第23話 赤と白と透明
「じゃあギルド入るのやめます」
「ちょっ…ちょっと待て結論を出すのはまだ早いだろ!」
支部長ワルドが焦ったように引き留めにかかる。俺は出口に向けて足を踏み出しかけていたが一旦やめることにした。
「いやでも入る理由なくなったんで」
「そうねー。確かに魔王の情報を聞くのが目的だったものね」
ホロスも俺の意見に同調する。
「いやいや魔王の居場所はわからんとは言ったが魔王の情報を教えんとは言ってないだろ!」
それは確かに。居場所を聞くだけが全てではなかったな。
「ったく。これだから若者は。すぐ結論を求めようとして」
ワルドは自身のあごひげに触れながらぼやいた。
……俺達が若者かどうかは賛否が分かれるところではあるが……特にホロスは。
俺はホロスをちらりと見る。
「なによ。なにか言いたげね」
「いや別に」
俺は誤魔化しつつ話を戻す。
「じゃあ早速その魔王の情報とやらを教えてもらおうか」
「まあ待て、それも正式にギルドの一員になってからだ。とりあえずこれつけろ。どの指でもいいぞ」
そう言ってワルドは俺達に指輪を渡してきた。
「おいリヒト! お前こいつらに魔法指輪の説明はしたか」
「大体はしたはずッス!」
「よーっし。じゃあ話が早いな。これをつけて然るべき手続きをすればウチの魔法師ということになる。つけたら指輪に魔力を込めて俺が持っている水晶にかざせ。指輪の色が変わるはずだ。まあお前らなら最低でも白銀だな」
なるほど指輪の色で魔法師としてのランクがわかるあれか。しかし……
「俺魔力ないが」
「…スゥー……」
ワルドは俺から目を逸らすと大きく息を吸い込む。
「ないが」
念のためもう一度言ってみた。
「……あ~…そう、だな……」
忘れてただろ。
「……まあそれは一旦置いといてだ。リヒト試しにお前がかざしてみろ。多分ランクあがってるだろ」
「りょ…了解ッス……!」
リヒトは少し緊張を見せながら指輪をかざす。その指輪の色は黄色。確か四等って話だったな。
少しすると指輪が光りだし色が変わる。その色は──
「赤……。うおお~っ! 三等魔法師に昇格ッス!!」
俺達に指輪を見せながらリヒトははしゃぐ。
「よかったわね」
そんなリヒトにホロスは優しく笑みを浮かべながら声をかけた。
「はい!! でも正直な話魔族倒したしもしかしたら一気に二等魔法師まであるかな~とか思ってたんスけどそう上手くはいかないッスね!」
そう考えるのも無理はない。二等魔法師のガデロンとリサよりリヒトが戦ったハーベルとかいう魔族のほうが間違いなく強かっただろうからな。だが現時点でリヒトがガデロンとリサより強いというわけではない。(正直リサの実力はホロスの戦い方があれだったからよくわかってはいないが)
じゃあ何故リヒトはハーベルに勝てたのか。その理由は──
「リヒトがあの魔族に勝てたのは不意打ちが上手く決まったからというのが大きい。不意打ちが決められる状況に持って行けたのは紛れもなくお前の実力だが真正面から戦った場合の実力ははっきりいってまだまだだ」
「うっ……はい…精進します」
とはいえリヒトの成長速度は異常だ。二等魔法師くらいなら近いうちになれるだろう。だからこそ不思議だと感じることがある。
「なんで俺達に会う前はあんなに弱かったんだか」
声に出すつもりのなかった言葉がつい口からこぼれる。
「そりゃあこいつが基礎を疎かにしてたからだろうな」
ワルドは俺の口から漏れ出たふとした疑問に答えてくれた。
「火の基礎魔法がダメなら水の基礎魔法を、水の基礎魔法がダメなら雷を、少し習得するのを手こずるだけで違う魔法を練習する。自分の適性のある型を見つけてそこから魔法の出力のコツを掴むのがオーソドックスな鍛え方だというのに」
「し、仕方ないじゃないッスか! その適正のある魔法が見つからなかったんですから!」
「見切りをつけるのが早いって話だ」
なるほど。天才も鍛え方を間違えば凡人になり得る。それだけの話だったか。
「だがまあ、正直見違えたよ。いい師に出会えたようでなにより」
ワルドは考え深そうにリヒトを見つめた。なぜだろうか、その目はどこか父性すらも感じる。
「当然ね! 私たちが鍛えてあげたんだから!」
「まあな」
「本当にありがとうございます!!」
こうしてリヒトに礼を言われるのは何回目だろうか。まあ今回に関しては俺たちが礼を言うよう誘導したようなものだが。
「──っと、話が逸れたな。ホロスの嬢ちゃん。リヒトがやったようにこの水晶に指輪をかざしてみろ」
ワルドに呼ばれるとホロスは指輪を数秒じっと見つめてから返事をした。
「……ええ、わかったわ」
ホロスが水晶に指輪をかざすと指輪が淡く光りだし透明だった宝石に色がつく。その色は──
「──白銀、一等魔法師だ」
「うおおおッ!! すごいッスホロスさん! 一発で一等魔法師になる人初めて見ましたよ!!」
「……ま、当然ね!」
力を削がれたとはいえ流石は女神。リヒトもそれは知ってるだろうにそういうのは関係ないんだな。そういえばホロスが女神だと明かした時も驚いてはいたがその後の態度はあまり変わっていない気がする。こいつはすごいと思った奴をとことん尊敬する。そしてそれは人も神も区別せずといったところか。
「それで、俺はどうすればいいんですかね支部長さん」
俺は指輪をつまみ装飾されている透明な宝石をワルドに見せる。
「ま…まあ一度試してみろ…! なにかの間違いで色が変わるかもしれないからな!」
それは色が変わったら間違いが起きているということではないのか。そう思いながら俺は渋々指輪をかざした。その色は──
「変わらない。透明のままだ。おいどうするんだ、俺だけハブるのか」
「だ、大丈夫ッスよエインさん! エインさんがギルドに入れなくてもオレたちは仲間です!」
「……ふっ…そうよエイン。あなたがギルドから拒否されても仲間外れになんか…しないわ……くふふっ…!」
おい、リヒトはともかくホロスお前はバカにしてるだろ。笑いが抑えられてないぞ。
「で、本当にどうするんだよ」
俺はワルドを見つめた。いや、もしかしたら睨みつけていたのかもしれない。
ワルドは少し顔を歪め、逡巡ののち口を開く。
「……あーもうめんどくせー、もう色とかどうでもいいか。採用採用。今から魔法師名乗っていいぞ」
完全に投げ出した……
「支部長がそんな適当でいいのか」
「いい、いい、そもそも一定の魔力以下の奴をギルドに入れないってルールは本来戦えない奴をはじくためのものだ。その決まりのせいでお前みたいなやる気のある強者をはじくことになったら本末転倒だろうが」
言ってることは正論ではある。だが……
「余計なお世話かもしれないが上から怒られたりしないのか?」
「まぁなんか言われるだろうな。でもエイン、お前がちゃんと実力を示せば文句も言えなくなるだろ。だから頑張ってくれよ。あ、ホロスの嬢ちゃんもな!」
そう言ってワルドは笑ってみせた。
何はともあれこれで正式にギルドの一員だ。魔法はおろか魔力すら扱えない俺が魔法師を名乗るのも変な話だがこれでやっと魔王の情報を聞き出せる。
第23話 赤と白と透明




