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第26話 期待

「エイン~。あなた本当に強情ね」


 食事を終えた俺達は宿屋で借りた一室にいる。金の節約のためホロスとは相部屋だ。別にそれはいい。今更それを気にする関係性ではない。しかし──


「あなたもベッド使いなさいよ」


「いやいいって、俺は床で寝る」


 一つしかないベッドを一緒に使うのは話が別だ。


「まったく、なんで今更こんなこと気にするのかしら。『狭間』では……」


「ここは『狭間』じゃないだろ。それに今のお前の姿は……」


 子供そのもの。

 血縁関係のない子供と同じベッドで眠る成人男性 (16歳) やっぱりダメだろこれ。こうして改めて言葉にしてみるとより危うさを感じる。


「もういいわ! だったら私も床で寝るから」


「体痛めるぞ」


「その言葉そっくりそのままお返しするわ」


 エインとホロスの口論は続く。お互いなにやら譲れないものがあるらしい。しかし、日付を跨ぐ直前にエインが折れた。


「……寝るの早いな」


 満足そうな顔をしながら眠るホロスを見てエインが呟く。


「…確かに気にしすぎだった…かも……」


 エインの瞼も重たくなっていた。野営続きの体を包み込む布団。二人を眠りへと誘《いざな》うのに時間はかからなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「起きろホロス。今日はギルドに行く予定があるだろ」


 無事朝が到来する。先に起きたのはエインであった。


「あと5分~……」


「その言葉を吐いて本当にあと5分で起きたやつは人類史上一人もいないぞ」


「じゃあ…わたしが…さいしょのひとり…すぅー……」


 ホロスは言葉の途中で再び寝息を立てる。そしてエインは確信する。「ああ、これ絶対5分で起きないやつだ」と。


 15分後──


「流石に…起きろっ…!」


 エインは無理矢理布団をはがしホロスを半ば強制的に立ち上がらせた。


「ほら、顔洗ってこい」


「まったく…仕方ないわねー」


 ホロスは開き切ってない目を擦りながら洗面台へと向かった。


「なんで俺が呆れられてるんだ……」


 数分後──


「エイン~。髪とかして~」


 寝起きのホロスの髪は寝ぐせでぼさぼさだった。それは洗面台にいった今も変わっていない。


「そのくらい自分でやれよ」


「そのくらいって思うなら代わりにやってくれてもいいじゃない!」


 エインはため息を吐きながらも櫛《くし》を取り出す。昨日リヒトに町を案内されていた時に買ったものである。


「しょうがないな。座れ。やってやるから」


「はーい」


 ホロスは椅子に座ると大人しくエインに髪をとかされる。窓からは朝日が差し込み鼻唄まじりに時が進む。これから何度も訪れる、なんてことない朝の日常──


 ◇ ◇ ◇ ◇


「あ! エインさんホロスさん! おはようございます!」


 朝の支度を済ませ約束通りギルドに行くと既にリヒトが来ていた。横には支部長ワルドもいる。


「早いな。いや俺たちが遅かったか?」


「いいや全然、こんなもん遅刻のうちに入らねぇ。うちには遅刻常習犯が山ほどいるからな。なあ、フェルド」


 ワルドが顔を向けた先にはフェルドたちがいた。そして更にその奥にはバタバタと慌てた様子で地図を広げている受付嬢のノーリスも。


「僕はちゃんと時間守るほうじゃないですか。ただ朝が少し弱いってだけで。それでも今日は遅刻しなかった。優秀でしょう?」


「毎回そうだと助かるんだがな。ま、今はお前のことはいい。本題はこれだ」


 ワルドは一枚の紙をテーブルの上に置いた。


「これが今回お前らにやってもらいたいクエストだ」


「あ、これ本当は僕たちがやるはずだったやつだ。普通は新人にやらせる案件じゃないよ」


 一等魔法師が出向かう必要のある案件か。確かに新人がやるには荷が重そうだ。


「うるっせーなぁ! こっちにはこっちの考えがあんだよ! だからフェルド、お前はさっさと自分の仕事に戻れ!」


「いいじゃん。仕事の引継ぎもまた仕事でしょ?」


 というのは口実でただサボりたいだけなんだろうな。奥ではガデロン、リサ、ノーリスの3名が地図を見つめながらあーでもないこーでもないと話し合っている。たまにリサの視線がホロスを捉えているような気がするが気のせいということにしておこう。


「ここに描かれているのは蜥蜴人《リザードマン》かしら」


 ホロスはそんな視線に気付いてないのか気付いた上で無視しているのかしらないが今回の仕事についての話を進める。

 その指は紙に描かれている絵に向けられていた。


「蜥蜴人《リザードマン》ならオレ、倒したことありますよ!」


 《《ただ》》の蜥蜴人《リザードマン》なら俺も倒したことがある。確かに俺たちと出会う前のリヒトでも倒すことができるだろう。しかしこのクエストは本来フェルドたちが行う予定だったもの。それを踏まえると……


「こいつは普通の蜥蜴人《リザードマン》じゃないよ。蜥蜴人《リザードマン》は通常群れで行動するんだけどこいつは単独で動いている特異個体。恐らく自分の群れを自らの手で滅ぼしている」


 フェルドの説明を引き継ぐようにワルドの口が開く。


「厄介なことに最近そいつが街道沿いの交易路付近にある森に居ついちまった。しかも獰猛でな、通りかかるのが商人であろうと魔法師であろうとお構いなしに襲い掛かってくる。最近うちの二等魔法師《サファイア》一人もやられたよ」


「で、これは僕たちが調査してわかったことなんだけどこいつの縄張りに集団で入った場合襲われるのは一人だけ。その集団で一番強い人間だ。まぁ横槍を入れられれば話は別だけど」


「腕試しでもしたいのかなんなのか。とにかくリヒト、お前が襲われるってことはないだろうから安心しろ」


「それは嬉しいような悲しいような……」


 その蜥蜴人《リザードマン》が仮に相手の魔力量で強さを判断しているのであれば狙われるのはホロスか。いくら特異個体とはいえホロスが蜥蜴人《リザードマン》相手に遅れをとることはないだろう。そもそも1対1で戦う道理もないしな。


「あ、それともう一つ。この蜥蜴人《リザードマン》は剣を使って戦うよ」


 フェルドはエインに目を向けて話した。


「……へぇ」



    第26話 期待


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