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第21話 穏便にやりましょう

「ガハハ! いやー、参った参った! マジで強かったぜ」


 勝負を終えたガデロンは豪快に笑いながらフェルド達のもとへと戻る。負けたのにもかかわらずその顔は満足気だ。


「それにしてもフェルド、あいつが強いってよくわかったな」


「雰囲気が幾度となく死線を乗り越えた奴のソレだったからね。まあ予想以上というか底は見えなかったけど」


「な! あいつ最初の寸止め以外全部峰でやってたからな。こっちを気遣う余裕すらあったってことだ」


 そんな二人の会話をよそに動揺を見せる二人の女性。


「え……? これ本当に私が支部長に掛け合わないといけないやつですか……? 一体なんて説明すればいいんですか~!」


「流石にあんなにちっちゃくてかわいい子に本気を出すつもりなんてなかったけど、もし剣士くんと同じくらい強いとしたら……。どうするべきかしら……」


 一人は不用意にエイン達と約束してしまった受付嬢、そしてもう一人はホロスの対戦相手のリサだ。


「金髪の子はな~。正直僕もよくわからない。魔力量が多いのは間違いないんだけどなんかそれだけではない気がして」


 あの年齢でこの魔力の多さ、それ自体にも驚くけど保有する魔力の大小は生まれついての才能も大きく関わる。だからあの年齢で僕の倍(・)ほどの魔力量があるのもあり得ないことではないはず。多分。しかしそれだけでは片づけられない違和感。これはなんだ?


「ま、いっか。頑張れリサ」


 フェルドは思考を途中で放り投げた。


「まったく他人事だと思って」


◇ ◇ ◇ ◇


 ところかわってエインサイド。


「お見事でしたエインさん! やっぱりエインさんは最強ッス!」


「お前はいつも過剰に褒めすぎだ。ガデロンはちゃんと強かったよ。二等魔法師(サファイア)なだけはある」


「圧倒しといてそれは嫌味に聞こえるわよ」


 そうは言われてもこれは本心だ。俺は千年鍛えてやっとこの強さを手に入れた。あいつらも当然鍛えているのだろうがそれも精々10年や20年。それであの強さ。才能の違いを嫌でも突きつけられる。


 ──だが才能の話で言うと


「なんスかエインさん? 急にオレを見て」


「いや、なんでもない。それよりホロス。次はお前の番だけどどうするんだ? そりゃ負けることはないだろうがお前の攻撃手段って……」


「わかってるわ。物騒なことはしないわよ。私にもちゃんと考えがあるの」


 ホロスは指をパキパキと鳴らすと不敵に笑った。


「心配だよ。相手が……」


「そうッスね……」


◇ ◇ ◇ ◇


 そんなこんなでホロスとリサの勝負が始まろうとしていた。相対するその二人の身長差は頭一つ分以上はあるが魔法の世界において身長の差など然したる問題ではない。


「杖は使わなくて大丈夫なのおチビちゃん。見たところあなたも中距離遠距離主体の魔法師のようだけど」


「私はそんな補助具使う必要ないわ」


 そんなやりとりを終えると再び受付嬢が気の抜けた試合開始の合図を送る。

 最初に動きだしたのはリサからだった。


「“天(てん)を閉(と)ざし地(ち)を染(そ)──」


 しかし──


「詠唱? 随分と悠長なことをするのね」


 ホロスは手を前にかざし


「“密閉(クロズド)”」


「へ?」


 リサは詠唱の真っ最中に盾(シルド)によって作られた半透明な立方体の中に閉じ込められた。あまりに唐突な出来事に思わずリサの詠唱は止まる。


「どうする? そのまま魔法を放てば自分に跳ね返ってくると思うけど」


「だったら魔力強化した杖で叩き割ればいいだけよ! …って硬いわね!」


 リサは杖で盾(シルド)をガンガンと叩くが一向に壊れる様子はない。衝撃は杖を握るリサの手に響くばかりだ。


「負けを認めれば出してあげるわよ」


「ま、まだ負けてはないでしょうよ! それにそっちだってこの中には干渉できないのでしょう!?」


 観戦中のエインは脳裏にゴブリン戦のあの光景を思い出していた。

 干渉はできる……できるがあれはしてはいけない干渉の仕方というか……


「往生際が悪いわね。だったら──」


 ホロスは再び手を前にかざす。


 やるのか? いや流石にやらないよな? ……一応止めに入る準備だけはしとこう……


 エインはそっと千偽理(ちぎり)に触れた。


「“密閉(クロズド)”」


 周囲に空(から)の立方体が複数展開される。


 流石にやらなかったか。しかしこれは……。なんとなくやりたいことはわかったよ。わかったけど俺はこれも十分物騒だと思う。……まぁでも、ここは見守ることにしよう。


 エインは千偽理(ちぎり)から手を離した。


「え? え? 私これからなにされるのかしら!?」


 依然として箱に閉じ込められたままのリサの動揺の声が響く。

 気にせずホロスは手をそっと前に出して指をパチンと鳴らす。


「“爆縮(インプロージョン)”」


 そうホロスが発すると空(から)の箱の一つが一気に圧縮され、鈍く歪な音と共に押しつぶされた。


「は……え……?」


「5分の1」


「なになにその数字!? まさか…まさかやらないわよね!?」


 リサは目の前の箱が潰された事実と自身がその箱の中に閉じ込められている現実から最悪な未来を想像する。


「“爆縮(インプロージョン)”」


 ホロスは再び指を鳴らした。


「4分の1」


 今のでリサが閉じ込められている箱を含めてこの空間にある箱は残り4つとなった。


「だ…出してくださいっ…!! ホロスちゃん! いやホロスさん! ホロス様っ!!!」


 リサは箱の内側からガンガンと杖で叩き助けを求める。


「“爆縮(インプロージョン)”」


 その声虚しくホロスの魔法は止まらない。しかしリサ入りの箱はまだ残っている。


「ひっ……!」


 箱は残り3つとなった。


「そんなことより聞きたい言葉があるな~。こう~?」


 お前……性格悪いな……


 観戦中のエインはおよそ女神の行う戦い方とは思えない光景を見て頭を抱える。


「さん!! 降参!! 私の負けです!!」


 こうしてこの勝負は終わりを迎えた。いやどこが物騒なことはしないだよ。


◇ ◇ ◇ ◇


「どうエイン! 傷一つ付けずに降参させたわよ!」


 ホロスは誇らしげな顔をしてこちらに戻ってきた。

 確かにその通りではあるのだけれども。


「……ま、いっか。よくやったホロス」


「ふへへ」


「エインさんも大概ホロスさんに甘いッスよね」


 なんだよ文句あるのか。いやそんなことより──


「受付嬢さん。俺達二人とも勝ちましたよ」


「あ…あばばばばば」


 受付嬢は今にも口から泡でも吐きそうな声を発しながら白目を向いている。

 これ以上圧をかけるのは気が進まないがこればっかりは仕方ない。


「約束はちゃんと守ってもらわないとな」



    第21話 穏便にやりましょう


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