
「生きてるだろうぜ。魔王の手下を名乗る魔族がちょくちょく人類にちょっかいかけてくるからな。一体何が目的なんだか……まったく迷惑な話だぜ」
そう話しながらワルドはポケットに手を突っ込むとタバコを取り出す。しかし口に咥える直前でその動きが止まる。
「おっと、子供の前でするもんじゃねえな」
ワルドはホロスを見るとタバコを再びポケットの中へと戻した。
「別にかまわないわよ」
「俺がかまうんだよ。俺ぁそういうのはわきまえてるタイプのおっさんだからな」
ワルドは決め顔でそう言った。
「……っと、まあ俺が知ってるのはそんくらいだな。なんでお前らがそこまで魔王に固執してるのかは気になるが今は聞かねぇでおいてやるよ」
その気遣いには感謝する。……だが思ってたより……
「あっ! おいエインてめぇいま『コイツ大した情報持ってねぇじゃねーか使えねー。こんなギルド今すぐ抜けてやる』って思っただろ」
「そこまでは思ってないが……」
「多少は思ったってことだな!? ったくしゃーねえな。今からギルドに入ったことで受けられる恩恵を2つ教えてやる」
ワルドは指を1つ立てた。
「1つ目! ギルドが所蔵している文献が読める! 王都にある本部ギルドに行けば魔王に関する詳しい文献もあるだろうよ」
なるほど文献、本か。それだったら今よりも詳しい情報が得られそうだ。
「そして2つ目! お前らにとってはこっちのほうが大事なことだ」
魔王の文献よりも大事なこと? そんなものがあるのか?
「それは……」
「それは?」
「金が稼げる!!」
あー……
「金…か」
「なんだその反応! エイン、ホロス! お前ら故郷滅んで放り出されたんだろ!? だったらいるだろ金! それだというのにお前らときたら魔王魔王と不健全極まりない。若いんだから稼いで金使ってちゃんと遊べ!」
正直今の今まで金の存在を忘れていた。そりゃあいるよな金は。千年間異空間で暮らした弊害がこんな形で出るとは。
「2万ギルくらいなら持ってるわよ」
そういえばホロスが俺の荷物を預かっている中に食料の他に金もあったか。
「かーっ! 2まん~? それで何日暮らせると思ってるんだ」
「さ……さぁわからないわ……」
俺もわからん。これに関しては田舎暮らしの弊害でもある。ここの物価とか知らないし。
「リヒト~、お前こんな世間知らずな奴ら二人どこで拾ってきたんだよ」
「そこらへんッス」
そこらへんにいたのは事実だが言い方ってものがあるだろう。
「まあいい、とりあえず明日またギルドに顔出せ。適当なクエスト見繕ってやるからよ。んじゃ、俺はこれから仕事だからこれくらいで失礼するぜ」
そう言い残しワルドは去っていった。
「実際2万だとどれくらい暮らせるんだリヒト」
「たしか宿借りるんスよね? それで二人だと……2日? 頑張れば3日? ……いやちょっと待ってください。そもそも宿代くらいオレが代わりに出しますよ!」
「なんかそれはリヒトに養われてる感あって嫌だな」
「なんスかそれ!?」
「たしかに」
「ホロスさんまで!?」
まあ金なら明日から稼げばいいし問題ないだろ。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやーまいったまいった、これからどうすっかなー」
エインたちのもとを離れたワルドは仕事部屋への移動を開始する。しかしその道中に一人の青年が──
「……なんだフェルド、サボって盗み聞きでもしてたのか」
そこにいたのは一等魔法師フェルド。フェルドは壁にもたりかかりながら口を開いた。
「気になっちゃってね、エイン君とホロスちゃんの指輪が何色になるかさ」
「……お前はなると思ったのか? 黒に」
「まぁね。二人とも僕じゃ計り知れないものがあったからさ、『枠外』になるのも十分あり得ると思ったんだよね。まあエイン君の透明もある意味枠外ではあるけど」
魔法師ギルドの等級は一から五。数字が若ければ若いほど強く実績を兼ね備えた魔法師である。しかしそんな等級では測れないほど理不尽な“力”を持った存在がいる。彼らの指輪は黒く輝き等級という枠組みから外されたことからこう呼称される。
「枠外」と──
現在「枠外」と呼ばれる魔法師はこの世でたった三人──
「そういえばあいつはエインのこと気に入りそうだな」
「あーあの人かー。僕あの人苦手なんだよねー。戦闘狂だから」
◇ ◇ ◇ ◇
「はっくしょん!! お? 誰か俺の噂をしたか?」
男が呑気にくしゃみをした。周囲にはそびえたつ崖と男を取り囲むように大量の竜の群れが羽ばたいている。
「強い奴だといいな」
そう呟いた次の瞬間、竜が一斉にその男に襲い掛かった。しかし──
「──お前らだと足りねぇんだ。歯ごたえが」
空を埋め尽くすほどいた竜は何処へやら。代わりに魔力の粒子が空を漂っている。
「剣士だといいなぁ。久しぶりに斬り合いてえ」
男の右手には刀が、そして左手中指には黒い指輪がはめられていた。
第24話 枠外




